東京確率論セミナー
※ 令和5年度の予定に関しては,新しいウェブサイト(こちらをクリック)をご覧ください.
日時:月曜日,16:45~18:15
場所: 慶應義塾大学日吉キャンパス第4校舎独立館D310教室(対面形式の場合)
*日時・場所・講演形式(対面またはオンライン)は変更される場合がありますので,念のため各セミナーの項目をご確認ください.
【幹事】
厚地淳 (慶應義塾大学理工学部数理科学科)
河備浩司 (慶應義塾大学経済学部数学教室)
久保田直樹(日本大学理工学部一般教育教室数学系列)
鈴木由紀(慶應義塾大学医学部数学教室)
種村秀紀(慶應義塾大学理工学部数理科学科)
*講演募集とメーリングリストの「新規登録/登録アドレス変更/登録アドレス抹消」等は随時行っていますので,何かございましたら幹事にご連絡ください.
2022年度
2023年3月20日(月)
14:30〜16:00
講師: 白井朋之 氏(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)
題目 : α行列式点過程のポアソン表現
概要:行列式点過程はランダム行列(GUE)の固有値およびその極限を記述できる点過程のクラスで,離散空間上では一様全域木なども記述できる.最近では機械学習など応用分野でも注目を集めており,多くの人に知られるようになっている.一方,α行列式点過程は行列式点過程の相関関数に着目して1-パラメータ拡張したものであるが,正値性の問題もあり,行列式点過程に比べると議論は少ない.本講演では,特別なクラスのα行列式点過程のポアソン表現を中心に関連の話題に触れる予定である.
16:30〜18:00
講師:今野紀雄 氏(横浜国立大学大学院工学研究院)
題目 : ゼータ対応の数理
概要:ここ数年にわたる我々の一連のゼータ対応シリーズは,無限グラフに関する先行結果を,離散時間のグローヴァー型量子ウォークに対する今野・佐藤の定理 (2012) をトーラスに適用することにより同じ表式が導出可能であることに気づくことから誕生した.
それ以降,ある種の「新しいタイプのゼータ関数」を適宜導入することにより,グローヴァー型だけでなく,全ての量子ウォークでも適用可能であり,また,ランダムウォーク,相関付ランダムウォーク,開量子ランダムウォーク,さらに,量子ウォークの正台のような通常の意味でウォークといえないモデルまで扱えることが明らかになった.
一方,上述の一粒子系だけでなく,多粒子系(確率セルオートマトンや量子セルオートマトンなど),また対応する連続時間モデルまで拡張可能であることも分かった.ごく最近では,数論,トロピカル幾何,可積分系とも密接な関連があるマーラー測度やロンキン関数との関係も見いだされている.
本講演では,量子ウォークを一つの軸とし,ゼータ対応に関連する幾つかの話題を紹介したい.
参考文献:今野紀雄, 『量子ウォークからゼータ対応へ — ゼータ関数を通して眺める数理モデル』, 日本評論社(2022)2023年1月23日(月)
講師:正宗淳 氏(東北大学大学院理学研究科)
題目:非完備リーマン多様体のラプラシアンの自己共役拡張について
概要:リーマン多様体には、ラプラシアンの本質的自己共役性と密接に関係する二つの相異なる自然な(2-2 型の)容量が定義される.本講演では,それらの間の関係および truncation property に関する,Micheal Hinz 氏,鈴木 康平氏との共同研究で得られた成果を報告する.2023年1月16日(月)
講師:江崎翔太 氏(福岡大学理学部)
題目:SDE representation of overlaps associated with non-Hermitian matrix-valued Brownian motion
概要:本講演では,非エルミート行列値ブラウン運動の固有値・固有ベクトルから与えられる確率過程について述べる.非エルミート行列値ブラウン運動とは,$N \times N$行列で, 各成分が独立な複素ブラウン運動で与えられるものをいう.この行列値確率過程は,Ginibre ensembleというランダム行列モデルの時間発展に対応する.行列値ブラウン運動において,例えばエルミート対称性を仮定するエルミート行列値ブラウン運動に対する固有値過程等は従来よく研究され,その固有値過程は$\beta=2$のダイソンブラウン運動のSDEの解として表されることが知られている.
一方,本研究で述べる非エルミート行列値ブラウン運動の固有値過程は固有値だけで閉じたSDEの解として表すことは困難であり,固有値過程と固有ベクトル過程を合わせた形でSDEを与えることとなる.ところが,一般に行列から固有ベクトルは一意的に定めることができないため, 固有ベクトルの時間発展を伊藤の公式を用いて表現するには固有ベクトルの定め方に注意が必要である.
本講演では, 行列のオーバーラップと呼ばれる量の時間発展を考え,時間発展のSDE表現を与える. オーバーラップは行列の非正規性を表す量であり,かつ,固有値過程の二次変分に現れるため,固有値・固有ベクトル過程を解析する上で重要である.我々の与えた表現公式から,オーバーラップの時間発展は,ある意味で固有ベクトルの定め方に依存しないことが見て取れる.
本研究は藪奥哲史氏(北九州高専)との共同研究である.2022年12月26日(月)
講師:坂井哲 氏(北海道大学大学院理学研究院)
題目:量子摂動に対するIsing模型の臨界現象の安定性
概要:古典Ising模型は,磁石の統計力学モデルとして不動の地位を確立している.本講演では,量子Ising模型 (別名「横磁場Ising模型」) を考察し,量子摂動が十分小さいとき,古典の場合と同様に,高次元 d>4臨界現象が平均場的なものに退化することを解説する.
尚,本講演は,上島 芳倫 氏 (台湾NCTS) との共同研究に基づく.2022年12月12日(月)
講師:鈴木由紀 氏(慶應義塾大学医学部)
題目:A diffusion process in a non-selfsimilar random environment
概要:本講演では, ある自己相似性をもたない1次元ランダム媒質中の拡散過程について考察する.考えるランダム媒質は数直線の正側と負側で種類が異なる.ここで扱う確率過程のクラスには再帰的な過程と推移的な過程の両方の過程が含まれている.講演では,この過程の長時間後の漸近挙動に関する結果を報告する.2022年12月5日(月)
講師:Xue-Mei Li 氏(EPFL)
題目:Progress in multi-scale dynamics
概要:In this talk, I shall explain recent progress on multi-scale stochastic systems, focusing on correlated fractional Brownian motion noise and aspects of the results and technics applying also to classical stochastic differential equations. In particular we bridge the gap between averaging principle and diffusion creation, and time permit to discuss also fractional dynamics.2022年11月28日(月)
講師:北川潤 氏(Michigan State University)
題目:Sliced Wasserstein距離の幾何構造に関して
概要:Sliced Wasserstein 距離とは主にWasserstein 距離より計算が簡単とのことで代用とされている確率測度空間上の距離である。本講演ではこのsliced Wasserstein 距離を含む距離のtwo parameter familyの紹介をする。本来のWasserstein 距離との違いに焦点を置き, 注意喚起の意味も込めて基本的な構造の解説をする。
本講演は 高津 飛鳥 氏 (東京都立大学) との共同研究に基づく。2022年11月21日(月)
講師:林晃平 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:Derivation of coupled KPZ equations from interacting diffusion processes driven by a nonlinear potential
概要:We consider multi-species interacting diffusion processes, whose dynamics is driven by a nonlinear potential, and study asymptotic behavior of fluctuation fields associated with the processes in the high temperature regime under equilibrium. As a main result, we will show that the family of the fluctuation fields converges to a system of coupled KPZ equations provided one can take a common value of macroscopic velocity of the system for each species. Our approach is based on a Taylor expansion argument which extracts the harmonic potential as a main part. This argument works without assuming a specific form of the potential and thereby the coupled KPZ equations are derived in a robust way. Moreover, when values of velocity vary componentwise, we will give a strategy to find proper fields to obtain a nontrivial limit.2022年11月14日(月)
講師:市原直幸 氏(青山学院大学理工学部)
題目:内向きドリフト項を持つ確率的変分問題の最適軌道とHJB方程式の一般化主固有値について概要:内向きドリフト項と無限遠方で0に減衰する正のポテンシャル項を持つ確率的変分問題について考察する.特に,ポテンシャル項に含まれる実数パラメータを変化させるとき,最適軌道の長時間挙動がどのように変化するのかに興味がある.本講演では,確率的変分問題に付随するエルゴード型HJB方程式の一般化主固有値を調べることにより最適軌道の再帰性/過渡性が判定できることを示す.
