推薦者:吉川まみ(よしかわ まみ)(上智大学神学部神学科)
教会と環境
教皇フランシスコ(2021)『使途的勧告 愛するアマゾン』(カトリック中央協議会事務局訳)カトリック中央協議会
2018年1月、教皇フランシスコは、ペルーを訪問し、アマゾン川流域から集まった約2500人の先住民たちと、先進国によるアマゾン熱帯雨林の開発問題についての対話の機会を持っています。
その後、2019年10月に開催した「アマゾン地域特別シノドス」(世界代表司教会議)を経て、2021年2月2日、QUERIDA AMAZONIA を発表しています。『使途的勧告 愛するアマゾン』その邦訳版です。
日本カトリック司教団(2017)『いのちへのまなざし 増補新版』カトリック中央協議会
日本カトリック司教団は、2001年にカトリック教会の生命倫理の教書といえる『いのちへのまなざし』(初版)を発行していますが、その後の十数年の間に、福島原発事故が発生し、核のテクノロジーの大きな弊害と限界を思い知らされることになりました。また、生命科学の分野ではES細胞、iPS細胞など多くの新たな技術が登場するなど、近代の科学技術は賢明な倫理的判断を確立させる余裕をあたえないほど、その進歩の速さを増しています。
そこで、日本カトリック司教団は、『いのちへのまなざし』初版の第2章以降に全面的な改定を加え、「環境問題」「原子力発電」「格差と貧困」「差別」「戦争・暴力」などの項目も追加して2017年に増補新版を発行しています。
初版および増補新版ともに「わたしたち一人ひとり、被造物すべてのいのちをやさしさといつくしみをもって見守る神のまなざしが、わたしたち一人ひとりのまなざしとなり、すべての人が与えられたいのちを十全に生きることができるよう」にとのメッセージが添えられています。
日本カトリック司教協議会『今こそ原発の廃止を』編纂委員会編(2016)『今こそ原発の廃止を 日本のカトリック教会の問いかけ』カトリック中央協議会(英語版はこちら)
原発の問題は、核のテクノロジーの問題と言うだけでなく、環境問題であり社会の問題でもあり、人権問題でもあると言えます。
日本カトリック司教団は、東京電力福島第一原子力発電所の事故から8か月後の2011年11月8日、司教団メッセージ「いますぐ原発の廃止を~福島第一原子力発電所事故という悲劇的な災害を前にして」を発表しています。
さらに、その5年後、本書を発行し、核エネルギーによってもたらされたさまざまな惨禍を経験してきた日本として「世界各地の核被害者と連帯し、唯一の戦争被爆国として率先して核兵器廃絶を世界に訴え、あらゆる核問題の解決を世界に呼びかける特別な責任がある」との考えを示しています。 また、気候変動対策において再生可能なエネルギーを推進する諸活動などとの連帯・協働の必要性についても言及しています。
教皇フランシスコ(2016)『回勅ラウダート・シ ともに暮らす家を大切に』(瀬本正之・吉川まみ共訳)カトリック中央協議会(英語版はこちら)
2015年6月18日、教皇フランシスコが発表した環境問題についての回勅『ラウダート・シ ともに暮らす家を大切に』(LITTER ENCYCLICAE LAUDATO SI' DE COMMUNI DOMO COLENDA)の日本語版。
“ラウダート・シ”とは、アシジの聖フランシスコの太陽の賛歌の一節から付けられており、「あなたはたたえられますように」という意味です。
回勅とは、教皇が全世界の司教、全教会の信徒にあてて出す書簡のことで、教皇が公に発表するさまざまな文書のなかで最も重要なものをいいます。また、回勅の中でも、特に社会や社会問題についての教会の教えについて語っている文書を社会回勅と呼びますが、『ラウダート・シ』は社会回勅に位置付けられています。
教皇はこの中で、環境問題とは社会の問題でもあり人間の問題でもあるとして、科学技術至上主義や大量消費社会の使い捨て文化のなかで、自然だけでなく社会的弱者も同時に傷つけられていくことを繰り返し強調しています。そして、「人間性の刷新なしに、自然とのかかわりを刷新することは不可能です。適切な人間論なしのエコロジーなどありえません。」(LS.118)と、本来のあるべき人間観・世界観をもとにした「インテグラル・エコロジー」という語を提示しています。
教会と共生(教会と生命倫理)
教皇庁科学アカデミー(2020)『死のしるし 脳死と臓器移植に関する教皇庁のワークショップ』(上智生命倫理研究所監訳)上智大学出版発行
原著は、Pontifical Academy of Science, The Signs of Death. The Proceedings of the Working Group 11-12 September 2006, edited by H. E. Msgr. Marcelo Sanchez Sorondo, Vatican City: 2007で、ローマ教皇庁立科学アカデミー(Pontifical Academy of Sciences. PAS)が主催した、死の概念・基準としての「脳死」についてのワーキング・グループの記録で、Scripta Varia(研究報告集)の第110巻として2007年に発行されたもの。本書は、それを翻訳するとともに、本書の解題も兼ねた「第1部 翻訳にあたって」、各論文の「訳注」、全体についての「用語解説」を加えている。
(前ローマ教皇庁生命科学アカデミー会員で上智大学名誉教授の青木清先生、上智大学名誉教授・町野朔先生、東京女子医科大学名誉教授・寺岡慧先生はじめ12名による。)