化石資源等の含まれる硫黄種は、装置腐食や触媒劣化を引き起こすことから脱硫工程によって事前に除去するのが一般的です。一方で小型の天然ガス田の利用も拡大しており、硫黄種が各種反応に及ぼす影響を改めて検討しておくことは将来的に価値があると考えています。そこで天然ガス中に含まれる硫黄種(硫化水素・チオール・スルフィド)の触媒転換や、各種触媒反応への影響を調査しました。例えばエチレン芳香族化において硫黄種は触媒劣化の原因になりますが、適切な触媒を設計することで安定した触媒活性を維持することを見出しました。この研究はNEDO未踏チャレンジ2050(代表:静岡大学 渡部准教授)にて実施され、順次成果を公表する予定です。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastic)は軽量かつ高強度という優れた材料特性を有しており、自動車や航空機の車体軽量化の材料として需要が急増しています。しかしCFRPリサイクル技術が追随できておらず、既存プロセスの改善や新規プロセスの開発が社会的に求められています。これらの課題に対して、2つのアプローチからCFRPリサイクルの促進を研究しています。
① 熱分解リサイクルにおける排気ガスからの有価物回収プロセスの研究
現状のCFRP熱分解リサイクルでは、回収される炭素繊維の損傷を抑えるため、比較的低温で熱分解が行われています。温度が低いために人体に有害なガスを含む様々な成分が発生し、その処理がプロセスの拡大に課題になっていました。ゼオライト触媒を用いた有害ガスの転換除去を検討したところ、Beta型のゼオライトを用いて反応条件を制御することで、有価物であるフェノールを高選択的に得られることが分かりました。また本プロセスはCFRP熱分解温度よりも低温で実現でき、グリーンな手法でプロセス拡大に貢献できます。この研究は科研費の若手研究(19K2048)にて実施され、成果はIndustrial & Engineering Chemistry Research 等で報告しました。
② 電気アシストを用いた新規リサイクルプロセスの研究
炭素繊維の損傷を回避できる新規リサイクルプロセスを開発するため、電気を用いてCFRPから炭素繊維を回収する電圧印加法を研究しました。CFRPに十数Vの直流電流を印加することで、常温常圧で炭素繊維を損傷なく回収できることを見出しました。そして分離機構が、水の電気分解で発生した酸素ガスの圧力によって、機械的に樹脂が剥離する(peeling)ことを明らかにしました。この研究は池谷科学技術振興財団や向科学技術振興財団の助成のもとに実施され、成果はSeparation and Purification Technology 等で報告しました。