本講演内容の一部は E. Chasseigne氏(University of Tours)との共同研究に基づく.2022年11月7日(月)
講師:楠岡誠一郎 氏(京都大学大学院理学研究科)
題目:特異確率偏微分方程式と従来の確率解析の違いについて
概要:Regularity Structure や Paracontrolled Calculus といった理論が現れたことにより, 繰り込みを必要とするような特異なノイズを入れた非線形確率偏微分方程式が盛んに研究されている。これらの理論で扱っている手法は従来の確率微分方程式や確率偏微分方程式の手法とは異なっているため, 従来の手法と同様の議論ができるのかどうか不明確な部分がある。特に, 方程式の極限操作, 経路依存型係数, 方程式の変形は, 確率微分方程式の理論においては気を付けて議論しなくてはいけない部分である。この講演ではこれらの違いに着目し, 確率微分方程式の枠組みにおいて具体例を作ることにより, 特異確率偏微分方程式を扱う際の注意すべき点を挙げる。2022年10月31日(月)
講師:中山季之 氏(三菱UFJ銀行)
題目:確率偏微分方程式の解と閉集合の距離
概要:本講演の目的は,状態空間のある部分集合の付近に初期値をもつ確率偏微分方程式の解が,当該部分集合の付近に留まるための条件を明確にすることである.確定的な偏微分方程式に対しても新しい結果である.具体例として,部分集合が有限次元の境界付部分多様体の場合や数理ファイナンスにおける金利モデルへの応用例も述べる.
本講演はStefan Tappe氏との共著論文``Distance between closed sets and the solutions to stochastic partial differential equations”, https://arxiv.org/abs/2205.00279に基づく.2022年10月24日(月)
講師:桑江一洋 氏(福岡大学理学部)
題目:非正パラメータmに対する非負Bakry-Émery リッチ曲率でのV-調和写像のLiouville 型定理
概要:この講演は,李向東 氏 (中国科学院), 李宋子 氏 (中国人民大学),櫻井陽平 氏 (埼玉大学)との共同研究に基づく.完備リーマン多様体間のC^2-写像でC^1-ベクトル場Vで摂動したテンション場で消えるものをV-調和写像と呼ぶ.非負パラメータmで記述される非負Bakry-Émeryリッチ曲率の条件下と種々のラプラシアン比較定理とそれに応じたV-調和写像の増大度の条件下で,アダマール多様体値V-調和写像が定数に限ることを報告する.証明は確率論的に紹介するが, 純粋な幾何解析な証明も可能である.また合わせて正則測地球値V-調和写像に対するLiouville 型定理についても述べる.2022年10月3日(月)
講師:河備浩司 氏(慶應義塾大学経済学部)
題目:A graph discretized approximation of diffusions with drift and killing on a complete Riemannian manifold
概要:(コンパクトとは限らない)完備なRiemann多様体をグラフで離散化し,このグラフ上のkillingを持つ非対称な離散時間ランダムウォークを考える。本講演では, ある幾何学的条件の下で, このランダムウォークの生成半群が元の多様体上のドリフト付きSchrödinger半群に適切なスケール極限として得られることを述べる。また多様体がコンパクトな場合は, 収束レートも得られたので, 時間があれば述べたい。
本講演は石渡 聡 氏 (山形大学)との共同研究に基づく。2022年7月25日(月)@Zoom
講師:阿部圭宏 氏(千葉大学大学院理学研究院)
題目:条件付き2次元ランダムウォークと2次元random interlacementsのカップリング
概要:2次元離散トーラス上の単純ランダムウォーク(SRW)を被覆時間(トーラスのすべての点を訪問し尽くすまでの時間)の定数倍時刻まで走らせたとき,SRWがまだ訪問していない点(late point)はクラスターを形成するなど複雑な構造をもつことが知られている(Dembo-Peres-Rosen-Zeitouni ('06), 岡田('19)).このlate pointまわりの様子を調べる1つの方法として,Comets-Popov-Vachkovskaia('16)氏らは2次元random interlacementsと呼ばれる確率モデルを導入した.このモデルは,2次元格子上の原点に到達しないように条件づけられた多数のSRWの軌跡を用いて構成される.Comets氏らは実際,原点がlate pointであるという条件付けのもとでの原点まわりのlate pointの集合の法則が2次元random interlacementsの原点まわりでのvacant setの法則に近いことを示した.本講演では,Popov-Teixeira('15)氏らが開発したsoft local timeの方法により両者のカップリングを構成できることを報告する.時間が許せばそのカップリングを応用してlate pointの個数に関してある評価が得られることも報告したい.2022年7月18日(月)@Zoom
講師:中島秀太 氏(明治大学理工学部)
題目:TAP approach to mean-field models for spin glasses
概要:Thouless-Anderson-Palmer (TAP)法は、平均場スピングラス模型の理論研究に関する最も古い論文の一つで提案された手法である。TAP法は、統計物理学や大偏差理論でよく見られるような、エネルギーとエントロピーのトレードオフを最適化する変分原理として解釈できる利点があり、ギブス測度とそのPure stateをより直接的に特徴付けることができる可能性を持っている。本講演では、TAP法について、Sherrington-Kirkpatricモデルを例に概説した後、最近のPerceptronモデルに対する応用を紹介する。この講演はBolthausen氏(Zurich University), Sun氏 (MIT), Xu氏 (Harvard University)との共同研究に基づく。2022年7月11日(月)@Zoom
講師:一場 知之 氏(University of California,Santa Barbara)
題目:Stochastic Differential Games on Random Directed Trees
概要:We consider stochastic differential games on a random directed tree with mean-field interactions, where the network of countably many players is formulated randomly in the beginning and each player in the network attempts to minimize the expected cost over a finite time horizon. Here, the cost function is determined by the random directed tree. Under the setup of the linear quadratic stochastic game with directed chain graph, we solve explicitly for an open-loop Nash equilibrium for the system, and we find that the dynamics under the equilibrium is an infinite-dimensional Gaussian process associated with a Catalan Markov chain. We extend it to the random directed tree structures and discuss convergence results. Related stochastic processes on infinite directed graphs and the corresponding directed chain stochastic differential equations are also discussed.2022年7月4日(月)@Zoom
講師:久保田直樹 氏(日本大学理工学部)
題目:ランダムポテンシャル中のシンプルランダムウォークにおけるリアプノフ指数の狭義単調性
概要:正方格子上にランダムなポテンシャルを配置し,それらに影響を受けながら運動するランダムウォークを考える.このモデルにおいて,「リアプノフ指数」と呼ばれる量がある.このリアプノフ指数は「原点から出発するランダムウォークが十分遠い点に到達するためのコスト」を表していて,それはランダムウォークの挙動に深く関連している(実際,本モデルの大偏差原理のレート関数はリアプノフ指数を用いて記述されることが知られている).したがって,リアプノフ指数の性質は興味深い話題であると思われるが,自明なものを除き未解明な部分が多い.特に,ポテンシャルの分布の変化がリアプノフ指数に与える影響についてはほとんど何もわかっていない.本講演ではこの問題に焦点を当て,「ポテンシャルの分布が真に変化したときのリアプノフ指数の変化」について得られた結果を紹介する.2022年6月27日(月)@Zoom
講師:石渡聡 氏(山形大学大学院理工学研究科)
題目:連結和上の熱核・ポアンカレ定数
概要:非コンパクトリーマン多様体の連結和は、ポアンカレ不等式が成り立たない空間の典型例として古くから知られていた。本講演では, Kusuoka-Stroock による熱核のガウス型評価からポアンカレ不等式の導出の手法を用いて、連結和上の熱核評価からポアンカレ不等式の係数の部分であるポアンカレ定数の最良の評価が得られることを解説する。
本講演は Bielefeld大学の Grigor'yan氏,Cornell 大学のSaloff-Coste氏との共同研究に基づく。2022年6月20日(月)@Zoom
講師:笹本智弘 氏(東京工業大学理学院)
題目:1次元対称単純排他過程の大偏差と古典可積分系
概要:1次元対称単純排他過程に対する大偏差原理は, 1989年にKipnis, Olla, Varadhanによって確立された[1]。2000年頃にJona-Lasinioらによって幾分違った定式化(Macroscopic fluctuation theory(MFT))が与えられ, この枠組みではレート関数は結合非線形偏微分方程式の解を用いて書き表される[2]が, 定常な場合を除きその解は得られていなかった。
我々は最近, Cole-Hopf変換を一般化した非局所非線形変換を用いればこの結合方程式系がAblowitz-Kaup-Newell-Segur(AKNS)系と呼ばれる古典可積分系にマップされ, 逆散乱法のアイディアを用いることで解くことが可能となることを見出した[3]。
本講演ではこの内容について紹介する。[3]はいわゆるexactな計算に基づくものであるが, 証明を与えるための指針についても言及する予定である。本講演はKirone Mallick氏, 守屋宏紀氏との共同研究に基づく。
[1] C. Kipnis, S. Olla, S. R. S. Varadhan, Hydrodynamics and largedeviations for simple exclusion processes, Comm. Pure Appl. Math.,42:115-137, 1989.
[2] L. Bertini, A. De Sole, D. Gabrielli, G. Jona-Lasinio, and C. Landim, Macroscopic fluctuation theory, Rev. Mod. Phys., 87:593-636, 2015.
