<ナチョラピテクス・上位胸椎について> 2025年
ナチョラピテクスの上位胸椎・復元モデルは、現生種には見られない特徴を持っていることを示しました。それは、横突起が背側に位置し、背外側を向き、それらの形態によって弱い脊椎の陥入を示唆していることです。つまり、類人猿に見られるような胸椎陥入の進化的初期段階を示唆し、独自の特徴を持つことを明らかにしました。
Kikuchi Y, Amano H, Ogihara N, Nakatsukasa M, Nakano Y, Shimizu D, Kunimatsu Y, Tsujikawa H, Takano T, Ishida H.
Retrodeformation and functional anatomy of a cranial thoracic vertebra in Nacholapithecus kerioi.
Journal of Human Evolution, 198: 103613
<ナチョラピテクス・大腿骨頚について> 2025年
ナチョラピテクスの大腿骨頸部皮質骨の二次元分布解析により、現生の四足歩行霊長類よりも直立や樹上懸垂行動がより強く示唆されました。本研究では、標本の皮質骨に化石化の過程で損傷が見られたため、今後は大腿骨頸部の三次元的な皮質骨分布、特に前後方向の厚さの比較に着目した解析が望まれます。また、こうした解析はCT断面の位置決めの問題も改善し、既存研究で示された機能的指標の理解にも繋がっていくでしょう。
Tomizawa Y, Pina M, Kikuchi Y, Morimoto N, Nakatsukasa M.
Femoral neck cortical bone distribution in Nacholapithecus from the Middle Miocene of Kenya.
Journal of Human Evolution, 198: 103617.
<ナチョラ産・小型狭鼻猿の距骨について> 2025年
大きさや形態から、ナチョラピテクスやヴィクトリアピテクスではなく、これまで足根骨が知られていなかったニャンザピテクスに帰属されると判断されました。体重推定値は約5.2〜5.5kg。距腿関節を安定させるくるぶしの関節窩の発達が弱く、距骨滑車が低いことから、敏捷な伸展屈曲には特化していなかったと考えられます。さらに、滑車下面後部が広く、外側縁が直線的で、足関節の底屈に適していた可能性があり、Leaping行動が推定されました。
Kithinji LN, Kikuchi Y, Nakatsukasa M.
A small catarrhine talus from the middle Miocene Nachola, northern Kenya.
Anthropological Science, 133: 23-31.
<ナチョラピテクス・体重について> 2023年
ナチョラピテクス・ケリオイの体重は、前後肢の骨から平均22.7kgと推定し、従来の約22kgよりやや高い値を示しました。前肢が後肢より相対的に大きい独特な体の比率から、直立姿勢を伴う移動(登攀、枝渡り、降下、腕ぶら下がりなど)を行っていた可能性があります。体重が30kg未満であることから、現生大型類人猿に見られるような、樹上移動時のリスク回避や採食効率に適応した体幹や前肢の顕著な特殊化はまだ見られないと考えられます。また、体重が約24kgを上限とする現生の樹上性オナガザル類を考慮すると、ナチョラピテクスは主に樹上が生活圏であったと推測されました。
Kikuchi Y.
Body mass estimates from postcranial skeletons and implication for positional behavior in Nacholapithecus kerioi: Evolutionary scenarios of modern apes.
Anatomical Record (Hoboken), 306, 2466–2483.
<ナチョラピテクス・大腿骨について> 2021年
新規大腿骨標本は、基準標本KNM-BG 35250で以前に報告されたよりも、相対的な大腿骨頭サイズが小さく、相対的な頸部長が長く、頚幹角が小さいを示しました。これらの特徴は、股関節運動学に関連する強い機能的なシグナルを示しており、ナチョラピテクスの近位大腿骨形態が、より進化したantipronogradeではなく、四足歩行のような移動運動に機能的に関連している可能性があります。さらに、Turkanapithecus kalakolensisを除く他のアフリカの中新世類人猿は、ナチョラピテクスの変異内に収まり、全体的な大腿骨の形状がEkembo spp.およびEquatorius africanusに類似していることを示しました。
Pina M, Kikuchi Y, Nakatsukasa M, Nakano Y, Kunimatsu Y, Ogihara N, Shimizu D, Takano T, Tsujikawa H, Ishida H.
