2020年5月、紙の部誌が発行できなくなったことで、文学パートは「カクヨム」のアカウントを開設した。第一歩として、部員にアンケートを取り、数年以内の部誌から評価の高かった作品をいくつか選抜し、投稿。それからは「オンライン版部誌」という位置付けでPDF版とは別に投稿を続ける予定だった。しかし、2021年4月の『修辞』は収録作のすべてを投稿したものの──「2020年11月の『澪標』はどうしたんだ」とはどうか訊かないでほしい。まあ色々あったのだ──同時期にホームページが本格的に稼働させ始めたのに伴い、掲載先を一本化することにした。2021年6月の『澪標』は収録作をカクヨムには投稿せず、そして同6月下旬、文学パートのカクヨムアカウントはその短い歴史に幕を下ろした。閉鎖したのは、掲載先が増えると編集の負担が重くなること、引き継ぎが困難になると考えたためである。便利なツールは躊躇わずに導入すればいいとは考えているが、無駄な仕事を無意味に増やすのは本意ではない。
カクヨムに投稿された作品は、文学パートの発行した部誌に収録されているものがほとんどだったが、その中に2作品だけ、新規に書き下ろされたものがあった。それが石川新の「同郷」と、灰木華燃の「大凶を引いてしまったので、おみくじ風の小説を書きました。」である。アカウントを開設して間もなく、投稿作について部員にアンケートを取ったとは先述したが、実は同時に新規の作品募集もかけていた。2人はその募集に応じてくれたのである。
2021年7月、諸事情があり過去に発行された部誌を整理しているところなのだが、これを期にこの2作を部誌『瑞雨』として「発行」することにした(実を言うと表題自体はずいぶん前から公開されていたのだが)。「穀物の成長を助ける雨」という意味から、今はなきカクヨムのラインナップを潤してくれた二人の作者への感謝の意を込めたつもりだ。何しろ、当時のカクヨム投稿は現在のホームページのモデルとなっているのだ。積極的に活動に協力してくれた二人には大いに助けられた。
パンフレットとも言うべき薄手の冊子だが、この編集後記と合わせて、コロナ禍に、四苦八苦しながらも活動方針を模索していた当時の雰囲気を感じ取っていただければと思う。
それでは、また。
2021年7月3日
山本哲朗