[3] K. Mallick, H. Moriya, T. Sasamoto, Exact solution of the macroscopic fluctuation theory for the symmetric exclusion process, arXiv: 2202.05213.2022年6月13日(月)@Zoom
講師:長田博文 氏(中部大学大学院工学研究科)
題目:無限粒子系に対する大局Nash理論:Ginibre 干渉ブラウン運動の劣拡散性とCoulomb干渉ブラウン運動の相転移予想
概要:一つの粒子に対して無限粒子系を考える対応を、1粒子-無限粒子系対応と呼ぶことにする。この対応は、不変確率測度を持つ確率過程に対しては、無限個の独立なコピーを考える、という自明な操作を例にもつ。しかし興味深いのは、無限粒子系へリフトしたときに、粒子の相互作用を付加した場合である。特にCoulomb potentialによる相互作用やGaussian解析関数の零点のような「遠距離かつ強相互作用」は、新奇で鮮やかな現象を生み出す。1粒子-無限粒子系対応は、確率過程の対応にとどまらず、1粒子の空間(つまり通常我々が考えている空間)の問題や理論が、如何に無限粒子系の世界に移行できるか、という対応とも解釈できる。1粒子-無限粒子系対応において、「ユークリッド空間の拡散過程の均質化」という問題は、「無限粒子系のtagged粒子の拡散極限」という問題に移行する。均質化に関して、重要な道具の一つは、L^2 Sobolev不等式、もしくは、Nashの不等式という空間の幾何的情報が、対応する拡散過程の大局的挙動をコントロールするというNashの理論であった。この講演では、大局的Nash理論の無限粒子系における対応物が何になるかを話す。その応用として、Ginibre干渉ブラウン運動のtagged粒子の劣拡散性、更に、平面GAF(planer Gaussian analytic function)の零点からなる干渉ブラウン運動のtagged粒子の劣拡散性を示す。また、Coulomb干渉ブラウン運動の有効拡散行列の逆温度に関する相転移予想への応用について述べる。2022年6月6日(月)@Zoom
16:45~17:30
講師: 河本 野恵 氏 (北海道大学大学院理学院数学専攻)
題目:Spread-out limit of the critical points for lattice trees and lattice animals in dimensions $d>8$
概要:A spread-out lattice animal(LA) is a finite connected set of edges in $\{\{x,y\} \subset \mathbb{Z}^d : 0<||x-y||\le L \}$. A lattice tree(LT) is a LA with no loops. Both models are the statistical-mechanical models for branched polymers. Let $\chi_p$ be the susceptibility which is a sum of the generating function of LT or LA containing the origin and $x$, with fugacity $p/|\Lambda|$, where $|\Lambda|$ is the degree of a vertex. There exists the critical point $p_c$ of $\chi_p$ in the sense that $\chi_p$ diverges if $p$ is bigger than $p_c$ and $\chi_p$ is finite otherwise. As the previous research, Penrose(JSP,77(1994):3-15) proved that $p_c =1/e + O(L^{-2d/7}\log L)$ for both models for all $d \ge 1$. We show that $p_c =1/e +CL^{-d} +O(L^{-d-1})$ for all $d>8$, where the non-universal constant $C$ has the random-walk representation. This talk is based on the joint research with Prof. Sakai at Hokkaido univ.
17:30~18:15
講師: Bruno Hideki Fukushima-Kimura 氏 (北海道大学大学院理学院数学専攻)
題目: Stochastic optimization via parallel dynamics: theory and simulations
概要: One among different approaches adopted to solve certain types of combinatorial problems is to map such a combinatorial problem into a problem of finding the minimizers of a Hamiltonian for an associated Ising spin system. Our goal in this talk is to show that by introducing a parallel dynamics in the spin system, there is a sufficient condition under which such a dynamic will converge to the uniform distribution supported on the ground states. The proof of this result was based on the notions of weak and strong ergodicity for time inhomogeneous Markov chains. Furthermore, we also provide experimental results comparing the performance of the studied algorithms with Glauber dynamics and discuss future challenges.2022年5月30日(月)@Zoom
熊谷隆 氏(早稲田大学理工学術院)
題目:飛躍型対称確率過程のポテンシャル論とその応用
概要:本講演の前半では、飛躍型対称確率過程のポテンシャル論について私自身のこれまでの研究を中心に、何を目指してどのような結果が生まれ、どのような問題が残っているのかを概説する。具体的には、
i) 飛躍型対称確率過程のDe Giorgi-Nash-Moser理論、
ii) 飛躍型対称確率過程の離散近似、
iii) ランダム媒質への応用
について述べる。講演の後半では、当該理論の応用の一つとして、ねじれのない冪零群上の長距離ランダムウォークの極限定理に関する最近の結果を紹介する。後半部分の結果は、Z.-Q. Chen氏、L. Saloff-Coste氏、J. Wang氏、T. Zheng氏との共同研究に基づく。2022年5月23日(月)@Zoom
講師:今村卓史 氏(千葉大学大学院理学研究院)
題目:歪RSKダイナミクスによるKPZモデルの解析
概要:1次元非対称単純排他過程,1+1次元ランダム媒質中のdirected polymerなど空間1次元のKardar-Parisi-Zhang(KPZ)クラスに属する確率過程に関して,それらの代数構造を利用することで分布関数等の具体形を求める研究が進展している.最近このような研究は可積分確率(integrable probability)と呼ばれている.
本講演では,Matteo Mucciconiさん (Warwick大学)と笹本智弘さん (東京工業大学)との最近の共同研究で得られた,可積分確率の新たなアプローチ(arXiv:2106.11913, 2106.11922, 2204.08420)についてお話しする.歪RSKダイナミクスと呼ばれる歪半標準盤の時間発展を導入し,q-Whittaker測度と周期的Schur測度との間の関係式を導く.前者はKPZモデルに,後者は有限温度自由フェルミオンを記述する行列式点過程に関連している.したがってKPZモデルを行列式点過程を駆使して解析することが可能となる.さらに上の関係式の変形として半q-Whittaker測度と自由端Schur測度との間の関係式も得られ,これによって,標準的な手法では困難であった半空間上のKPZモデルの解析が可能となることもお話ししたい.2022年5月16日(月)@Zoom
講師:難波隆弥 氏(静岡大学大学院教育学研究科)
題目:Trotterの半群収束定理の精密化とその応用
概要:Trotterの半群収束定理とは、線形作用素の反復により定まる半群の列があるC_0-半群に収束するための十分条件を与えるものである。本講演では、Trotterの半群収束定理の誤差評価に関する一結果を報告する。さらにその確率論への応用として、さまざまな中心極限定理との関係やBernstein作用素およびその一般化の反復を通じて得られる拡散過程等の話題にも触れる。2022年5月9日(月)@Zoom
講師:佐久間紀佳 氏(名古屋市立大学大学院理学研究科)
題目:非可換確率論によるアウトライヤーの考察と行列モデル
概要:ランダム行列に低ランク行列による摂動を加えたモデルのサイズ極限を考えると作用素ノルムの極限とそのスペクトル分布の極限分布の台の上限が一致しないという現象が起こることがある。これは摂動によりアウトライヤーと呼ばれる数は少ないが値の大きい固有値の影響である。Collins,Hasebe and Sakuma(2018)で非可換確率論の立場からアウトライヤーの散らばりを見る方法を提唱し,巡回的単調独立性の概念を導入した。最近, Collins, Leid and Sakuma(arXiv:2202.11666)でこの単調的独立性の下での計算を単純にできるようにする行列モデルが発見された。これらについて解説をする。2022年4月25日(月)@Zoom
講師:白石大典 氏(京都大学大学院情報学研究科)
題目:Loop-erased random walk in three dimensions
概要:Loop-erased random walkはランダムウォークのパスからループを切り取ることによって得られるシンプルパスである。1980年にGreg Lawlerにより導入されて以降、数学と物理の双方から注目され、研究がなされてきた。本講演では、3次元の場合に焦点を当てながら、研究の動向について述べる。2022年4月18日(月)@Zoom
16:45~17:10
講師:早川知志 氏(オックスフォード大学大学院数学研究科)
題目:Recombination, ランダム凸包, カーネル求積
概要:確率測度上での関数の積分を離散的な関数値の凸結合で近似することは数値積分における典型的な課題である.この課題において,Litterer & Lyons (2012) により導入されたrecombinationと呼ばれるアルゴリズムは非常に強力である.本講演では,このアルゴリズムを紹介した後,そのランダム凸包やカーネル求積問題における応用について,計算機科学的な観点を交えつつ解説する,本研究はTerry Lyons, Harald Oberhauser両氏との共同研究である.
2021年度
2022年2月21日(月)@Zoom
16:45~17:10
講師:中川由宇斗 氏(東北大学大学院理学研究科)
題目:半群の手法を用いたTsetlin library及びその拡張の分析
概要:1, ... , n の順列に対し,「適当な確率で i 番の数字を選び, 左端に移動する」 というランダム操作を行う. この操作によって得られるマルコフ連鎖を 「Tsetlin library」 という. 本講演では, Tsetlin library及びその拡張に対して, 半群の手法を用いた代数学的なアプローチによる固有値及びその重複度の分析を述べる.
