哺乳類において脊髄損傷が生じた場合、失った神経機能が完全回復することはない。有尾両生類であるイモリは、脊髄損傷後に生じる自発的な再生機構により最終的に脱失した神経機能の完全な回復が達成される。この自発的再生機構に関与する遺伝子群を哺乳類へと導入することで、哺乳類における神経機能回復をもたらす遺伝子の同定を目指す。
イベリアトゲイモリは約200億塩基対というヒトの約7倍もの巨大なゲノムを有する。イモリ特有遺伝子の存在も示唆されており、ゲノム比較によるシンテニー解析やアミノ酸配列による系統樹解析、発生・再生における遺伝子発現様式、遺伝子導入、行動解析等を通じ、脊髄再生を惹起・促進する遺伝子の同定を試みる。
無尾両生類であるオタマジャクシ・カエルでは、変態前後で脊髄再生能が大きく変化する。後肢の発生開始時期(~Stage 54)では脊髄再生が可能であるが、後肢の形態形成が終わる頃(Stage 58~)には再生はほぼ不可能となる。このオタマジャクシ・カエルにおける脊髄再生能が神経細胞新生能と関連することを既に見出しており、有尾両生類であるイモリにおける脊髄再生後の神経機能回復と神経細胞新生の関連性や、新生神経細胞の機能を解析する。
マクロファージ/ミクログリアは、哺乳類では状況に応じ再生促進・再生阻害の双方の機能を示すと考えられている。一方で、魚類においては、創傷治癒機転から自発的再生機構の惹起をもたらす細胞であると考えられているが、再生全体における機能は不明である。有尾両生類の脊髄損傷後神経機能回復におけるマクロファージ/ミクログリアを含めた免疫細胞の役割を解析する。
腫瘍組織内には化学療法や放射線治療に抵抗性を示すがん幹細胞が存在し再発・転移の一因となっている。このがん幹細胞に特異的に発現する分子を同定することで新規治療法につながる基盤研究をおこなっている。現在は、難治性の脳腫瘍であるグリオーマのがん幹細胞において長鎖非コードRNA(lncRNA)が顕著に高発現することを見出し、その発現抑制により抗腫瘍効果を示すことを明らかにしている。このlncRNAの機能解明によりグリオーマ進展における意義を明らかにする。さらに、GFP発現がん幹細胞を樹立しマウス脳移植実験をおこなっており腫瘍進展やがん微小環境を可視化し細胞間相互作用等をin vivoで解析している。
一般的な転写因子は核膜の崩壊と染色体の凝集時にDNAから脱結合し、細胞中を拡散します。そのためゲノムDNA上の転写因子結合パターンは一度リセットされ、細胞分裂終了後に再び再構築されると考えられてきました。一方で一部の転写因子はM期においてもゲノムDNAと結合して染色体局在を示し、細胞特有の転写因子結合パターンを維持すると考えられます。そのため、第三の細胞記憶メカニズムとして期待され、その機能を解析しています。
一次感覚ニューロンは中枢神経系と皮膚や内臓を結ぶニューロンであり、触覚・圧覚・温度覚・痛覚などの感覚情報の受容、伝導、および伝達を担う。また、受容する感覚の種類ごとに特徴的な形態を示すことが古くから知られている。本研究では、一次感覚ニューロンの形態および機能を調節する因子を探索することで、感覚受容機構の解明を目指す。
成獣個体において一次感覚ニューロンは、細胞体がサテライトグリアに、軸索がシュワン細胞に取り囲まれている。この構造は生後に完成するが、これ以降における細胞更新の有無は長らく不明であった。しかし、正常成獣個体の後根神経節においても幼弱なシュワン細胞が存在し、有髄シュワン細胞へと成熟することを見いだした。本研究では、正常および病態時における細胞更新の変化と、それが感覚機能に及ぼす影響について解析を行う。
胆汁酸は主に脂質消化の補助物質としての機能が知られているが、糖・エネルギー代謝や免疫調節への関与も報告されている。胆汁酸受容体は脳内にも分布していることから、新たな神経機能調節ホルモン様分子としての機能が期待される。本講座では、胆汁酸の脳保護作用や脳の恒常性維持への関与について研究を進めている。
本学綜合研究施設に付設されている質量分析顕微鏡は、低分子の局在様式を顕微鏡下にて可視化することのできる特異な研究機器である。本講座では、正常・疾患モデルマウス等の動物を用い、質量分析顕微鏡を用いた特定低分子の局在様式を明らかとし、その機能に迫る研究を行っている。左図では、脳内に分布するスルファチド分子種によるオリゴデンドロサイトのクラスタリング様式を示す。
本講座は学部教育として肉眼解剖学・神経解剖学・組織学の主担当を務めている。これらの教科では、学生へのアンケート調査を元に毎年何らかの新たな施策を取り入れ、常に教育改革を行っている。これらの教育改善効果の分析を行っている。また、医師を対象としたご遺体を用いた手術手技研修(CST)の教育効果の解析や、CSTに資するご遺体の新たな固定法等の開発研究も行っている。