単一ハロゲン化鉛ペロブスカイトナノ粒子の低温発光スペクトルの研究

本ページは、私が京都大学 金光研究室に修士・博士課程学生として所属していた時の研究についてまとめたものです。以下では、私が第一著者として出版した論文の内容のみを紹介しています。共著も含めた論文業績一覧はこちらをご覧ください。

 私はこれまで、新しいナノマテリアルであるハロゲン化鉛ペロブスカイト(APbX3, A = Cs, MA (CH3NH3), FA (HC(NH2)2), X = Cl, Br, I)の単一ナノ粒子の低温発光スペクトルについて、主に以下のテーマに関して研究を行ってきました。

エキシトン-フォノン相互作用

ペロブスカイトナノ粒子の応用例として、ある時間において1つのみのエキシトン(電子1つと正孔1つ)が生成されることを利用する、単一光子源があります。非識別性の高い単一光子などの実現には長いエキシトンコヒーレンス時間が必要であり、そのためにはエキシトン-フォノン相互作用が弱いことが理想的です。エキシトン-フォノン相互作用強度の計測には低温下におけるフォノンサイドバンドの観測が有力な手段です、ペロブスカイトナノ粒子の低温発光スペクトルには数多くの発光ピークが出現し、その起源についてはこれまで先行研究によって主張がばらばらで不明瞭な状態となっていました。

本研究ではまず5.5 Kでの単一CsPbBr3およびFAPbBr3ナノ粒子の発光スペクトルを計測し、現れる発光ピークがエキシトンの他にエキシトンのLOフォノンレプリカ(CsPbBr3は4つ、FAPbBr3では2つ)と、トリオン・バイエキシトン発光ピークからなることを示しました。また第一原理計算と組み合わせることで、LOフォノンレプリカ発光ピークとして出現するLOフォノンモードを明らかにしました。そしてLOフォノンレプリカ発光強度から見積もられるエキシトン-フォノン相互作用強度(Huang-Rhys因子)を計測し、粒子サイズの減少に伴い劇的に増加することを発見しました。これは粒子サイズの減少によって試料の内部電場が増大し、電子と正孔の波動関数の空間的重なりが縮小することが原因であると考えられます。さらに、CsPbBr3ナノ粒子を用いてエキシトン-LOフォノン相互作用とトリオン-LOフォノン相互作用を比較したところ、エキシトンとトリオンの互いに異なる電荷分布を反映しそれぞれ異なるHuang-Rhys因子のサイズ依存性を示すことも明らかになりました以上に関する論文Nano Letters誌に掲載されました。

論文[1]の内容については日本物理学会および応用物理学会からそれぞれ学生優秀発表賞講演奨励賞を、論文[2]については京都大学化学研究所長より京大化研学生研究賞表彰されました。また、論文[2]は2022年10月Nano Letters誌のMost Read Articlesに選出されました。

本研究は京都大学化学研究所 寺西研究室の皆様物質・材料研究機構の只野 央将 主任研究員、そして北海道大学の鈴浦 秀勝 准教授の協力のもと行われました。

詳しくは以下の論文をご覧ください。

✓結晶相転移

ハロゲン化鉛ペロブスカイトには大きく3つの結晶構造(斜方晶、正方晶、そして立方晶)があり、温度変化によって結晶相転移が起こります。しかし、ペロブスカイトナノ粒子では文献によって報告されている結晶相転移温度が大きくばらついていました。本研究では、単一 FAPbBr3ナノ粒子における斜方晶-正方晶間の結晶相転移温度を、温度変化に伴う結晶相転移が引き起こすバンドギャップ変化を調べることで計測しました。その結果、ペロブスカイトナノ粒子で粒子サイズの減少に伴い結晶相転移温度が明確に減少することを発見しました。これは、粒子サイズごとに結晶全体のギブス自由エネルギーが異なり、それによって相転移点が変調されることによるものです。以上に関する論文はThe Journal of Chemical Physics誌の特集号 "40 Years of Colloidal Nanocrystals in JCP" に掲載されました。

本研究は京都大学化学研究所 寺西研究室の皆様の協力のもと行われました。

詳しくは以下の論文をご覧くださいオープンアクセスになっており、どなたでも読むことが可能です

トリオンバイエキシトン

ペロブスカイトナノ粒子におけるトリオン(電子1つと正孔2つ)とバイエキシトン(電子2つと正孔2つ)の束縛エネルギーは、室温そして集団ナノ粒子での計測の難しさから、その報告値が大きくばらついていました。本研究ではさまざまな組成の単一ペロブスカイトナノ粒子(CsPbBr3, CsPbI3, そしてFAPbBr3)で5.5 Kでの発光スペクトルを計測することで束縛エネルギーの値を決定し、またその粒子サイズ依存性を正確に計測することに成功しました。実験値の物性値による規格化および有効質量近似を用いた理論計算との組み合わせから、トリオン・バイエキシトンの束縛エネルギーの粒子サイズ依存性にはペロブスカイトの組成による影響は少なく、量子閉じ込め効果のみによって決まること、そして動的遮蔽効果が大きな影響を与えることを示しました。以上に関する論文ACS Nano誌に掲載されています。

本研究は京都大学化学研究所 寺西研究室の皆様北海道大学の鈴浦 秀勝 准教授および佐藤 貴男 修士課程学生の協力のもと行われました。

詳しくは以下の論文をご覧ください。