17:15~17:40
講師:西島駿介 氏(東京都立大学大学院 理学研究科)
題目:ランダムフラクタル上のloop消しランダムウォーク
概要:loop消しランダムウォークは単純ランダムウォークから、できた順番にloopを消して得られる非マルコフ過程である。これまでフラクタル上でもloop消しランダムウォークは研究されてきた。本講演ではランダムフラクタル上でのloop消しランダムウォークを扱う。まず、ランダム枝分かれコッホ曲線を定義し、その上でloop消しランダムウォークを構成する。そして、ウォークの歩幅を0に近づける極限である連続極限の存在と、極限の見本関数の性質について紹介する。
17:45~18:10
講師:九保佑匡 氏(立命館大学大学院 理工学研究科)
題目:Monotonic normalized heat diffusion for a certain class of finite graphs
概要:Peresは「すべての頂点推移的な有限グラフに対し、その上の熱核の対角成分と非対角成分の比は時刻の関数として単調増加となる」と予想したが、Regev-Shinkarにより反例が構成されたため偽であることが知られている。一方で熱核の比の単調性が成り立つような有限グラフのクラスもいくつか見出されている。本講演ではグラフラプラシアンの固有値が4つであるような有限グラフに着目し、ある場合に熱核の比の単調性が成立することを報告する。本研究は難波隆弥氏(静岡大学)との共同研究に基づく。
2022年2月7日(月)@Zoom
講師:石谷謙介 氏(東京都立大学大学院理学研究科)
題目:Brown引越過程の構成と諸性質
概要:本講演では,出発点と到達点の間に留まる1次元Brown橋を,Brown引越過程とよび,その構成方法と諸性質を紹介する.このBrown引越過程を構成するために,「条件付きBrown橋」や「条件付き3次元Bessel橋」の弱収束について議論する.また,Brown引越過程のパスの分解公式を紹介し,このパスの分解公式を用いてBrown引越過程のサンプルパスを効率的に生成する方法を説明する.2022年1月17日(月)@Zoom
講師:服部久美子 氏(東京都立大学大学院理学研究科)
題目:Loop-erased random walk on fractals
概要:Loop-erased random walkは単純ランダムウォークから、できた順にループを消して得られる非マルコフ過程であり、最初に、G. Lawlerによってユークリッド空間上に導入されたものである。この講演はフラクタル上のLoop-erased random walkに関するsurvey talkで、walkの歩幅を0に近づける連続極限、極限の見本関数の性質、および、歩幅は変えずに無限に広がるフラクタルグラフに拡張したときの漸近挙動の性質などについて紹介する。(この方面の最新の研究は、共同研究者の西島駿介氏が2月に講演予定です。)2021年12月20日(月)@Zoom
講師: 香取 眞理 氏 (中央大学理工学部)
題目:円環上のガウス型解析関数とパーマネント・行列式点過程
概要:Peres と Virág は単位円板上のガウス型解析関数の統計集団(GAF)を考えた.これは,各係数が独立同分布の複素標準正規分布に従うランダムなテイラー級数として定義される.彼らはその零点集合が無限個の点からなる行列式点過程(DPP)であることを示した.この Peres-Virág の GAF と DPP は共形不変性をもつ.我々はランダムなローラン級数によって円環上に定義される GAF を考える.円環の外周を単位円,内周を半径 q の同心円とし,非負パラメータ r をもつ GAF の族を定義する.その零点過程の相関関数はパーマネントと行列式の積で表されるが,それらを定める積分核は相関関数の次数に従い階層的に変形される.それと同時に参照測度もルベーグ測度から変形されたものとなり,この両者の変形の合成の結果,系は特別な対称性をもつことになる.特に r=q のとき,円環を自身に写す共形変換に対して系は不変となる.この新奇な零点過程の全容解明にはほど遠いが,これまで分かってきたことを説明したい.本講演は白井朋之氏(九大 IMI)との共同研究に基づく.2021年12月13日(月)@Zoom
講師:岡嵜郁也 氏(東北大学大学院理学研究科)
題目: Fractional harmonic map に対応する部分多様体上のマルチンゲールについて
概要:リーマン多様体間の可微分調和写像は定義域のブラウン運動を値域の多様体上の連続マルチンゲールに写すことが知られている.本研究では fractional harmonic map の確率論的な対応物を考える.Fractional harmonic map はDa Lio, Rivière (2011) により導入された分数冪ラプラシアンに関する調和写像であり, これは部分多様体をターゲットとする非局所ディリクレ形式に関する調和写像の一例である.本講演では部分多様体上の不連続なマルチンゲールを適切に定義すれば,非局所の場合においても, 対応するマルコフ過程を通して調和写像を確率過程により考察できることを紹介する. またそのように定められたマルチンゲールの概収束に関する命題を示し,調和写像への応用を述べる.2021年12月6日(月)@Zoom
講師:高橋弘 氏(慶應義塾大学商学部)
題目:1次元に満たない自己相似図形上のランダム媒質中の拡散過程の漸近挙動について
概要:Brox(1986)によって考察されたランダム媒質中の1次元拡散過程は,媒質の影響で通常の拡散過程とは異なるスケーリングで極限分布が得られ,``ultra-slow diffusive’’と呼ばれる,極端に動きが遅くなる挙動を見せる。この問題を1次元に満たない自己相似性図形上で考えると,自己相似性を特徴づけるパラメータによるスケーリングをとることで拡散過程の極限分布が得られることを本講演で紹介する。
この研究は,田村要造氏(慶應義塾大学)との共同研究に基づく。2021年11月22日(月)@Zoom
講師: 新井裕太 氏(千葉商科大学基盤教育機構)
題目:TASEPにおけるKPZ固定点とKPZスケーリングの係数について
概要:KPZ普遍性は界面成長において観られる普遍的性質であり,相互作用粒子系と関連する性質であることが知られている.近年Quastel氏らは,KPZ普遍クラスを特徴付けるとされる分布関数の一群をKPZ固定点として導入した.本講演では,いくつかのTASEPにおいて,特定の条件を課した場合に,統一的にKPZ固定点を求められるようになったことを紹介する.また,上記の手法によって新たに判明したTASEPのKPZスケーリングの係数の数学的意味や可解構造が持つ数学的性質について紹介する.2021年11月15日(月)@Zoom
講師: 岡村和樹 氏(静岡大学学術院理学領域数学系列)
題目:確率変数の複素数値の擬算術平均に関する極限定理とそれに関連した話題
概要:擬算術平均(quasi-arithmetic mean)と呼ばれる算術平均,幾何平均,調和平均を含む拡張された平均の概念がある.擬算術平均が複素数値を取ることを許容して確率変数に関する極限定理を述べる.これによりCauchy分布のパラメータの不偏推定量を非常に単純な形で構成できる.最尤推定との関連についても述べる.
