27. Hiki, Fischer et al., 2023, Influence of water exchange rates on toxicity and bioaccumulation of hydrophobic organic chemicals in sediment toxicity tests, Environ. Sci. Process. Impacts [DOI]
底質毒性試験では、溶存酸素を供給したり、アンモニア濃度を低く保ったりするため、上層水をきれいな水に交換(=換水)することがよく実施されていますが、換水による結果への影響はほとんど考慮されていません。そこで、ヨコエビの底質試験を例に、実験と数理モデルの両方を用いて換水の影響を調べました。
結果、換水条件によって上層水中の試験物質の濃度は変化しますが、間隙水の濃度やヨコエビの致死率・体内蓄積は変化しませんでした。これは底質近傍では著しく拡散速度が下がり換水の影響が及びにくいためだと思われます。※ただしこの結果は底質への吸着度が著しく低い物質・底質の場合には適用できない可能性もあります。
ちなみに数理モデルは共同コレスポのFabian Fischerさんの開発したもの(Fischer et al., 2022)です。実験内容は割とボリュームがないのに、数理モデルによって論文を強固にしている点が個人的にお気に入りです。
18. Hiki et al., 2022, Comparison of species sensitivity distributions for sediment-associated nonionic organic chemicals through equilibrium partitioning theory and spiked-sediment toxicity tests with invertebrates, Environ. Toxicol. Chem. [DOI]
底質毒性の論文を続けてET&Cに。底質毒性試験(論文16参考)を種の感受性分布(SSD; 論文11参考)の視点でメタ解析した論文です。
底質における有機物の生態リスク評価手法として1980年代から使われている平衡分配理論(Equilibrium partitioning theory; EqP)と底質毒性試験を比較しています。生物種数が多ければ両者は同等だよ、という結論。EqPをご存じの方にとっては当たり前の論文かもしれません。非常に疎水性の高いbifenthrinなどは試験データがちょっと怪しいこともdiscussionでは議論しています。
論文11と論文12のデータと手法を再利用して、気楽に短く書いた論文ですが、査読対応でdiscussionがかなり分厚くなりました。
16. Hiki et al., 2021, Spatiotemporal distribution of hydrophobic organic contaminants in spiked-sediment toxicity tests: Measuring total and freely dissolved concentrations in pore and overlying water, Environ. Toxicol. Chem. [DOI]
非イオン性の有機物質を対象にした底質毒性試験のお話。上層水・間隙水中の試験物質のフリー溶存濃度と総溶存濃度(=フリー溶存濃度+溶存有機物への吸着態の濃度)を経時的に測定して、底質毒性試験は平衡状態とは決して言い難いことを示した論文。
N先生代表の環境研究総合推進費の成果です。姉妹論文的なFischer et al. (2021) が先に出来て、それに合わせるために1.5ヶ月ほどでE先生たちと急ピッチで執筆しました。若干寄せ集め感もある論文になっています。
テーマ自体は古くからあるものですが、この論文のようにパッシブサンプリングを「スパイク」底質試験に応用した研究は割と少ないです(汚染環境底質の試験に適用した例はかなり多い)。
12. Hiki et al., 2021, Sources of variation in sediment toxicity of hydrophobic organic chemicals: Meta-analysis of 10–14 day spiked-sediment tests with Hyalella azteca and Chironomus dilutus, Integr. Environ. Assess. Manag. [DOI]
有害物質を添加した底質にユスリカやヨコエビなどの底生生物を曝露して毒性を評価する底質毒性試験のメタ解析論文。これも11と同じく、一部はコロナ禍による自宅就業の成果です。
底質毒性試験における諸条件(換水の割合とか、どういう種類の泥を使うかとか)のレビュー的な内容。一番大事なポイントは、人工底質を使うと毒性値が低くなりがち(=毒性が高くなりがち)ということ。人工底質に使われるセルロースなどの分配係数Kocが低いために有害物質のbioavialabilityが高くなるから、というのがおそらくの理由です。
人工底質といっても、セルロースとピートモスでは性質がかなり異なるため、本当は別々にしたかったのですが、それほどデータ数がなく、仕方なくまとめて「人工底質」として扱いました。
6. Hiki et al., 2019, Sediment toxicity testing with the amphipod Grandidierella japonica and effects of sediment particle size distribution, J. Water Environ. Technol. 17(2):117–129. [DOI]
