地震や火山活動,プレートの移動などの地球上の物理現象の理解に向けては,地殻〜上部マントル内部の3次元的な不均質構造や異方性分布などの情報が不可欠です.近年,大陸域を中心に展開されている広帯域地震観測網を利用した地震波トモグラフィー法の開発・運用によって広域の全体像がわかってきています.しかし,トモグラフィー研究は水平・鉛直方向に存在する境界などの局所的な変化に対して強い感度を示さないため,地殻-マントルを決めるMoho面,固いリソスフェア(プレート)と高温で柔らかいアセノスフェアとの境界(LAB)などを十分に拘束できません.また,これらの他にも,地球内部にはプレート成長や地球進化,物性変化を反映した多様な不連続面が存在しますが,それらの空間分布や地震学的性質などは未知のままです.
私は,地震表面波のトモグラフィデータ,境界面を通過する際の実体波の変換を反映するレシーバ関数,それらの偏向解析など,多種多様な地震波データを用いたハイブリッド解析を通じ,世界中の大陸・海洋の上部マントル内部に存在する不連続面の詳細な空間分布を調べています(大陸域は北海道大学の吉澤和範先生,海洋域は東京大学地震研究所の一瀬建日先生とも協力).また,伝播方向や振動方向によって伝播速度が変化する地震波異方性は地球の過去・現在における物質の流れを反映する重要な指標です.この地震波異方性と地球内部の不連続面の関係性は,上部マントル内部で発生している物理現象を知る重要な手掛かりとなります.これらの情報を基に,地質学やその他の地球物理学的データ,ジオダイナミクスの知見などの種々の地球科学的データと付け合わせていくことで,現在の地球内部構造とその進化過程の解明に向けた研究を進めています.
References:
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Detecting rapid lateral changes of upper mantle discontinuities using azimuth-dependent P-wave receiver functions and multimode surface waves, Physics of the Earth and Planetary Interior, 107468, https://doi.org/10.1016/j.pepi.2025.107468
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Mapping upper mantle discontinuities beneath the Australian continent using multimode surface waves and receiver functions, submitted to Physics of the Earth and Planetary Interior (in revision), preprint: https://doi.org/10.31223/X54J05
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Long-period Teleseismic P-wave Polarization Anomaly: Insight into the lateral heterogeneous and anisotropic structure beneath the Australian Continent
地下構造を地震波から調べる場合,多くの場合インバージョン解析を必要とします.私は,ベイズ統計学を利用して,非線形問題を非線形インバージョンとして解き,データや推定モデルの誤差,そのパラメータ数なども同時推定するような手法を構築しています.また,これらの既往研究をさらに発展させるような,データの取り扱いのアプローチやより物理的に適切なパラメータ設定などについても調べています.図2は,豪州北東部のCTAO観測点周辺でのMoho面とLABが局所的に変化する様子を示していて,大陸上部マントルの研究では通常扱わない「レシーバ関数の入射方位依存」を考慮することで,深部不連続面を局所変化を高精度に捉えられる手法を構築しました.
最近では,地球の上部マントルの構造,特にリソスフェア-アセノスフェア・システムを知るには,複数の地球物理情報を組み合わせることが必要と感じています.これまでは地震波速度に主に着目してきましたが,地震波の減衰構造や電磁気データと組み合わせた統合解析を行うことが必要と考え,そのような複数データを統合して解析できるようなインバージョン手法の構築を目指しています.
References:
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Detecting rapid lateral changes of upper mantle discontinuities using azimuth-dependent P-wave receiver functions and multimode surface waves, Physics of the Earth and Planetary Interior, 107468, https://doi.org/10.1016/j.pepi.2025.107468
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Long-period Teleseismic P-wave Polarization Anomaly: Insight into the lateral heterogeneous and anisotropic structure beneath the Australian Continent
図1: 推定した不連続面分布に基づく豪州大陸の境界面模式図.
図2: ベイズ推定による入射方位を考慮した地下構造推定および不連続面検出.