赤岡裕一氏(群馬銀行)乙部厳己氏(信州大学)との共同研究に基づく.2021年11月8日(月)@Zoom
講師:須田颯 氏(慶應義塾大学 理工学研究科)
題目:Scaling limits of the stochastic eight vertex model
概要:本講演では, [Funaki-Nishijima-Suda-21] により導入されたStochastic eight vertex model (S8V) と呼ばれる一次元格子上の粒子系における時空間スケール極限を考察する.S8V とは, [Gwa-Spohn-92] により導入されたStochastic six vertex model (S6V) の拡張であり,系の粒子数が時間発展で変化しない S6V に対し,S8V は粒子の生成消滅が生じるモデルである.S6V では, 弱い非対称性の仮定 (ダイナミクスの非対称部分は系のサイズ N に対して N-1/2で減衰) と拡散的時空間スケーリングのもとで, 粒子分布の平衡揺らぎは Stochastic Burgers equationに従うことが知られている [Corwin-Ghosal-Shen-Tsai-20].本講演では, S6V の場合と類似した仮定のもとで,S8V の巨視的な平衡揺らぎとして新しいタイプのStochastic Burgers equation が導出されることを紹介する.2021年11月1日(月)@Zoom
講師:小谷眞一 氏(大阪大学,南京大学)
題目:KdV方程式と1Dシュレーディンガー作用素のスペクトル
概要: KdV方程式の初期値については,従来,減衰するもの又は周期的なものについて考察されてきた.最近初期値として減衰でも周期的でもない多くの関数に対して解の構成に成功した.講演ではそれには軽く触れ,これからの問題として解の時間大域的な問題を1Dシュレーディンガー作用素のスペクトルとの関係で述べる.とくにエルゴード的な初期値に関連する問題に関心がある.2021年10月25日(月)@Zoom
講師:佐々田槙子 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:Varadhanの分解定理の抽象的な定式化と証明について
概要:非勾配系に対する流体力学極限の証明で最も汎用性が高いと期待されるものは、Varadhanの方法と呼ばれるアプローチである。この方法の本質である「Varadhanの分解定理」と呼ばれる定理は、いくつかの理由によって、モデルごとの定式化と証明が行われており、一般的な抽象的枠組みでは理解ができていなかった。この定理について、我々は、さまざまなモデルを含む抽象的な枠組みを設定し、一定の条件の元で、「Varadhanの分解定理」に類似した、確率測度に依存しない定理を、幾何的なアプローチで証明した(arXiv:2009.04699)。さらに、この結果を使って、本来の「Varadhanの分解定理」を、各点での状態が有限集合である、確率測度が直積である、などの一定の条件のもとで一般的に証明した。本結果は保存量の数が任意であり、multi-species exclusion processにも適用できる。また、三角格子や六角格子上のモデルにも適用できる。本講演は、坂内健一氏(慶應大学)、亀谷幸生氏(慶應大学)との共同研究に基づく。2021年10月18日(月)@Zoom
講師:長田翔太 氏(九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所)
題目:点過程の対数微分,Gibbs性とダイナミクス
概要:点過程に付随するディリクレ形式を用いた無限粒子系のダイナミクスの構成は,Dobrushin-Lanford-Ruelle(DLR)方程式や準Gibbs性といった点過程の局所密度関数の評価を介して行われてきた.本講演は上記の評価を用いないダイナミクズの構成を考察し,対数微分と呼ばれる点過程に付随するCampbell測度の超関数の意味での微分の可積分性からダイナミクスを構成する.2021年10月11日(月)@Zoom
講師:得重雄毅 氏(ミュンヘン工科大学)
題目:Differentiability of the speed of biased random walks on Galton-Watson trees
概要:We prove that the speed of a $\lambda$-biased random walk on a supercritical Galton-Watson tree (with/without leaves) is differentiable for $\lambda$ such that the walk is ballistic and obeys a central limit theorem. We also give an expression of the derivative using a certain 2-dimensional Gaussian random variable, which naturally arise as limits of functionals of a biased random walk. The proof heavily uses the renewal structure of Galton-Watson trees that was introduced by Lyons-Pemantle-Peres. In particular, an important role is played by moment estimates of regeneration times, which are locally uniform in $\lambda$. This talk is based on a joint work with Adam Bowditch (University College Dublin).2021年7月12日(月)@Zoom
講師:三上敏夫 氏(津田塾大学学芸学部数学科)
題目:Superposition principleによる確率最適輸送問題の最近の進展について
概要:この講演では、Schrodingerによる量子力学に対する確率論的アプローチ、Bornの確率解釈に端を発する「フォッカープランク方程式からそれを周辺分布に持つ確率過程の構成」というネルソンの問題とSuperposition principleによるその大きな進展、これらに対する確率最適制御によるアプローチとその一般化である確率最適輸送問題について、最近の進展や関連する話題を確率論的立場からサーベイする。2021年7月5日(月)@Zoom
講師:濱名裕治 氏(筑波大学数理物質系数学域)
題目:ベッセル過程の到達時刻の末尾確率について
概要:ベッセル過程の到達時刻については分布関数あるいは密度関数が具体的に表示されていますが,出発点と到達点の位置関係によって確率分布が大きく異なります.末尾確率の漸近挙動に着目すると,出発点が到達点と比べて原点に近い場合は指数関数的な減衰をする一方,到達点の方が原点に近い場合はべき関数的な減衰を示すことが知られています.今回,後者の場合に重点を置いて,末尾確率の漸近展開について最新の結果も含めて講演します.2021年6月28日(月)@Zoom
講師:村山拓也 氏(中央大学理工学部物理学科)
題目:On the continuity of half-plane capacity with respect to Carath\'eodory convergence
概要:half-plane capacity とは,複素上半平面の (boundary) hull と呼ばれる閉集合たちに対して定まる ``capacity'' であり,上半平面における Loewner 微分方程式を調べる際には基本的な量である.本講演では,まず half-plane capacity の Brown 運動による定義を述べ,そのあと Carath\'eodory 収束を備えた適切な(しかし有界とは限らない) hull の集合上で half-plane capacityが連続であることを証明する.特に,Binder, Rojas and Yampolsky (2019) により示された Carath\'eodory 収束と調和測度の弱収束との対応が証明の要となることを説明する.また,Brownian motion with darning を用いることで,half-plane capacity の定義および連続性を(有限)多重連結領域へと拡張する.2021年6月21日(月)@Zoom
講師:平井祐紀 氏(大阪大学大学院基礎工学研究科)
題目:無限次元の伊藤-F\"ollmer解析
概要:伊藤-F\"ollmer解析は確率解析に対するパス毎のアプローチの一つである。F\"ollmer (1981)は分割列に沿った2次変分を持つパスが伊藤の公式を満たすことを証明した。それにより2次変分をもつ決定論的なパスによる伊藤積分の理論が展開できるようになり、特にファイナンスへの応用の観点から近年研究が盛んになっている。本講演では、伊藤-F\"ollmer解析の無限次元のパスへの拡張について紹介する。2021年6月14日(月)@Zoom
講師: 鈴木康平 氏(Bielefeld University)
題目:配置空間上の幾何解析とその応用
概要:基礎の空間X上の配置空間U(X)とは,X上の局所有界な点測度全体の空間である.配置空間U(X)は,数学の様々な分野で研究されており,例えば,X上の可算無限個の相互作用する粒子の運動の記述,U(X)上の(無限次元)幾何学の研究,X上の微分同相写像群の表現論,などである.本講演では,Xが滑らかな構造を持つとは限らない場合(例えば,リーマン多様体のグロモフーハウスドルフ極限に現れるような特異な空間)で,さらに一般的な不変測度(quasi-Gibbs測度を含む枠組)で,U(X)上の解析的な構造(Dirichlet形式)と,幾何学的な構造(2-Wasserstein距離から入る測度距離空間)の関係を論じる.Rademacher型の定理や,その逆のSobolev-to-Lipschitz型の定理を証明する事で,最終的にこれらの2つの構造が一致する事を示す.この結果の応用として,対応するU(X)上の拡散過程についての2-Wasserstein距離に関する積分Varadhan型の短時間挙動,U(X)上の(synthetic)Ricci曲率の構造,2-Wasserstein距離の有限性問題に関するDirichlet形式のエルゴード性によるアプローチ,Dirichlet形式のquasi-regularityに関する一般的な証明などについて話す.本講演では,空間の滑らかな構造に依存した条件(例えば,不変測度のquasi-invariance)を仮定しないため,いくつかの結果は基礎の空間Xがユークリッド空間の場合でも新しい.
Lorenzo Dello Schiavo氏 (IST Austria)との共同研究2021年6月7日(月)@Zoom
講師: 畑宏明 氏(一橋大学大学院経営管理研究科)
題目:Expected power utility maximization of insurers
概要:本講演では、線形 Gauss 型確率ファクターモデルを用いた保険会社の
1.有限時間範囲のべき型期待効用を最大化する最適投資再保険問題
2.無限時間範囲の単位時間あたりのべき型期待効用の成長率を最大化する最適投資再保険問題を扱う。問題1に関しては、動的計画原理を用いて、Hamilton-Jacobi-Bellman (HJB)を導出しこの方程式の明示解を得ることによって、明示的な最適戦略(最適投資、最適再保険の組)を構成する。問題2に関しては、HJB方程式の極限方程式の明示解を得ることによって、明示的な最適戦略を構成する。更に、最適戦略の特性と最適戦略を用いた破産確率に関連するいくつかの数値結果を紹介する。
本講演は安田和弘氏(法政大学)との共同研究に基づく.2021年5月31日(月)@Zoom
講師:見上達哉 氏(京都大学大学院理学研究科)
題目:結晶格子上最速浸透モデルにおける極限図形の被覆単調性
概要:最速浸透モデル(First Passage Percolation/ FPP model)とは,正方格子の原点を出発点として物質が確率的な速さで隣接頂点へと浸透するときの,浸透領域の時間発展等を調べるモデルである.基本的な結果として「大数の法則」,即ち浸透領域を浸透時間で規格化したものがある極限図形へと収束することが知られている.本講演では,このモデルを一般の結晶格子モデルへと拡張し,正方格子モデルの場合と同様に極限図形が存在することを示す.また,三角格子と3次元正方格子のような被覆関係をもった二つの格子に対し,極限図形の大小比較を与える.本講演は論文https://arxiv.org/abs/2009.11679にもとづく.2021年5月24日(月)@Zoom
講師:塩沢裕一 氏(大阪大学大学院理学研究科)
題目:Transience of symmetric non-local Dirichlet forms
概要:本講演では,$L^2({\mathbb R}^d)$ 上の対称な非局所型ディリクレ形式が非再帰的であるための十分条件を,係数の無限遠方での多項式増大度および減衰度により与える。この条件を通じて,あるクラスの非局所型ディリクレ形式が再帰的であるための必要十分条件を与えることができる。十分条件の導出過程において,ディリクレ形式の非再帰性に関する比較原理とリヤプノフの方法を用いる。2021年5月17日(月)@Zoom
