今なら雲を捕まえられそう。
立入禁止の看板なんて意味を成していない、学校の屋上。
地上からたった5階分上にいるだけで、こんなにも天に届く気がするのだから、バベルの塔を建てようとした人たちはさぞかし気持ちが良かっただろう。
取り留めもないことばかり浮かぶ。
そういえば、今日の小テストの点数は良かったな。図書室に読みたかった本が入ってたし、体育もない日だった。
だから、そう。ここに来た。
良いことばかり起きているのが怖い。きっと今にもなにか不幸が起こる。
茜色の空が黒に染まり始めていくのを眺める。星も輝き始めて、もうすぐ夜が来る。
カァ、カァ。
カラスの鳴き声がすぐそばで聞こえてくるものだから、気になって視線を声の方向へ向ける。
屋上の金網の上に小さくて細い足を乗せて、それは鳴いていた。不安定なようで、なぜかしっかりとしているように見える。
自分とほぼ真隣の位置にいる彼に、こんばんは、と小さく声を掛けてみる。返事はもちろんない。
カラスが鳴いたら帰りましょう。
人間が勝手にそう言っているけれど、じゃあ、彼自身は鳴いたらどこへ帰るのか。
確かめたいと思った。
君に帰る場所はあるのかい?
それはどこにあるんだい。
尋ねようとも、返事なんかひとつだけだ。
カァ、カァ。
金網から、彼の足が離れる。漆黒の翼が開いて、茜へ飛び込もうとしている。
待って。君の帰る場所に連れて行って。
きっとそこが、わたしの帰る場所なんだ。
彼とは違い不安定なまま腰掛けていた屋上の金網から手を伸ばす。
ああ、雲に、もう届く。
二羽のカラスが、そこから飛び立った。
茜色の地に帰るために。