東京湾にそそぐ河川と東京湾内湾から底質を採取し、ヨコエビを用いた室内の曝露試験をおこなった論文。これで博士論文のデータはほぼ出し切りました。急性の致死影響はどの底質でも見られませんでしたが、成長阻害を引き起こした底質は見つかりました。
Supporting Infoにニホンドロソコエビの生活史を載せてます(右図)。
4. Hiki et al., 2017, Duration of life-cycle toxicity tests with the ostracod Heterocypris incongruens, Environ. Toxicol. Chem. 36:3443–3449. [DOI]
このページに解説あり。後輩のT君がおこなったカイミジンコ卒論を元に、個体群推移行列モデルを作り「個体群増加率を指標としたリスク評価的には、休眠卵は考慮しなくても良いんじゃない?」と提案した論文。T君の卒論データを出すことが論文化の主目的(+個人的なデータ解析の遊び)で、ゴリ押し感は否めません。
Introで少し言及してますが、休眠卵の存在は不安定な環境下で絶滅確率を下げることには貢献しているだろうから、個体群増加率を用いた評価だけで論じるのは不適切だ、という指摘はあると思います。それでもリスク評価をおこなうためには、どこかで割り切らなければならないのも事実なので、こういう方向性の論文も意義はあるんじゃないでしょうか。
25. Hiki & Yamamoto, 2022, The tire-derived chemical 6PPD-quinone is lethally toxic to the white-spotted char Salvelinus leucomaenis pluvius but not to other two salmonid species, Environ. Sci. Technol. Letters [DOI]
論文15, 20に続いて、タイヤゴムに含まれる6PPDのオゾン酸化物6PPD-キノンに関する研究。国内に生息するサケ科魚類3種(イワナ、オショロコマ、ヤマメ)への急性致死毒性と脳・鰓への取り込みを調べました。
サケ科の中でも6PPD-キノンへの感受性に差があることはMcIntyreら(2021)やBrinkmannら(2022)などで知られていましたが、この論文でもイワナにはLC50が0.51 µg/Lという低濃度で影響があるのに、他の2種には環境中で生じうる最高濃度レベル(設定10 µg/L)で曝露しても影響が見られなかったことを報告しています。また、影響の見られなかった2種も6PPD-キノンを脳・鰓に相当量取り込んでいること(=イワナなら死亡するレベル)も明らかになりました。
20. Hiki & Yamamoto, 2022, Concentration and leachability of N-(1,3-dimethylbutyl)-N′-phenyl-p-phenylenediamine (6PPD) and its quinone transformation product (6PPD-Q) in road dust collected in Tokyo, Environ. Pollution [DOI]
論文15に続いて、タイヤゴムに含まれる6PPDのオゾン酸化物6PPD-キノンに関する研究。東京都で採取した路面粉塵(道路塵埃)の6PPD-キノン濃度を報告しています。
6PPD-キノン濃度と光化学オキシダント濃度(オゾン濃度の代替)には相関があることなどを議論しています。環境研究所にいながら、地上のオゾン濃度が季節によって時に2倍近く変動することを初めて知りました…。
道路塵埃を早朝にサンプリングしていたら、職務質問を受けました。
15. Hiki et al., 2021, Acute toxicity of a tire-rubber derived chemical, 6PPD quinone, to freshwater fish and crustacean species, Environ. Sci. Technol. Lett. [DOI]
タイヤに酸化防止剤として含まれる6PPDが環境中で酸化されて生じる6PPD-quinone。降雨によって河川に流出し、ギンザケを死亡させていることが2020年12月のScience誌で発表されました。
「ギンザケ以外ではどうなの?」ということで、急遽6PPD-quinoneを合成していただいて、生態リスク評価に用いられる典型的な水生試験生物種で6PPD-quinoneの急性毒性を調べた論文です。結果、水溶解度以下(<100 μg/L)ではいずれの種にも影響が見られず、ギンザケに対する強毒性(24h-LC50: 0.8 μg/L 約0.1 µg/L)とは大きな隔たりがありました。この差の原因はまだ分かっていません。
タイトルは「Absence of acute lethal toxicity ...」にした方が良かったかなと出版後に思いました。
8. Hiki et al., 2019, Identification of antioxidant genes in the ostracod Heterocypris incongruens through de novo transcriptome sequencing, J. JSCE. 7(1):133-142. [DOI]
