研究内容

【里地里山の生物多様性】  

近年里山の利用低減や農業の集約化などによって, 日本の多くの生物の好適な生息地としての里地里山の環境が劣化・消失し, 多くの生物が絶滅の危機に陥っています. 私たちは里地里山の構成要素である水田や周囲の草地, 森林とのつながりに着目し, 隣接する複数の生態系における環境の変化と生物群集の応答パターンを解明しています. また, DNAメタバーコーディングや直接観察によって里山に生息する生物の種間関係を解明することにより, 持続的な里地里山の管理手法の構築を目指しています.

業績番号: 25, 26, 27, 28, 30, a11, a12, a13, a14, b6

キーワード: 半自然草原, 二次林, 水田型ビオトープ, 地表徘徊性昆虫, トキ, サドガエル, ミミズ, 水生昆虫, DNAメタバーコーディング, 胃内容分析

サドガエルの定量調査

サドガエル

地元の方の指導の下

学生らがビオトープを造成   

草刈による昆虫群集への影響

操作実験の様子

【森林の環境変化と昆虫群集の応答様式】

森林の劣化・縮小とそれによる生物多様性や生態系への負の影響が世界中で問題となっています. 温帯から熱帯まで森林を取り巻く社会的な背景は異なり, 環境の変化とそれによる生物多様性・生態系への影響も異なります. 私たちは温帯から熱帯までさまざまな地域の森林で環境の変化と生物群集への影響に関する研究を進めています. また, 分解や種子散布, 個体数調節などの生態系サービスに寄与する糞虫群集やアリ群集と, 森林環境との関係を解明し, それら昆虫群集の環境指標生物としての有用性について検討しています.

業績番号: 6, 8, 9, 11,18, 20, a3, a6, a9, b3

キーワード: モニタリング1000森林サイト, 焼き畑, 糞虫, アリ

センチコガネ

トラップで捕獲した甲虫など

ピットフォールトラップ

落ち葉からアリを回収

【外来種による影響評価】

国外から持ち込まれた外来種と同様に, 国内外来種や国内外来個体群の侵入地での定着はその地域固有の生物相に負の影響をもたらし生態系を改変させる恐れが指摘されていると同時に, 在来の個体群との交雑, それによる遺伝子攪乱の問題が懸念されています. 東京都の埋立地に侵入した国内外来種リュウキュウツヤハナムグリの生態や, 最近ではアメリカザリガニの影響評価, 駆除方法について研究をしています.

業績番号: 21, a7, a8, b4

キーワード: 国内外来種, リュウキュウツヤハナムグリ, アメリカザリガニ

リュウキュウツヤナムグリ調査

野外での生態調査

ザリガニ捕獲用トラップ

捕獲したアメリカザリガニ

【東南アジア熱帯雨林の昆虫群集】

個体数の季節性と超年次的な変動パターン

東南アジア熱帯の中心部は明瞭な乾期がなく, 年中高温多雨の特徴をもっています. 一方で, その地域は平均して7年に一度不規則的に発生する大規模な旱魃に見舞われます. そうした気候の変動がその地域に生息する昆虫の個体群動態や群集構造にどのような影響をもたらすのかについて研究を行ってきました. これらの研究では野外調査のほか, 調査地[マレーシア・サラワク州・ランビルヒルズ国立公園(以後、ランビル)]で研究をされてきた先輩方・現地カウンターパートの森林局スタッフたちが長年収集してきた昆虫標本を活用し, 東南アジア熱帯ではそれまでほとんど研究がなかった長期昆虫個体群・群集動態を明らかにしています.

業績番号: 2, 3, 4, 5, 7, 14, 19, 29, a1, a2, b2

キーワード: エルニーニョ南方振動(ENSO), 季節性・非季節性, 一斉開花, 甲虫目ハムシ科, 甲虫目コガネムシ科, 昆虫標本

林冠部の昆虫群集構造の特性

熱帯林冠部はさまざまな生物の活動の中心部であることは古くから知られてきましたが, アクセスの難しさから研究は遅れています. 私たちはランビルにあるクレーン設備を駆使して, 樹冠部の昆虫群集の時間的変動や林冠樹木の開花・結実に対する昆虫の反応様式などを明らかにしています.

業績番号: 10, 12, 15, 16, 17, 22, 24, a15, b1

キーワード: DNAバーコーディングによる昆虫の食性分析, 一斉開花・結実, 甲虫目ハムシ科, 半翅類

開花した樹木上で捕虫網を振って調査

ランビルの林冠

【生物多様性基盤情報の収集】

東南アジア熱帯, 日本の都市や里山をフィールドに昆虫の種間関係や生物と環境との関係について研究を進めてきた過程で収集したサンプルを用いて, 分類学の研究者とともにファウナの解明にも努めています. ファウナの解明は地域の生物の歴史や環境の特性を理解できるだけでなく, 新種の発見, 外来種の早期発見にもつながっています. 最近は主に日本産昆虫のDNAバーコードライブラリ構築に関する研究・活動も行っています.

業績番号: 13, 23, a4, a5, a10, b5

キーワード: 大学キャンパス, 半翅類, Onthophagus (Parascatonomus) itiokai, 日本産昆虫のDNAバーコードライブラリの構築, ゴミムシ類

【アリと共生する昆虫の研究】

継続した研究ではありませんが, 1種対1種の絶対共生関係をもつミツバアリとアリノタカラカイガラムシの特性を解明するため, 沖縄島での野外調査や, 従来飼育が困難とされていた両者の飼育方法を確立し, 絶対共生に適応的な形態・巣構造などの形質と生活史を明らかにしました.

業績番号: 1