銀河系の周囲には、多数の矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal galaxy, dSph)が存在しており、これらは宇宙で最もダークマターに支配された天体の一つです。私たちの研究では、恒星の運動データを用いて、それぞれの銀河の内部におけるダークマター密度分布を推定しています。その結果、矮小楕円体銀河のダークマター分布には、中心に高密度な「カスプ型」から低密度な「コア型」まで多様な構造が存在することが明らかになってきました。この多様性は、ダークマターの性質や銀河形成の過程を理解する手がかりとなります。
(参考文献: Hayashi & Chiba2012, Hayashi+2020, Hayashi+2023)
標準的な冷たいダークマター(CDM)モデルでは説明が難しい銀河スケールの構造形成の問題を解決する候補として、Fuzzy dark matter(ファジーダークマター)やSelf-Interacting dark matter(自己相互作用型ダークマター)が提案されています。私たちは、銀河系の矮小楕円体銀河における恒星の運動や密度分布の観測データを用いて、これらのモデルに対する制限を与える研究を行っています。これにより、ファジーダークマターの質量や自己相互作用の断面積といった物理パラメータの範囲を絞り込み、ダークマターの本質に迫っています。
(参考文献: Hayashi+2021, Hayashi+2021, Ando+2025)
ダークマターが崩壊・消滅する際、ガンマ線やエックス線などの高エネルギー宇宙線が生成されると予想されています。私たちは、チェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)やX線分光撮像衛星(XRISM) といったガンマ線望遠鏡やエックス線宇宙望遠鏡などの宇宙線観測装置を用いて、銀河系矮小楕円体銀河や銀河中心領域におけるダークマターの間接的検出を目指しています。この研究により、ダークマターの崩壊寿命や消滅断面積に対する厳しい制限を与えるとともに、新たな物理の発見につなげることを目指しています。
(参考文献: Hayashi+2016, Horigome+2020)
すばる望遠鏡に搭載されたPrime Focus Spectrograph(PFS)は、広視野かつ高多天体分光観測が可能な強力な装置です。私たちはすばるPFSを活用し、銀河系矮小楕円体銀河に属する多数の恒星の視線速度を同時に測定することで、これまで以上に高精度なダークマター分布の推定に挑んでいます。特に、矮小楕円体銀河の内部構造やダークマター密度分布、さらには銀河形成・進化の過程におけるダークマターの役割を明らかにすることを目指しています。今後のPFS観測は、ダークマターの性質に対する制限をさらに厳しくし、理論モデルの検証に大きく貢献することが期待されています。
(参考文献: Takada+2014, Hayashi+2023)