後輩のT君の修士論文をベースにした論文。カイミジンコを道路塵埃に曝露させて、リアルタイムPCRで複数の遺伝子発現を調べています。リアルタイムPCRの結果はパッとしませんが、これまで遺伝子情報がなかった生物種についてトランスクリプトーム情報を報告したという点で、リソースとしての価値は高いと思います。実験は全てT君がおこない、日置は研究計画立案や原稿執筆、データ解析などで協力しました。
7. Hiki et al., 2019, Whole transcriptome analysis of an estuarine amphipod exposed to highway road dust, Sci. Total Environ. 675:141-150. [DOI]
論文1~3の流れにある研究です。道路塵埃に曝露させたヨコエビの遺伝子発現をRNA-Seqで網羅的に解析しています。
3. Hiki et al., 2017, Application of cDNA-AFLP to biomarker exploration in a non-model species Grandidierella japonica, Ecotoxicol. Environ. Saf. 140:206–213. [DOI]
cDNA-AFLPという古典的な遺伝子発現解析手法を生態毒性分野に応用した研究。この論文でも道路塵埃にヨコエビを曝露させて、その遺伝子発現応答を調べています。
1. Hiki & Nakajima, 2015, Effect of salinity on the toxicity of road dust in an estuarine amphipod Grandidierella japonica, Water Sci. Technol. 72(6): 1022-1028. [DOI]
修士論文の一部を元にした論文。降雨時に水環境に流出し、生態系へ悪影響を及ぼす懸念のある道路塵埃(路面上の堆積物)の毒性を、ヨコエビを用いた室内曝露試験で調べた研究です。「周りの塩分が上がるとヨコエビに対する道路塵埃(路面上の堆積物)の毒性も上がるよ~。でも何故かは分からんよ。」な内容。
マイクロプラスチック問題のおかげ(?)で近年ホットになってきたマイクロビーズを食べさせる実験もおこなってます。
36. Hiki and Jo, 2025, Comprehensive Sequencing of Environmental RNA from Japanese Medaka at Various Size Fractions and Comparison with Skin Swab RNA, Environ. DNA 7(3): e70137. [DOI]
メダカ水槽の水を3種類の孔径のろ紙で連続ろ過して、環境RNAを網羅的にシーケンスした論文です。0.4~3 μmの画分はバクテリアRNAが大量にあってメダカ由来のRNAが少ないのに対し、3~10 μmや> 10 μmの画分は比較的メダカ由来のRNAの種類や量が多いという結果を示しました。この結果から、健康診断目的で環境RNAをサンプリングするなら3~10 μmのろ紙を使おうと提言しています。
34. Hiki, 2025, Detection of functional environmental RNA (eRNA) genes from macro-organisms: Implications from re-analysis of non-laboratory metatranscriptome studies, J. Water Environ. Technol 23(4): 195-203. [DOI]
「環境RNAは本当に野外で使えるのか」という疑問に対して、既存文献の再解析による回答を試みた論文です。カキの孵化場と水族館という、半オープン(?)みたいな環境でもマクロ生物由来の環境RNA(例:toll-like receptor 4, elovl1)を検出することは可能であることを示しています。でもやっぱりRNAはそれなりに分解しているようです。
30. Hiki et al., 2024, Relative gene expression analysis of catalase in environmental RNA from Japanese medaka exposed to toxic chemicals, Environ. DNA 6(2): e532. [DOI]
下の論文29に引き続き、環境RNAを用いた生物の健康状態評価に関する論文。この論文では、定量PCRを使用した相対遺伝子発現評価を試みています。細胞や組織の定量PCRでいわゆるハウスキーピング遺伝子として用いられる遺伝子(β actin, elongation factorなど)が環境RNAとしても検出できることなどを報告しています。
29. Hiki et al., 2023, Environmental RNA as a noninvasive tool for assessing toxic effects in fish: A proof-of-concept study using Japanese medaka exposed to pyrene, Environ. Sci. Technol. 57(34): 12654–12662. [DOI]
生物の皮膚、尿、糞などから周囲の水や空気に排出されるRNA(=環境RNA)を調べることで、そのRNAを排出した生物の健康状態を使用できるのではないか、というアイデアを検証した論文。環境RNAからメダカの遺伝子1110種を検出できたことや、ピレンという物質に曝露することで環境RNAのプロファイルが変化したことなどを報告しています。また、ミトコンドリア遺伝子より核遺伝子の方が、分解が進んでいることなども副次的に明らかにできました。
