ヨシノボリ類は、日本の淡水域であればほぼどこでも見られると言っても過言ではない小さなハゼの仲間です。初めて川で魚捕りをする人でも簡単に捕まえられる魚の一つだと思います。一方で、採集の容易さとは対照的に、魚捕り初心者が最初にぶつかる壁もヨシノボリでしょう。どの種も一見よく似ていることに加え、小さく体色も個体や環境により大きく異なるため、同定は簡単ではありません。では経験を積んだ魚捕り人なら、あるいはその道の研究者ならばどんなヨシノボリでも一目瞭然なのかというとそうではありません。古くから多くの研究者が挑んできた一群であるにも関わらず、その分類、進化、生態などのいずれにも解き明かされていない謎がたくさん残されています。琵琶湖岸でひょいと掬ったヨシノボリでさえ、人によって呼び名が異なるということがあり得るのがヨシノボリです。つまり、ヨシノボリとは最も身近でありながら、最も奥深く、難しく、それ故に多くの魚好きや研究者を惹きつけてやまない魚の一群だと言うことができるでしょう。
本企画では、フィールドワーカーの集まりであるこのサークルの強みを活かして、全国津々浦々から多様なヨシノボリを集めてきました。特にこれまで変異の大きさゆえに様々なラベリングが試みられてきたカワヨシノボリ、トウヨシノボリについては、できる限り網羅的に採集・掲載しています。ヨシノボリの魅力や奥深さ、わからないからこその面白さ、また、それを通じた日本の生物多様性の豊かさに触れていただければ幸いです。