本研究では、DPD(粗視化シミュレーション)とPH(トポロジカルデータ解析)を連携させ、プロトン交換膜におけるミクロ相分離構造を対象として構造特徴の定量化と機械学習への応用を行った。特に、水チャンネルの形成パターンをPHにより解析し、高プロトン伝導度を示す材料に共通する特徴的な水チャンネル構造を見出した。さらに、パーシステントイメージ(PI)としてベクトル化し、得られた構造特徴を教師無し機械学習に用いることで、膜構造(ミクロ相分離構造)と物性(プロトン伝導度)の対応関係を予測可能な形で定式化する手法を開発した。
Higashi, Y., et al. Digital Discovery 4 (5), 1339-1351 (2025).
本研究では、フラグメント分子軌道 (FMO) 法 という量子化学計算手法 の1つを用いて、SCOP2分類というPDBに登録されている約6000構造もの基本的な形(フォールド)の代表に対して網羅的な計算を実施して、相互作用のデータを取得しました。この計算によって、約 6000のタンパク質の構造を調べ、その中で2億以上のアミノ酸残基ペアの間でどのような相互作用が働いているかを定量的に解析しました。
Takaya, D., Ohno, S., Miyagishi, T. et al. Sci. Data 11, 1164 (2024).
本研究では、燃料電池や水電解装置の中核部品を担うアニオン交換膜材料を対象に、2つの教師なし機械学習モデルを連携させることで化学構造情報に基づく材料マップを作成しました。さらに、マップ上の各材料データ点をアニオン伝導度(アニオン交換膜の重要物性)の値に応じて色付けることで、多様なアニオン交換膜のアニオン伝導度と化学構造の特徴・関係性を明らかにし、材料マップを用いた材料設計の効率化を提案しました。
九州大学からのプレスリリースはこちら
Y. K. Phua, N. Terasoba, M. Tanaka, T. Fujigaya, K. Kato, ChemElectroChem, 10.1002/celc.202400252 (2024)
本研究では、生体高分子を対象とした粗視化シミュレーションの高精度化のために、人工知能(AI)ポテンシャルと、統計的結合長および排除体積相互作用に関連する最小限の粗視化ポテンシャルからなる新しいハイブリッドポテンシャルを開発し、タンパク質の特性を維持したまま転移ダイナミクスの加速に貢献しました。
R. Kanada, A. Tokuhisa, Y. Nagasaka, S. Okuno, K. Amemiya, S. Chiba, G.-J. Bekker, N. Kamiya, K. Kato, Y. Okuno, Journal of Chemical Theory and Computation, 20, 7-17 (2024).
本研究では、アニオン交換膜 (AEM) の機械学習 (ML) モデルを開発しました。このモデルは、さまざまな目に見えない AEM 材料のセットのアニオン伝導率を、その状態に関係なく、高精度で予測可能です。これにより、新しい AEM 材料の仮想合成前スクリーニングが可能になり、リソースの消費が削減されます。さらに、人間が理解できる予測ロジックにより、AEM 材料のアニオン伝導性に影響を与える新しい要因が明らかになりました。
九州大からのプレスリリースはこちら
Y. K. Phua, T. Fujigaya, K. Kato, STAM 24, 2261833 (2023).
古典分子動力学シミュレーション等では分子力場と呼ばれるパラメータが一般に用いられ、計算精度に大きく影響します。特に、クーロン相互作用を決定する原子電荷は固定値が用いられており、構造変化に伴う分極や電荷移動を加味できていません。そこで我々は、周辺環境に応じて変化する原子電荷を予測する機械学習モデルの構築を進め、前例のない多数の原子を含む系における高精度予測モデル構築に成功しました。
K. Kato, T. Masuda, C. Watanabe, N. Miyagawa, H. Mizouchi, S. Nagase, K. Kamisaka, K. Oshima, S. Ono, H. Ueda, A. Tokuhisa, R. Kanada, M. Ohta, M. Ikeguchi, Y. Okuno, K. Fukuzawa, T. Honma, J. Chem. Inf. Model. 2020, 60, 3361.