2022年はKamerlingh Onnesによる超伝導の発見から111年,BCS理論の発表から65年にあたる。この間,超伝導研究は数々の驚くべき発見を経て深化するとともに研究の裾野を広げてきた。特に,銅酸化物高温超伝導体の発見は,室温超伝導実現への期待を強く後押しするとともに,その発現機構をめぐって超伝導分野と磁性分野が融合し,電子相関の研究が推進された。これまでに,鉄系超伝導体,重い電子系超伝導体,分子性固体等々,電子相関由来の非従来型超伝導の研究は着実に積み重ねられてきた。このような中,最近発見された高圧下水素化合物では超高圧下とはいえ,室温付近での超伝導が実現されており,これを契機にマテリアルインフォマティクスによる新規高温超伝導体の探索も進められている。また,量子計算実現に向けてのトポロジカル超伝導体の研究は激しい国際競争の対象となっている。
このように近年の超伝導研究は多岐にわたるが,これらの魅力的な超伝導は「非自明な電子状態」で発現するという共通点を持つ。例えば,その典型例である銅酸化物高温超伝導体では,電子間の相互作用が強く働いた電子液体のような状態から高温超伝導が出現する。その非自明な電子状態は長らく異常金属と呼ばれ,発見から36年を経た現在においても新しい発見が相次いでいる。最近では,大量の酸素欠損を含んだ新しい銅酸化物や類似の電子状態を持つと考えられるニッケル酸化物等が関連物質に加わり,新しい展開が見られる。電子相関に起因する非従来型超伝導として共通点の多い,鉄系超伝導体,重い電子系超伝導体,分子性固体等では,結晶中の電子が持つ電荷,スピン,軌道,格子の自由度が複雑に絡み合うことでさらに多彩な電子状態が発現しており,量子液晶状態との関係も注目されている。特に,鉄系超伝導体に見られるネマティックな電子状態の臨界点付近では時間反転対称性の破れたカイラルな超伝導が実現しており,超伝導ギャップが面で壊れたボゴリウボフ・フェルミ面が出現していると考えられている。実験的にもネマティック秩序状態における電子軌道のナノスケールでの直接観察も進み,その非自明な電子状態が徐々に明らかになっている。また,高圧下水素化合物の超伝導ではフォノンの非調和性あるいは原子核の量子性が強く,電子格子相互作用による超伝導におけるBCSの壁を超えたという点で,やはり通常のBCS理論では捉えきれない非自明な電子状態のもとで高い転移温度が実現されている。加えて,トポロジカル超伝導体はそもそも非自明なトポロジカル数を持った電子状態であり,また,近年のレーザー技術や微細加工技術の進展によって,光誘起超伝導や超伝導電流制御,反転対称性の破れに伴う超伝導ダイオード効果のような非相反効果に代表される数多くの非自明な超伝導現象が観測されている。
以上のような背景のもと,非自明な電子状態が生み出す超伝導現象における挑戦的な課題をさまざまな視点から俯瞰し,その重要性を議論する機会を持つことは,超伝導における理論研究が今後進むべき道を探る上で絶好の機会となる。そこで,各分野で世界最先端の研究成果を挙げている第一線の理論研究者を集め,最新の研究成果について討論するとともに,実験研究者の講演も織り交ぜて議論する研究会を提案したい。このような研究会を開催することは,超伝導研究の第一線で活躍する研究者はもとより,若い大学院生にとっても大いに刺激になるものと期待される。研究会は,招待講演者による口頭発表に加え,一般申し込みによる口頭発表とポスター発表を行う。