私たちが呼吸する酸素、食べる食物、燃やすエネルギー。そのすべての源をたどると、光合成にたどり着きます。
光合成というと緑の植物を思い浮かべるかもしれません。しかし、地球全体の一次生産(光合成による有機物生産)の約半分は、海洋の藻類が担っています。珪藻、ハプト藻、クリプト藻、これらの多くは茶色や黄金色をしていて、私たちが普段目にする緑の植物とは全く異なる進化の道を歩んできました。皆さんにも昆布やわかめといった褐色をした藻類は馴染みがあるかと思います。それらの海洋の藻類は現在の地球環境だけでなく、その過去の、そして未来の変遷にも重要な役割を担っています。
細胞内共生という"合体進化"
なぜ、これほど多様な光合成生物が存在するのでしょうか?
その答えは、細胞内共生という驚くべき進化イベントにあります。約10億年以上前、ある真核生物がシアノバクテリア(光合成を行う細菌)を細胞内に取り込み、消化せずに共生させました。このシアノバクテリアがやがて葉緑体になったのです(一次共生)。
驚くべきことに、この「合体」は一度では終わりませんでした。一次共生で葉緑体を獲得した藻類(紅藻や緑藻)が、さらに別の真核生物に取り込まれる、二次共生が繰り返し起こったのです。珪藻、ハプト藻、クリプト藻など、現在の海洋で繁栄している藻類の多くは、この二次共生によって誕生しました。
光捕集系の多様性: 進化の"指紋"
光合成の中心にあるのは、光を化学エネルギーに変換する光化学系というタンパク質複合体です。その「コア」部分はシアノバクテリア以来、ほとんど変わっていません。
太陽光のエネルギーは強いように思えますが、粒子としての光子の密度は実はとても低いのです。そのため、光化学系で反応を行うのに、光化学系コアが有する色素が吸収する光だけでは、とても生命のエネルギーを賄うことはできません。そこで、光化学系は、光を集める「アンテナ」 (光捕集系) を有するようになりました。光捕集系は、多くの光合成色素を結合したタンパク質複合体の集合です。光捕集複合体の一つ一つはそれほど大きな複合体ではありませんが、いくつも結合することでひとまとまりの大きな光捕集系として働いています。
そしてこの光捕集系は光化学系コアと比較して驚くほど多様です。例えば、以下のように生物群によって異なる光捕集系を有しています。
・緑藻や陸上植物:クロロフィルa/bを持つLHC (光捕集複合体 Light-harvesting complex)
・紅藻:フィコビリソーム (ビリン系色素) とクロロフィルaを持つLHC
・珪藻やハプト藻:クロロフィルa/cを持つLHC (FCPともいう)
この光捕集系のうち、LHCは共通の祖先配列が存在しており、その配列が受け継がれ、多様化する過程で、異なる色素を結合する能力を得たり、タンパク質超複合体で異なる位置に結合する能力を獲得したりしました。この多様性は、細胞内共生の歴史と、その後の環境適応を反映しています。光捕集系を調べることで、「どの生物がどの生物を取り込んで、どう変わったか」、「その生物の得意とする環境を反映した環境適応」という進化の足跡を読み解くことができるのです。私の研究では、この光捕集系 (LHC) の進化と多様化を、生化学・構造解析・分子系統解析から明らかにしようとしています。詳しくは、少し専門的にはなりますが、以下の「Projects」と「詳細な研究背景」をご覧ください。
基本的に、光化学系–光捕集系複合体 (PS–LHC) の分離 (生化学) やそれを構成する配列を探すこと (in silicoでの解析)、さらに見つけた配列を分類群横断的に分子系統解析することによって、その多様化や欠損の過程を推定することを得意としています。
また、共同研究でタンパク質複合体の立体構造解析、時間分解蛍光などの分光解析、色素分析 (いずれは自前でできるようにしたい) を行っています。
クリプト藻由来の光化学系を有し、不等毛藻由来の光捕集系を持つ、すなわちキメラな由来の光化学系–光捕集系複合体 (PS–LHC) を持つハプト藻に注目し、PS–LHCがどのように形成されたのかを、「ある切り口」から明らかにすることを目標にしている。
特定の海洋環境では、その海洋を特徴づける要素がその光合成、特に光捕集戦略を規定する進化圧となる。このプロジェクトではある特定の環境で優占する複数の種に着目し、そのPS–LHCを分離、精製し、構造解析・分光解析・色素分析・分子系統解析を行うことで、光捕集戦略を明らかにする。
専門的になるので、学生さんはざっくりと読んでくださると助かります。
全てを理解しようとしなくても大丈夫です。
水圏で、海洋で、最も繁栄している酸素発生型光合成生物は藻類である。しかし、藻類と言っても、その分類群は多岐にわたる。まず、原核生物であるシアノバクテリアとそれ以外の真核光合成生物に分けられる。真核光合成生物は、シアノバクテリアが初めて細胞内共生と続くオルガネラ化によって葉緑体 (色素体) となって以来、紅藻、緑藻、灰色藻 (かいしょくそう) の3グループに分岐した。このうち緑藻は、そのうちの一群であるストレプト藻がやがて、コケ植物の祖先を生み出し陸上化し、陸上植物を生み出した。この緑藻の進化と光合成の関係については、北海道大学 低温科学研究所 生物適応研究室の高林先生が詳しいので、詳しく知りたい場合は彼に聞いてほしい。