地震計は通常,上下,南北,東西の3成分を記録していて,水平2成分のセンサーは真北・真東に向くように設置されています.しかし,その設置方位は稀にどちらかに傾いている時があります.下図は豪州大陸内部の定常観測点の水平成分センサーの方位とその方位ずれを補正した場合・しない場合でのレシーバ関数を示しています.このような場合,表面波解析やレシーバ関数解析を精緻に行うことは難しくなります.北海道大学の吉澤先生と協力し,世界中で数多く発生する地震によるP波やRayleigh波の到来方向を調べることで,世界中の観測点の異常を検知し情報をまとめて公開しています.
References:
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Station-orientation catalog for Australian broadband seismic stations, Pure and Applied Geophysics, https://doi.org/10.1007/s00024-025-03827-7
図: 豪州大陸定常観測点の水平成分方位と方位ずれによるレシーバ関数への影響.
大規模な地震が発生すると世界中の地震観測網で地震波が観測されます.観測される地震波には,蓄積したひずみの単なる解放現象だけでなく,断層の幾何形状,流体の有無や断層面上・面外における媒質不均質などの地下構造も複雑に関与を反映しています.私の研究では,遠地で観測された地震波を波の放射源として投影するBack-projection解析を駆使して,広域かつ複雑な震源断層の破壊過程を可視化しています.
下の動画は能登半島地震と2025年ミャンマー地震を例としたP波放射源の時空間発展の様子です.P波を放射した領域が断層の破壊域に対応する様子や,破壊の進行に伴う地震波周波数の変化,放射源が破壊進行に対して逆向きに進行するなど,複雑な断層現象を可視化しています.
また,Back-projection解析は,インバージョン解析と異なり先験的に与えるパラメータが少なく計算が早いことが特徴です.EarthScope(旧IRIS) でも自動解析結果が公開されていますが,我々の独自のデータ処理・Back-projection解析での自動解析結果を,北大の地震学研究室経由で公開しています(そのうち..本当に実装予定,現在は当ページのAutomatic BPのページに公開).
References:
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2025). Frequency-dependent seismic radiation process of the 2024 Noto Peninsula earthquake from teleseismic P-wave back-projection. Earth and Planetary Science Letters, 666, 119509. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2025.119509
Tarumi, K. & Yoshizawa, K. (2025). Multi-frequency Teleseismic P-wave Back-projection of the 2025 Mw 8.8 Kamchatka Peninsula Earthquake, submitted to Earth and Planetary Science Letters (in revision), preprint: https://doi.org/10.31223/x5s466
Tarumi, K. & Yoshizawa, K. (2025). Role of Fault Geometry in Generating Backward-migrating P-wave Radiation During the 2025 Mw 7.7 Myanmar Earthquake, submitted to Journal of Seismology
2024能登半島地震におけるP波放射過程.
2025年ミャンマー地震におけるP波放射過程.
世界各地で観測される地震波を放射するのは,地震だけではなく大規模な火山噴火なども含まれ,地震波だけでなく大気を伝わる波も励起します.これらの地震を解析することで,噴火の時刻歴や物理過程などの詳細を知ることができます.また,大気や海洋を伝わる波は,時に固体地球との共鳴振動を生み出します.このような地球を揺るがす地震以外の現象も,地震波や大気波などの解析を通じて行なっています.下図は,2022年に発生したHunga Tonga-Hunga Ha'apai火山で発生した大規模噴火の時刻歴を,詳細に調べた例になります.さらに,噴火時などに発生する大気や海洋と固体地球との共鳴振動などの励起・増幅メカニズムなども調べています.
References:
Tarumi, K., & Yoshizawa, K. (2023). Eruption sequence of the 2022 Hunga Tonga-Hunga Ha’apai explosion from back-projection of teleseismic P waves. Earth and Planetary Science Letters, 602, 117966. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2022.117966
2022年トンガ噴火の時間推移を地震波の解析から解明 ~大気−固体地球の共鳴振動と噴火の発生間隔との関係性を示唆~https://www2.sci.hokudai.ac.jp/faculty/research-news/9029
Looking back at the Tonga eruption https://www.global.hokudai.ac.jp/news/6677#:~:text=The%20results%20revealed%20that%20the,least%20until%2004%3A35%20UTC.
図1: 2022年に発生したHunga Tonga-Hunga Ha'apai火山付近での噴火時のP波放射源の分布.
図2: Hunga Tonga-Hunga Ha'apai火山での地震波放射の時刻歴.