New femoral remains of Nacholapithecus kerioi: Implications for intraspecific variation and Miocene hominoid evolution
Journal of Human Evolution 155: 102982.
<ナチョラピテクス・性差について> 2018年
ナチョラピテクスの大腿骨標本を多数用いて推定体重の性差を明らかにし,社会構造について検討しました。ナチョラピテクスにおける体重の性差はゴリラに相当し,オスがメスの約2倍という値を示しました。発掘状況から複数のオトナオスと複数のオトナメス,さらに未成熟個体が複数含まれる可能性があり,性差が大きいながらも複雄複雌といった現生類人猿には見られない社会構造が推定されました。得られた結果は,現生類人猿には見られない体重性差と性比の組み合わせであることから,類人猿の社会構造進化を解明するための確定的かつ画期的な新知見と捉えることができます。
Kikuchi Y, Nakatsukasa M, Tsujikawa H, Nakano Y, Kunimatsu Y, Shimizu D, Ogihara N, Takano T, Nakaya H, Sawada Y, Ishida H.
Sexual dimorphism of body size in African fossil ape, Nacholapithecus kerioi.
Journal of Human Evolution, 123: 129-140.
<ナチョラ産・ミオエウオティクス(ロリス類,霊長類)の新種> 2017年
アフリカ・ケニア北部,ナチョラ地域から発見された約1500万年前の原猿化石は,P4(第2小臼歯)からM3(第3大臼歯)を有する右上顎で,中新世ロリス類「ミオエウオティクス」の新種であることが分かりました。早い時期の中期中新世からこの種が初めて発見されたことは重要な要素を含んでいます。つまり,先行研究から森林生活者と推測されている本種が,中期中新世ナチョラ動物相に含まれていた事実は,当時のナチョラ地域が森林環境であったことを示しています。これは,樹上適応した形態をもつナチョラピテクスをはじめ,森林性の動物相が数多く発見されている報告と一致する結果となりました。
Kunimatsu Y, Tsujikawa H, Nakatsukasa M, Shimizu D, Ogihara N, Kikuchi Y, Nakano Y, Takano T, Morimoto N, Ishida H.
A new species of Mioeuoticus (Lorisiformes, Primates) from the early Middle Miocene of Kenya.
Anthropological Science, 125: 59-65, 2017.
<ナチョラピテクス・仙骨について> 2016年
ナチョラピテクスの仙骨頭側関節面の面積は,同体重比で,旧世界ザルよりも小さく現生大型類人猿と同様の傾向を示しました。ナチョラピテクスの仙骨は,旧世界ザルと同様に3つの仙椎から構成されていたことが示唆されました。
Kikuchi Y, Nakatsukasa M, Nakano Y, Kunimatsu Y, Shimizu D, Ogihara N, Tsujikawa H, Takano T, Ishida H.
Sacral vertebral remains of the middle Miocene hominoid Nacholapithecus kerioi from northern Kenya.
Journal of Human Evolution, 94: 117-125.
<ナチョラピテクス・手根骨について> 2016年
ナチョラピテクスの手首関節において,尺骨の茎状突起は三角骨と豆状骨,どちらとも関節し,有鈎骨の三角骨関節面は背側から見ると,近遠位方向に沿うような向きとなっていました。また,有頭骨は遠掌側に中程度に発達した鈎状の突起を持ち,さらに,2つに分離された放射状の関節面を有していました。これらの関節面には,小菱形骨と第二中手骨がそれぞれ関節し,その間には手根中手靭帯が付着するものと考えられます。これは,早期中新世類人猿・プロコンスルには見られない特徴であることが分かりました。
Ogihara N, Almécija S, Nakatsukasa M, Nakano Y, Kikuchi Y, Kunimatsu Y, Makishima H, Shimizu D, Takano T, Tsujikawa H, Ishida H.
Carpal bones of Nacholapithecus kerioi, a middle Miocene hominoid from northern Kenya.
American Journal of Physical Anthropology, 160: 469-482.