講師:中島秀太 氏(University of Basel)
題目:The fluctuations in the L2 region for the KPZ equation in dimension three and higher
概要:近年、正則化された高次元のKardar-Parisi-Zhang(KPZ)方程式の研究が活発に行われている。これらの研究により、ノイズ項の係数が十分に小さい場合、三次元以上のKPZ方程式の解が構成され、その解はEdwards-Wilkinson方程式と呼ばれる線形確率偏微分方程式の解と一致することがわかった。Cosco氏、中島誠氏との共同研究では、同様の結果を、結果が成り立つと期待されていたノイズの最大領域にまで拡張し、さらに初期条件の一般化を行った。その結果、一般的な初期条件を持つKPZ方程式の解は、初期条件に依存したドリフトを持つEdwards-Wilkinson方程式の解と一致することがわかった。講演では証明で用いたマルチンゲール理論および均一化法についても時間が許す限り説明する。2021年5月10日(月)@ Zoom
講師:福島竜輝 氏(筑波大学数理物質系数学域)
題目:Directed polymerの零温度極限とoriented percolationの路の数
概要:Oriented percolationの問題では,無限に伸びる路の存在が主に議論されてきたが,定まった長さの路の数も面白い対象である.Garet-Gouere-Marchandはpercolationが起こっているときには路の数は指数増大し,その増大度はランダムでない定数になることを証明した(論文は2017年出版).この増大度はpercolation parameterの関数であるが,存在がエルゴード定理によって証明されているせいで,その性質はよく分かっていない.例えば連続性さえ分からない.この講演ではoriented percolationの路の数がdirected polymerの零温度極限として理解する方法を説明し,その過程で増大度の連続性も証明できることを紹介する.この内容はStefan Junk氏との共同研究に基づく.2021年4月26日(月)@ Zoom
講師:松田響 氏(Berlin自由大学)
題目:3次元ホワイトノイズをポテンシャルにもつシュレディンガー作用素について
概要:近年の特異確率偏微分方程式の発展を受けて、正則性の低いランダムポテンシャルをもつシュレディンガー作用素の研究が活発に行われている。本講演では3次元ホワイトノイズをポテンシャルにもつシュレディンガー作用素Hについて考察する。特に対称形式の理論を用いることで比較的容易に作用素Hを構成できることを示す。また固有値の末尾評価、integrated density of states、対応する放物型方程式の質量の漸近挙動について時間の許す限り述べる。2021年4月19日(月)@ Zoom
講師:松浦浩平 氏(筑波大学数理物質系数学域)
題目:Hölder estimates for resolvents of time-changed Brownian motions
概要:標準ブラウン運動の時間変更に付随するレゾルベントの(空間変数に関する)正則性について考える。時間変更が正値連続加法汎関数による場合、そのRevuz測度がある意味でヘルダー連続であれば、対応するレゾルベントもヘルダー連続である。しかし、ヘルダー連続性の指数の定量評価については、あまり詳しく研究されてこなかった。本講演では、指数の下からの評価を与え、その精密さについて議論する。2021年4月12日(月)@ Zoom
講師:林晃平 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:A one-phase Stefan problem with non-linear diffusion from two-species interacting particle
概要:互いに強く競合する2種粒子系モデルに対し,競合率を無限大にする極限を取るとそれぞれの種が占める領域は分離しマクロな密度プロファイルはある自由境界問題(Stefan問題)を満たす.本講演では,ミクロ粒子系からスケール操作(流体力学極限)により非線形拡散を伴う1相Stefan問題を導出するという結果について報告する.極限の方程式として片方の媒質(粒子)が拡散しないような1相のStefan問題の導出を考えるが,ミクロ系に対し弱い拡散過程を導入しその拡散係数をゼロにする極限操作を同時に行うことが技術的に必要である.これは,マクロには偏微分方程式論における粘性消滅法(vanishing viscosity method)に対応する.
2020年度
2021年2月22日(月)@ Zoom
講師:中山季之 氏(三菱UFJ銀行)
題目:確率偏微分方程式に対するWong-Zakai近似の収束スピード
概要:有限次元ブラウン運動で駆動される半線形確率偏微分方程式(以下SPDE)のWong-Zakai近似が, 元のSPDEに収束することは多くの研究者によって証明されてきた.しかし収束スピードに関するものは数が少なく,2階放物型や解析的半群から生成されるコンパクト作用素をもつSPDEに限定されていた.本講演は任意の強連続半群の生成作用素をもつSPDEに対して収束スピードを示すものである.最後に数理ファイナンスに現れるHJMMと呼ばれるSPDEに対する応用例を紹介する.本講演はStefan Tappe氏との共著論文``Wong-Zakai approximations with convergence rate for stochastic partial differential equations”, STOCHASTIC ANALYSIS AND APPLICATIONS 2018, VOL. 36, NO. 5, pp. 832-857に基づく.2021年2月8日(月)@ Zoom
講師:竹内敦司 氏(東京女子大学 現代教養学部)
題目:Jump-type stochastic differential equations on manifolds
概要:リーマン多様体上のブラウン運動は、正規直交フレームバンドル上の標準水平ベクトル場による確率微分方程式の解を、多様体に射影することで得られることがよく知られている。本講演では、ジャンプ部分を標準水平ベクトル場が生成するフローとして捉えるMarcus型の確率微分方程式を正規直交フレームバンドル上で用意し、上述のブラウン運動の場合と同じ手法によって、多様体上でのジャンプ型確率過程を考える。講演の前半では得られたジャンプ型確率過程のマルコフ性について、後半では二つのジャンプ型確率過程のWasserstein距離に関する結果を紹介する。2021年1月25日(月)@ Zoom
講師:江崎翔太 氏(福岡大学理学部)
題目:Non-collision, non-explosion and no-big jump conditions of jump type interacting particles systems
概要:Unlabeled long range interacting particle systems with jumps (dynamical systems on the configuration space) were constructed by Esaki[Tohoku J, 2019] using Dirichlet form technique. In this talk, we would like to give infinite dimensional stochastic differential equation (ISDE) representations for each particle on the dynamics. We assume some conditions to show our theorem. We call them non-collision, non-explosion and no-big jump conditions. In this talk, we give sufficient conditions for these conditions. Using these sufficient conditions we can apply our theorem to the systems of alpha-stable particles with logarithmic interactions associated with Dyson, Ginibre, Airy and Bessel random point fields, which are related to the random matrix theory. This is a joint work with Hideki Tanemura (Keio University).2021年1月18日(月)@ Zoom
講師:竹内裕隆 氏(慶應義塾大学大学院理工学研究科)
題目: Local central limit theorem on reflecting diffusions in a continuum percolation cluster
概要:ランダム媒質上のマルコフ過程に関する研究は、数理物理に関連して多くの研究がなされてきた。ランダム媒質を研究するモチベーションの1つに均一化(homogenization)がある。これは端的に言えば、ランダム性は巨視的あるいは粗視的には媒質の振舞いに影響を及ぼさないという事を指す。均一化を熱核の観点から見れば、局所中心極限定理(Local CLT)になる。本講演では連続パーコレーション上のreflecting diffusionに関するLocal CLTについて得られた結果を紹介する。2020年11月30日(月)@ Zoom
講師:熊谷隆 氏(京都大学数理解析研究所)
題目:ランダム媒質中の飛躍型確率過程の均質化について (Homogenization of jump processes in random media)
概要:本講演では、ランダム媒質中の飛躍型確率過程の均質化について最近得られた三種類の結果について概説する。
i) 定常エルゴード的な媒質の上で、ランダムな対称レヴィ測度の平均が安定過程の測度と比較可能な場合を考察し、レヴィ測度のランダムな係数にある種の可積分条件をおく時、対応するレゾルベントが確率1で収束することを示す。
ii) 周期的かつ非対称な飛躍型確率過程について、いくつかの仮定の下でそのスケール極限の存在を示す。
iii) 独立なbalanced random environments上で飛躍確率が離散安定過程と比較可能な場合を考察し、媒質にある種の可積分条件をおく時、対応する確率過程の、媒質に関する確率1での収束を示す。
ii),iii)の結果は、スケール極限が拡散過程になる場合も含まれる。媒質がランダムなdivergence form等の場合における既存の結果も紹介し、証明の手法についても簡単に触れる。
この講演の内容は、X. Chen氏、Z.Q. Chen氏、J. Wang氏との三部作に基づく。
2019年度
2020年2月3日(月)
講師:中野史彦 氏(学習院大学理学部)
題目:キャリーズプロセスの性質と応用
概要:本研究は貞廣泰造氏(津田塾大学)との共同研究である。n個の数の加算により生じる繰り上がりのなすマルコフ連鎖をキャリーズプロセスと呼ぶ。一般化キャリーズプロセスを考え、その性質と応用について、次の点などについて論じる。
(1) 定常分布は色付き置換群の descent statistics と一致するなど、組み合わせ論的な性質を持つ。
(2) 一般化リフルシャッフルの射影と同分布になることから、(1) の性質を理解できる。
(3) 単位区間上の一様分布の和の分布や、色付き置換群のディセントの分布の行列式による表現などの応用を持つ。
2020年1月20日(月)
講師: 越田真史 氏(中央大学理工学部)
題目:Coupling of multiple Schramm--Loewner evolution and Gaussian free field
概要:It is known that Schramm--Loewner evolution (SLE) is coupled with Gaussian free field (GFF) to give a solution to the flow line problem for an imaginary surface. I will overview our recent work where we extended this coupling to the case of multiple SLE. There, we found that the SLE partition function that defines a multiple SLE and the boundary perturbation for GFF are determined essentially uniquely so that the associated multiple SLE and GFF are coupled with each other.
