計測・認識・環境理解などにおいては,カメラをはじめとする視覚情報が重要な役割を担っています.一方で,音にも空間,物体,状態変化などに関する多様な情報が含まれており,視覚では捉えにくい対象や現象を把握できる可能性があります.本研究では,音響計測や音響信号処理を基盤として,視覚では捉えにくい情報を音により可視化する「音で視る」技術の研究を進めています.また,実環境で利用可能なシステムの構築を重視し,音響・ロボティクス・機械・AI・医療分野を横断した研究に取り組んでいます.
風力発電機のブレードには,雷,飛来物,経年劣化などにより損傷が発生します.ブレードの先端速度は200km/hを超えるため,損傷が進行してブレードが破断した場合,重大な事故につながる可能性があります.現状,ブレードの点検は回転を停止させた上での目視検査が主流ですが,点検頻度が低く,地上からの目視検査では小さな損傷を発見しにくいという課題があります.そこで,回転中のブレードから放射される音を利用し,損傷を検知する技術の研究を行っています.これにより,発電機を停止させない常時モニタリングの実現や,小さな損傷の早期発見を目指しています.さらに,損傷の有無だけでなく,損傷位置や損傷程度の推定にも取り組んでいます.
災害発生時には,迅速な探索・救助活動が求められます.そこで,即座に出動し,上空から効率的に探索を行うことができるドローンが注目されています.現在,ドローンを用いた探索手法の多くはカメラに依存しています.しかし,光量の乏しい夜間や,瓦礫に埋もれた被災者を発見することは困難です.そこで,ドローンに搭載した複数のマイクロホンを用い,人の声などの音を利用して被災者の位置を推定する技術の研究を行っています.本研究では,ドローンから発生する強い自己雑音下での音響信号処理が大きな挑戦となります.
災害時の探索・救助活動では,被災者探索と同時に,被災状況の把握や救助ルート確保のための迅速な地表状況把握が求められます.現在,地表センシングにはカメラやLiDARが広く用いられています.しかし,音による被災者探索と同時に実施することを考えた場合,ドローンに搭載可能な機器重量や計算コストに課題があります.そこで,音による被災者探索と共通のハードウェアおよび信号処理を用い,地表からの反射音を利用して地表形状や路面損傷をセンシングする技術の研究を行っています.本技術は災害時だけでなく,インフラ点検やロボットの自己位置推定への応用も期待されます.
高齢化社会の進行に伴い,住宅内での高齢者の転倒事故が増加しています.特に独居高齢者の場合,介護事業者の人手不足もあり,転倒検知の自動化が求められています.生活空間での検知手法としてカメラの利用が考えられますが,トイレや浴室といったプライバシーへの配慮が求められる空間では利用が困難です.そこで,プライバシーを保護しながら,音を利用して人の位置や姿勢を推定する技術の研究を行っています.一般に,トイレや浴室のような狭空間では残響が音響計測の課題となります.しかし,本技術では逆に残響を利用し,残響分布から人の位置・姿勢を推定することで,転倒検知への応用を目指しています.