<ナチョラピテクス・下位胸椎・腰椎について> 2015年
ナチョラピテクスの下位胸椎と腰椎は椎体にVentral keelを持っており原始的な特徴を示しました。胸椎と腰椎の境界(移行胸椎)の高さは旧世界ザル的で,原始的形態と考えられます。一方で,下位胸椎と腰椎の棘突起基部が下関節突起の高さに位置し,現生大型類人猿に見られる特徴が認められました。さらに,下位胸椎の棘突起基部は頭尾方向に長く,棘突起の背側先端は涙様の形を呈しており,どちらも現生大型類人猿に見られる特徴を持っていました。
Kikuchi Y, Nakatsukasa M, Nakano Y, Kunimatsu Y, Shimizu D, Ogihara N, Tsujikawa H, Takano T, Ishida H.
Morphology of the thoracolumbar spine of the middle Miocene hominoid Nacholapithecus kerioi from northern Kenya.
Journal of Human Evolution, 88: 25-42.
<ナチョラピテクス・頸椎について> 2012年
ナチョラピテクスの頚椎は現生霊長類の全身プロポーションで考えると,太く大きいことが分かりました。ナチョラピテクスの前肢は後肢に比べ相対的に大きく,歩行中にこの大きな前肢の筋作用を支えるため,強力な頚椎を持つ必要があったと考えられます。ナチョラピテクスは現生類人猿と旧世界ザルとの中間的特徴を示しました。
Kikuchi Y, Nakano Y, Nakatsukasa M, Kunimatsu Y, Shimizu D, Ogihara N, Tsujikawa H, Takano T, Ishida H.
Functional morphology and anatomy of cervical vertebrae in Nacholapithecus kerioi, a middle Miocene hominoid from Kenya.
Journal of Human Evolution, 62: 677-695.
<ナチョラピテクス・正基準標本の下肢骨について> 2012年
ナチョラピテクスの正基準標本の股関節,膝関節,そして距腿関節の形態からは,現生類人猿のものとは異なり,早い時期の中期中新世の他の化石類人猿に示唆されている,樹上をゆっくり歩くような移動様式が推測されました。しかしながら,足部の形態は,樹上での把握に一層特化したものであり,垂直支持体を高い頻度で使用していた可能性も示唆されました。垂直支持体使用による体幹垂直位は,現生類人猿に特徴的な姿勢であり,ナチョラピテクス下肢骨は現生類人猿様の移動様式に適応しつつあったことが示されました。
Nakatsukasa M, Kunimatsu Y, Shimizu D, Nakano Y, Kikuchi Y, Ishida H.
Hind limb of the Nacholapithecus kerioi holotype and implications for its positional behavior.
Anthropological Science, 120: 235-250.
<三次元幾何学的形態測定学を用いた霊長類・第3-6胸椎における機能解剖とその適応>
2021年
第3~第6胸椎の形態は、類人猿、オナガザル科、新世界ザルのさまざまな姿勢や移動運動を示す霊長類において、機能的適応を反映していることが示唆されました。このため、上位脊椎の形態には、系統的特徴よりも、姿勢や移動運動に対する機能的適応が反映されていると考えられます。
Kikuchi Y, Ogihara N.
Functional anatomy and adaptation of the third to sixth thoracic vertebrae in primates using three‑dimensional geometric morphometrics
Primates, 62: 845-855.
<ぶらさがり,ナックルウォーキング,指行性・蹠行性四足歩行の違いによる霊長類における上腕骨形態と肩関節筋の相関関係> 2012年
筋形態と骨形態を同時分析し,互いの情報を直接的にリンクさせている画期的な研究と言えます。このことから,多様な霊長類種を対象に骨内部情報と筋関連データを収集しデータベース化を図ることにより,化石種の筋復元に応用可能な基礎研究として位置づけることができると考えています。
Kikuchi Y, Takemoto H, Kuraoka A.
Relationship between humeral geometry and shoulder muscle power among suspensory, knuckle-walking, and digitigrade/palmigrade quadrupedal primates.
Journal of Anatomy, 220: 29-41.