2019年12月9日(月)
講師:佐藤僚亮 氏(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
題目:Ergodic theoretic classification of q-central probability measures
概要:Central probability measures due to Vershik and Kerov play an important role in asymptotic representation theory, and Gorin introduced those quantization, called q-central probability measures. In this talk, we investigate these from the viewpoint of ergodic theory. We particularly discuss a classification of ergodic q-central probability measures using certain invariants, called ratio sets.
2019年12月2日(月)
講師: 高岡浩一郎 氏(中央大学商学部)
題目:Structure conditionを満たすセミマルチンゲールの数理ファイナンス的性質とその周辺
概要: 連続セミマルチンゲール S=S0+M+A の有限変動部分 A が,局所マルチンゲール部分 M の2次変分について絶対連続であり,その Radon-Nikodym微分 h が M の2次変分について確率1で局所2乗可積分の時に,S は structure condition を満たすという.S についての確率積分に関する性質で,S の structure condition と同値なものがいくつか知られている.本講演では,Choulli and Stricker (1994) をはじめ,それら同値性を示した結果を紹介し,さらに,その同値な性質どうしが,structure condition を定義できない不連続セミマルチンゲールについても同値になるか等について報告する.
2019年11月25日(月)
講師:森隆大 氏(京都大学大学院理学研究科)
題目:マルコフ過程の交差測度に対する大偏差原理
概要: 本講演では,複数の独立なマルコフ過程に対する交差測度について議論を行う.単一の確率過程に対する滞在測度の類似として,複数の独立なマルコフ過程に対しそれらの軌跡の共通部分の大きさを測るものとして交差測度が考えられる.König and Mukherjee (2013)が行ったブラウン運動の場合の議論を基にして,Dirichlet形式の理論により更に多くの確率過程に対して交差測度を扱い,時間無限大での大偏差原理を示すことが可能になったことを述べる.時間が許せば具体例についても紹介したい.
2019年11月11日(月)
講師:野場啓 氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科)
題目:Levy過程に対する二方向反射戦略の最適性について
概要:本講演では資本注入を含む de Finetti の最適配当問題を扱う. 具体的には, 元のモデルがL\'evy過程の挙動をする場合, 配当と資本注入の支払い方として二方向反射戦略が最適戦略となることを示す. 本講演の主結果は, Avram et al.(2007)の Theorem 3 (負スペクトラルL\'evy過程のケース)およびBayraktar et al.(2013) の Theorem 3.1 (正スペクトルL\'evy過程のケース)の一般化に当たる. 負および正スペクトラルL\'evy過程のケースでは, 二方向反射戦略の配当と資本注入に関する期待正味現在価値をスケール関数で表すことで最適性の証明を行なったが, 一般の場合ではスケール関数を用いることはできない. そのため, 本講演では新たな標本路解析の手法を導入することにより, 期待正味現在価値の性質を示す.
2019年10月28日(月)
講師:楠岡誠一郎 氏 (京都大学大学院理学研究科)
題目:Stochastic quantization associated with the $\exp (\Phi) _2$-quantum field model driven by space-time white noise on the torus
概要:Hoegh-Krohnモデルと呼ばれる指数関数による相互作用を持つ量子場モデルを2次元トーラス上で与え,その確率量子化を考える.このモデルはこれまでディリクレ形式を用いた議論がなされてきたものであるが,本講演では最近盛んに研究がなされている特異な確率偏微分方程式の手法を用いて議論を行う.この手法により確率量子化方程式の時間大域解とその不変測度を構成し,さらにディリクレ形式から得られる拡散過程との関係について考える.この研究は河備 浩司 氏(慶應義塾大学)と星野 壮登 氏(九州大学)との共同研究である.
2019年10月21日(月)
講師:須田颯 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:長距離相関を持つ確率調和振動子鎖の巨視的挙動について
概要:振動子鎖は統計力学に由来する熱伝導現象の微視的モデルであり, 数学的には多数の振動子(粒子)からなるハミルトン系として定義される。 本講演では,x, y番目の振動子の相互間力が|x-y|^{-θ}, θ > 1 であるような長距離相関を持つ確率調和振動子鎖の巨視的挙動, 特に, 系の運動量, 熱エネルギー分布の巨視的時間発展法則についての結果を紹介する。 相互間力が指数的減衰をする場合の結果は既に知られており, 最近接モデルと巨視的挙動は本質的に変わらない。講演者は θ < 3 であるとき, 長距離相関モデルの巨視的挙動は最近接モデルと異なることを示し, 上記変数分布の時間発展法則として superballistic wave equation, 及び fractional diffusion equation をそれぞれ導出した。
2019年10月7日(月)
講師:稲濱譲 氏(九州大学大学院数理学研究院)
題目:Stochastic flows and rough differential equations on foliated spaces
概要:In this talk we construct stochastic flows associated with SDEs on compact foliated spaces via rough path theory. In 2015 Suzaki constructed “leafwise diffusion processes” on compact foliated spaces via SDE theory. However, it is not known whether the stochastic flows associated to them exist or not. The main difficulty is in showing the existence of continuous modifications. The reason is that Kolmogorov-Centsov criterion is not available in this case since a foliated space is just a locally compact metric space. From the viewpoint of rough path theory, however, there is in fact not much difficulty here and this problem is naturally and easily solved. Since stochastic flows play a very important role in stochastic analysis on manifolds, we hope our result would open the door for stochastic analysis on foliated spaces.
This is an ongoing joint work with Kiyotaka SUZAKI (Kumamoto Univ.).
2019年9月30日(月)
講師:竹居 正登 氏 (横浜国立大学大学院工学研究院)
題目:半直線上の強化ランダムウォークの極限挙動について
概要:強化ランダムウォーク(Reinforced Random Walks)は,ウォーカーがグラフの各辺に与えられた重みに比例した確率で推移し,ウォーカーが通った辺の重みを増加させるというモデルである.グラフが半直線である場合,辺を横断するたびに重みをc>0だけ増加させる線型強化ランダムウォークについては,Takeshima (2000)によって極限挙動の判定条件が与えられている.一方,重みの増やし方が横断回数に対して非線型な関数の場合,どのような極限挙動を示すか判然としない場合がDavis (1989)以来残されている.この問題に関して,赤堀次郎氏・Andrea Collevecchio氏との共同研究で得られた結果を紹介する.
2019年7月22日(月)
講師:Frank den Hollander 氏 (Leiden University)
題目:LARGE DEVIATIONS FOR THE WIENER SAUSAGE
参考資料:2017年にICTSで開かれた研究集会“Large deviation theory in statistical physics: Recent advances and future challenges”のスライド)はこちら(2017年8月30,31日の部分)!
概要: Let $\beta = (\beta_s)_{s \geq 0}$ be Brownian motion on $\mathbb{R}^d$.The Wiener sausage at time $t$ is the set $W_t = \cup_{s \in [0,t]} B_1(\beta_s)$,where $B_1(x)$ is the closed ball of unit radius centred at $x$.The asymptotic behaviour of $W_t$ as $t \to \infty$ has been the subject of intensive study in past years.One of the reasons is that the Wiener sausage is one of the simplest non-Markovian functionals of Brownian motion.In this talk we focus on the volume and the capacity of $W_t$.We show that both satisfy a downward large deviation principle with a rate that depends on $d$.We identify the rate functions in terms of variational formulas and analyse their scaling properties.The main technique that is used to derive the large deviation principle is a `skeleton approach'.Here the path of the Brownian motion is coarse-grained,and large deviations of the resulting skeleton of Brownian motion are transferred to large deviations of the volume and the capacity of the Wiener sausage.
Joint work with Michiel van den Berg (Bristol) and Erwin Bolthausen (Zurich).No prior knowledge of large deviation theory is required.
2019年7月15日(月)
講師:一場知之 氏 (University of California, Santa Barbara)
題目:Directed chain stochastic differential equations
概要:We propose a class of particle systems of diffusion processes in the infinite directed chain graph. We describe the system by an infinite-dimensional, nonlinear stochastic differential equation of McKean-Vlasov type. It has both (i) a local chain interaction and (ii) a mean-field interaction. The system can be approximated by a limit of finitely many particle system, as the number of particles go to infinity, where the propagation of chaos does not necessarily hold. It can be seen as an extreme case of interacting diffusion with the first order Markov property in a large sparse graph. Furthermore, we exhibit a dichotomy of presence or absence of mean-field interaction, and we discuss the problem of detecting its presence from the observation of a single component process through the filtering equation of Kushner-Stratonovich type. If time permits, we also discuss some extension of interactions to the tree structure and connection to the local equation in the study of large sparse networks of interacting diffusion by Lacker, Ramanan and Wu (2019), and a stochastic game of mean-field type with infinitely many players. This is a part of research with N. Detering and J.-P. Fouque.