国立環境研究所の所内予算で2022年度の1年間実施した研究です。非侵襲的な生理状態の評価ツールとして環境RNAを活用する研究をこれからも進めていく予定です。
28. Hiki et al., 2023, The complete mitochondrial genome of water flea Ceriodaphnia dubia (Crustacea: Cladocera) NIES strain, Mitochondrial DNA Part B 8(8): 831-835. [DOI]
17. Hiki et al., 2021, The complete mitochondrial genome of the non-biting midge Chironomus yoshimatsui (Diptera: Chironomidae), Mitochondrial DNA B 6(10): 2995-2996. [DOI]
国立環境研究所のアクアトロンで、毒性試験用に分譲している水生生物のミトコンドリアゲノムを報告したもの。哺乳類の世界では各系統のゲノムを明らかにすることは当たり前にされていますが、生態毒性の分野ではまだまだそのような状況に至っていません。全ゲノムを公開出来れば良いのですが、片手間でやっているのでそこまでは及ばず。とりあえず生のシーケンスデータとミトコンドリア全長の情報を公開して、次につなげたいところです。ニセネコゼミジンコのミトコンドリアゲノムは、Illuminaのショートリードではうまくつながらず、Nanoporeのロングリードを使いました。
10. Hiki et al., 2020, The complete mitochondrial genome of the estuarine amphipod Grandidierella osakaensis (Crustacea: Amphipoda), Mitochondrial DNA B 5(3): 323-3324. [DOI]
9. Hiki et al., 2020, The complete mitochondrial genomes of two amphipod species of the genus Grandidierella (Crustacea: Amphipoda), Mitochondrial DNA B 5(2): 1535-1536. [DOI]
ドロソコエビ(Grandidierella)属のミトコンドリアDNA配列の報告。ニホンドロソコエビ(G. japonica)のゲノム配列解析のための布石報告として出したもの。当初は9の2種のみを報告する予定でしたが、コロナ禍の在宅時に暇だったので10のオオサカドロソコエビ配列も追加で投稿しました。唐突な依頼にも関わらず標本を送って下さったAさんに大感謝。
5. Hiki et al., 2018, De novo transcriptome sequencing of an estuarine amphipod Grandidierella japonica exposed to zinc, Mar. Genomics 39:11–14. [DOI]
データリソース。これまで網羅的シーケンシング報告例のないニホンドロソコエビという種でRNA-Seqしたよ~、という論文。
EN1. Hiki ... Iwasaki, 2025, Harnessing the taskforce on nature-related financial disclosures (TNFD) for chemical risk management with integrated ecotoxicology and ecology, Environ. Toxicol. Chem. 44(2): 303−305. [DOI]
ネイチャーポジティブを達成するための枠組みであるTNFDをきっかけにして、環境化学・毒性学が更なる発展を遂げようと述べた意見論文です。環境化学物質合同大会での自由集会の成果をもとに書きました。
論文という形式上アカデミア向けに書いているのでこういう論旨ですが、同時に企業向けに「環境化学・毒性学にはこういうツール・手法がありますよ」「ぜひ使ってください」という宣伝にもなれば良いなと思っています。
11. Hiki & Iwasaki, 2020, Can we reasonably predict chronic species sensitivity distributions from acute species sensitivity distributions?, Environ. Sci. Technol. 54(20): 13131-13136. [DOI]
化学物質のリスク評価などに使われている種の感受性分布(SSD)。急性試験のデータに基づくSSDと慢性データに基づくSSDを比較した論文です。慢性SSDのHC5(5%の種が影響を受ける濃度)は急性SSDのHC5の1/10で、その比率は物質の作用機序(MoA)に依らないという結果などを示しています。いわゆる急性慢性比(ACR)のSSD版ですね。
これまでの論文は自分の実験データから出発するものばかりでしたが、この論文は公開されているデータベースを再解析したもの。アプローチが異なるため、個人的にとても勉強になりました。コロナ禍で実験できなかった時の産物です。解析は荒いのですが、急性-慢性の比率が10:1になるという結論は割とロバストだと思います。ただ作用機序との関係は改善の余地がある気がしてます。
↑ボツにしたgraphical abstract