<地上性のアカゲザルと樹上性のカニクイザルの橈骨と脛骨における骨断面特性> 2009年
カニクイザルにおける骨質分布に性差が認められました。これはオスとメスの垂直横飛び行動の頻度の差が、前腕および下腿の筋重量の違いを生みだし、その結果、骨質の性差をもたらしたと考えられます。また、橈骨の強度に大きな種差が見出だされました。これは、樹上性サルは地上性サルより樹間のギャップを移動する頻度が高いため、後肢より前肢に大きな力学的ストレスがかかることが要因だと考えられます。
Kikuchi Y, Hamada Y.
Geometric characters of the radius and tibia in Macaca mulatta and Macaca fascicularis.
Primates, 50: 169-183.
<pQCTを用いたマカク属3種を対象とした橈骨遠位部断面形状の比較分析> 2004年
地上性のアカゲザルでは、橈骨手根関節を歩行時に強く内転させる筋の活動パターンと一致する骨断面所見が得られました。樹上性のカニクイザルは、他種に比べ強い把持力に伴って屈筋が発達し、大きな関節可動域獲得のために尺骨との関節面が小さい特徴が見出されました。また、半地上性のニホンザルは上記2種の中間的な特徴を持っており、行動様式と骨形態の機能的相関関係が明らかとなりました。
Kikuchi Y.
Quantitative analyses of cross-sectional shape of the distal radius in three species of macaques.
Primates, 45: 129-134.
<キイロヒヒにおける頭蓋腔,顔面および四肢のサイズ性差> 2015年
性差が最大なのは口蓋長であったのに対し,顔面計測値の中では口蓋幅の性差が最小であり,雄のほうが雌よりも相対的に狭い口蓋幅と長い口吻を持つことが明らかとなりました。この口吻形態は,犬歯を目立たせることに貢献し,雄間の競合や外敵への威嚇に有利な選択圧によって獲得されたものと推測されました。
Kikuchi Y, Kuraoka A.
Sexual dimorphism of endocranial, facial, and limb measurements in the yellow baboon (Papio cynocephalus).
Anatomia Histologia Embryologia, 44: 275-282.
<ボノボにおける腕神経叢と腋窩動脈の形態> 2011年
大型類人猿・ボノボにおける腕神経叢と腋窩動脈の相互の位置関係は,ヒトにおける足立のC型と浅上腕動脈の複合形態であることが明らかとなりました(ヒトでは約5%の出現頻度)。つまり,腋窩動脈は常に腕神経叢の腹側に位置し,上腕部では浅上腕動脈となっていました。観察されたパターンは,ヒトのデータでは,外側胸動脈や下胸筋動脈などが腋窩動脈の代替的な本幹となったと考えられます。この所見は,ヒトとヒト以外の類人猿における神経や脈管系の形態学的類似性を示唆します。
Kikuchi Y, Oishi M, Shimizu D.
Morphology of brachial plexus and axillary artery in Bonobo (Pan paniscus).
Anatomia Histologia Embryologia, 40: 68-72.
<pQCTを用いたチンパンジーとニホンザルの骨密度、骨断面積、骨塩量の年齢変化調査>
2003年
調査した2種の年齢変化パターンは、ヒトと極めて類似した特徴を示し、増減するステージや変化しないステージを組み合わせた3ステージにおおよそ分けられることがわかりました。一方、骨塩量や3ステージの変曲点年齢には量的差異が認められ、体格差や寿命の違いを反映していると考えられます。狭鼻猿種において、ライフサイクルを通して骨代謝がヒトと同様のパターンを示した本研究は、老化モデルを考慮する上で重要な情報と考えられます。
Kikuchi Y.
Age-change of bone mineral density in the distal radius of chimpanzees and Japanese macaques.
Anthropological Science, 111: 165-186.
<pQCTを用いたヒト、チンパンジー、ニホンザルの骨密度調査> 2003年
チンパンジーはヒトに類似せず、むしろニホンザルに近い傾向を示しました。ヒト、チンパンジー、ニホンザルの海綿骨に関する計測値はほぼ同じ値を示し、正常な骨代謝に必要な骨量は、狭鼻猿の種に関わらず共通である可能性が示唆されました。
Kikuchi Y, Udono T, Hamada Y.
Bone mineral density in chimpanzees, humans, and Japanese macaques.
Primates, 44: 151-155.