紅藻は大きく2つのグループに分けられ、ノリなどを含む紅藻亜門 (Rhodophytina) と、温泉紅藻シゾンなどを含むイデユコゴメ亜門 (Cyanidiophytina) に分けられる。このどちらか、もしくはその近縁だが絶滅した系統から細胞内共生したのかはまだよくわからないが、いずれにせよ紅藻が、異なる真核生物に細胞内共生することでクリプト藻は成立した。イデユコゴメ亜門で最も初期に分岐したガルディエラの光化学系Iの構造とその光捕集系の進化の過程を報告した (Kato, Kumazawa et al., Sci. Adv., 2025)。
クリプト藻 (Cryptophyta) は面白い生物である。紅藻の核の痕跡器官であるヌクレオモルフを有し、その光合成の仕組みの一部にも紅藻の名残を有している一方で、光捕集系は「変化の遍歴を追うことができる程度にほどほどな強度の」再編成を受けているために、紅藻とは異なるもののユニークな構成をしており、その変化の変遷は熊沢らが2024に報告した (Kumazawa and Ifuku, iScience, 2024)。日本語でも解説を兼ねた記事を書いているのでぜひ読んでみてほしい (熊沢, 伊福, 低温科学, 2025)。
クリプト藻はさらに2つの藻類群の成立に寄与している。1つ目が不等毛藻 (HeterokontsもしくはOchrophyta) である。不等毛藻はクリプト藻を細胞内共生で取り込むことで色素体を獲得したとされている。ところがこの時の細胞内共生は「変化の遍歴を追うには困難な程度には激しい」遺伝的撹乱があったようで、光捕集系は一新された。具体的には、紅藻・クリプト藻が有していたLhcrサブファミリーの光捕集タンパク質LHCの他に新たに、Lhcq、Lhcf、CgLhcr9-group、Lhcxを獲得した (Lhczはクリプト藻にて獲得されていた)。この不等毛藻でLhcxを介した光化学系の強光に対する精密な防御機構である非光化学的消光 (Non-photochemical quenching; NPQ) が獲得された (Kumazawa et al., BioRxiv, 2025)。
クリプト藻が成立に関与したもう1つの藻類群はハプト藻 (Haptophyta) である。ハプト藻はその色素体ゲノムの由来はクリプト藻にあり、一方、核ゲノムにコードされた色素体に輸送されるタンパク質の遺伝子の多くは不等毛藻由来である。そのため、どういった順番で生じたかは不明だが、クリプト藻と不等毛藻の両方が細胞内共生などのイベントによって、ハプト藻の色素体の成立に関与したと考えられている。
もう1つ、藻類の大きなグループには渦鞭毛藻というのがある。渦鞭毛藻は、有毒赤潮を形成する種や、サンゴに共生している種など様々な種が存在しているが、進化的な経緯に関してはかなりややこしい。今回は割愛させていただく。
こうして成立した多様な藻類群のうち、色素体の由来を紅藻に持つ、紅藻、クリプト藻、不等毛藻、ハプト藻 (、渦鞭毛藻) を紅色進化系統藻類と呼ぶ。一方、詳しくは説明しなかったが、緑藻とその二次共生藻類であるユーグレナ藻、クロララクニオン藻を緑色進化系統藻類と呼ぶ。
藻類の光合成のうち、光を獲得しエネルギーを化学エネルギーとして取り出す電子伝達系に着目している。電子伝達系の多くの仕組みは陸上植物でわかっていることと共通している。一方で、藻類はその生息環境で陸上植物とは異なる進化圧を受けている。それは特異な光環境と栄養条件である。
水中では、他に藻類がほとんど存在しない場合、太陽光の広い可視光線のスペクトルのうち、主に青い光が透過し優占する。藻類が浅い部分に存在する場合には、その藻類が「吸収し損なった」光が深い部分に透過することになる (Maayke Stomp et al., ISME J., 2007)。特異な光環境では特殊な光捕集タンパク質LHCを持つことで光合成を成立させている例も知られている (小杉, 低温科学, 2025)。
もう1つが栄養条件である。一般に海洋は窒素、リン、鉄、コバルト、ビタミンB12、マンガン、亜鉛、珪酸が藻類の成長を律速する栄養素となっている (Browning and Moore., Nat. Comm. 2023)。ここでは多くは述べないが、これに関連した研究を展開している。
藻類の光合成で最も特徴的 (で個人的には最も面白い) と言ってもいいかもしれないのは、その光捕集系の多様性である。
光化学系は、電荷分離の光化学反応を行う反応中心の周囲に、光化学系IIの場合はCP43とCP47、光化学系Iの場合はPsaAとPsaBのそれぞれ一部がコアアンテナと呼ばれる光捕集に使われるクロロフィルを結合した部分を有している。しかし、反応中心あたり結合している光合成色素 (この場合はクロロフィルやカロテノイド、シアノバクテリアや紅藻、クリプト藻の場合はビリン系色素も含む) の数は、連続的な電荷分離を行うには遠く及ばず足りていない。そのため、コアアンテナの周囲に、周辺アンテナと呼ばれる光捕集系を有している光合成生物がほとんどである。また逆に、光捕集系と言った場合には一般には周辺アンテナのことを指している。
光捕集系は酸素発生型光合成生物 (シアノバクテリア+ (陸上植物含む) 真核藻類) では3種類ある。ビリン系色素を有するフィコビリソームやフィコビリタンパク質、基本的にクロロフィルaを有するCP43ファミリーに属するIsiAなどのPcbタンパク質複合体と、3回膜貫通タンパク質でクロロフィルaまたはa/bもしくはa/cに加え、系統に特徴的なカロテノイドを結合した光捕集複合体LHC (Light-harvesting complex) である。私はこのうち、LHCを対象に進化・適応を調べている。最近の報告をまとめて日本語で書いた総説記事があるのでぜひ読んでほしい (熊沢, 伊福, 低温科学, 2025)。