2019年7月8日(月)
講師:土田兼治 氏 (防衛大学校総合教育学群)
題目:Green-tight measures of Kato class and compact embedding theorem for symmetric Markov processes
概要:竹田によって,既約的かつレゾルベント強フェラーで対称化測度がグリーン緊密な加藤クラスに属する対称マルコフ過程の半群がコンパクトになることが示され,それを用いてあるコンパクト埋め込み定理が証明された.その定理は加法的汎関数の大偏差原理を導く上で非常に重要なものである.本講演では,レゾルベント強フェラー性よりも弱い推移関数が対称化測度に関して絶対連続であるという条件のもとで,そのコンパクト埋め込み定理が得られることと新しく加わる例を述べる.さらに,その証明において必要となる2つ意味でグリーン緊密な加藤クラスの同値性についても述べる.本講演は桑江一洋氏(福岡大)との共同研究に基づく.
2019年7月1日(月)
講師:難波隆弥 氏(立命館大学理工学部)
題目:Moderate deviation principles on covering graphs of polynomial volume growth and its applications
概要:べき零被覆グラフとはべき零群を被覆変換群とするような被覆グラフのことをいい,結晶格子等の周期性を有する無限グラフの一般化に相当する離散モデルである.本講演ではべき零被覆グラフ上のランダムウォークに関して中偏差原理が成り立つという結果を報告する.中偏差原理とは,大数の法則と中心極限定理の任意の中間スケールの下での確率減衰を記述する極限定理である.本講演ではその証明はもちろんのこと,中偏差原理のレート関数にランダムウォークの推移確率から定まるアルバネーゼ計量が明示的に現れる等,幾何学的性質がどのように極限定理に影響を与えるかに注意しながら話をしたい.時間が許せば,中偏差原理の応用としてべき零被覆グラフ上の(汎関数)重複対数の法則が得られることについても触れる予定である.
2019年6月24日(月)
講師:角田謙吉 氏(大阪大学大学院理学研究科)
題目:多様体上のランダム単体複体のBetti数に対する大数の法則について
概要:本講演では多様体上のPoisson点過程を考え,Poisson点過程の各点を中心とした球達の和集合のトポロジーについて議論する.具体的には,熱力学的状態とよばれる設定の下で,その球達の和集合のBetti数に対する大数の法則について説明を行う.時間が許せばパーシステントホモロジーへの応用についても紹介したい.本講演はAkshay Goel氏とKhanh Duy Trinh氏との共同研究に基づく.
2019年6月17日(月)
講師:梶野直孝 氏(神戸大学大学院理学研究科)
題目:劣Gauss型熱核評価の下でのエネルギー測度の特異性
概要:本講演ではMathav Murugan氏 (University of British Columbia)と講演者の最近の共同研究で得られた,一般の完備測地距離を備えた強局所的正則対称Dirichlet空間に対し,上下からの劣Gauss型熱核評価はエネルギー測度の参照測度に関する特異性を導くという結果を報告する.自己相似フラクタル上の自然な自己相似性(スケール不変性)を持つDirichlet形式に対しては,楠岡(1989, 1993), Ben-Bassat, Strichartz and Teplyaev (1999), 日野(2005), 日野-中原(2006)の結果により多くの場合にエネルギー測度は自己相似測度に関し特異であることが知られているが,これらの結果はいずれも空間の自己相似性に大きく依存していた.実際には空間の自己相似性がなくとも,劣Gauss型熱核評価と呼ばれるフラクタル上の拡散過程に対して典型的に成り立つのと同様の形の熱核評価さえ成立していれば,一般の強局所的正則対称Dirichlet空間においてもエネルギー測度の特異性は従うと予想されていたが,長年に渡って未解決であった.本講演の主結果はこの予想を肯定的に解決するものである.
2019年6月10日(月)
講師:永沼 伸顕 氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科)
題目:Asymptotic expansion of the density for hypoelliptic rough differential equation
概要:本講演では,非整数Brown運動により駆動される確率微分方程式を考える.ラフパス解析を用いて定式化される方程式の解は,自然な仮定の下で,分布密度を持つことが知られている.この分布密度の短時間における漸近挙動について得られた結果を紹介する.また,時間が許せば,主定理が適用可能な典型例についても紹介したい.本講演は,稲浜 譲氏 (九州大学)との共同研究に基づく.
2019年6月3日(月)
講師:田中亮吉 氏(東北大学大学院理学研究科)
題目:Cutoff for product replacement on finite groups
概要:与えられた有限群の元を実効的に一様サンプリングするという問題は,有限群論と理論コンピュータ科学との関連で研究されてきた.Product replacement algorithmと呼ばれるランダムalgorithmはその1つであり,サイズnの生成系全体の集合の上のマルコフ連鎖で,その上の一様分布に収束するものである.このマルコフ連鎖はあるクラスのマルコフ連鎖の族の1つでもあり,完全グラフ上の生成消滅のある相互作用粒子系ともみなせる(kinetically constrained modelの一種).今回はこのマルコフ連鎖の混合時間について得られた結果(Peres-講演者-Zhai)をお話ししたい.またこの問題はいくつかの異なる側面で(理論)コンピュータ(科学)と関わっている.本講演ではそうした方向についても出来るだけ詳しく話したい.
2019年5月27日(月)
講師:岡本潤 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:O'Haraエネルギーのランダムな離散化と連続極限
概要:本講演では,O'Haraエネルギーの確率変数を用いたランダムな離散エネルギーを与え,その収束性とコンパクト性について議論する.O'Haraエネルギーとは,結び目に対して定義される汎関数で,各結び目のクラス(アンビエント・イソトピーについての同値類)に対する標準的な形状を,変分的手法により定義する目的で提唱された.特定の指数の場合,メビウス変換による不変性が示されたことから,メビウスエネルギーと呼ばれる.最小元の形状解析のために,これまでに様々なメビウスエネルギーに対する離散化が定義されているが,従来の離散化では連続エネルギーへのΓ収束性までのみしか示されていなかった.本講演では,O'Haraエネルギーの確率変数を用いた"ランダム"な離散近似を導入することにより,最適輸送理論に基づいた空間における離散エネルギーの"局所一様収束性",さらには"コンパクト性"を示すことに成功したことを報告する.
2019年5月20日(月)
講師:藪奥 哲史 氏 (千葉大学大学院理学研究院)
題目:Eigenvalue process of Ginibre ensemble and Overlaps of their eigenvectors
概要:ランダム行列の固有値の時間発展モデルの研究はDysonによって始まった.行列成分が独立なブラウン運動であるエルミート行列の実固有値過程はDysonブラウン運動と呼ばれ,これはGUE(ガウシアン・ユニタリ・アンサンブル)の時間発展モデルである.この実数値確率過程は固有値の性質から互いに“反発”し,長距離相互作用をもつ.一方で非対称(非正規)行列の場合,固有ベクトルから定まるオーバーラップ関数と呼ばれる量が注目されており,静的な振る舞いに関する研究が盛んに行われている.非対称行列の時間発展モデルでは,複素数値固有値過程はオーバーラップ関数の影響を受けることがBourgade, DubachやGrela, Warcholによって報告されている.本講演では非対称ランダム行列であるGinibreアンサンブルの時間発展モデルについて議論し,その複素数値固有値過程の振る舞いとオーバーラップ関数との関係について得られた結果を紹介する.
2019年5月13日(月)
講師:会田茂樹 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:Weak Poincare inequalities on path spaces: non-explosion case
概要:リーマン多様体上の始点が与えられた連続な道の空間(パス空間)にはブラウン運動の自然な確率測度が存在する.このパス空間上の微分を用いてディリクレ形式が定まり,多様体のリッチ曲率が有界ならば,このディリクレ形式に対して対数ソボレフ不等式が成立するなどという結果も知られている.有界性を外してしまうと,対数ソボレフ不等式のようなよい不等式の成立は望めないが,Weak Poincare inequalityとよばれるポアンカレ不等式とディリクレ形式の既約性を補間するような不等式の成立は期待され,実際,Ricci曲率に対するある仮定の下,Feng-Yu Wangやその周辺の人たちにより,不等式の成立が示されている.彼らの証明は,Clark-Ocone formulaを用いるものであり,彼らの仮定の下ブラウン運動は保存的になる.ブラウン運動の非爆発の条件のみで,Weak Poincare inequalityの成立が予想できるが,Clark-Ocone formulaを用いた議論のみでは,難しいように思える.この講演では,確率微分方程式の解の性質(ラフパスの汎関数としての連続性定理)を用いたこの問題へのアプローチについて説明したい.
2019年4月22日(月)
講師:南就将 氏(慶應義塾大学医学部)
題目:感染症の世代間隔に対する確率モデル
概要: 感染症の世代間隔とは,ある個体が感染を受けてから他の個体を感染させるまでの時間間隔のことである.この概念を明確にするために,感染性の時間変化と集団における個体間のランダムな接触を同時に考慮した簡単な確率モデルを定式化する.次にこのモデルを用いて,感染症の基本再生産数と,流行初期の新規感染者数の指数的増大度との関係を,ある確率分布のモーメント母関数を通じて与える公式を導く.この確率分布は,先に定義した世代間隔の分布において接触頻度を表すパラメータをゼロに近づけて得られる極限分布である.