計算の実際
Ⅰ)結露計算エクセルシートの使い方(天井結露バージョン)
丸い円で囲まれた部分の黄色い背景のセルで計算条件を指定します。
①小屋裏の温度・湿度、室内の温度・湿度を入力します。
②室内から小屋裏に至る経路の、構造物の厚み・熱伝導率・透湿比抵抗(または透湿抵抗)を入力します。
透湿比抵抗が入力された場合は、厚さとの積で透湿抵抗を自動的に計算します。直接透湿抵抗を数値で入力することも出来ますが、その時は透湿比抵抗と厚さを掛けて透湿抵抗を求めるようになっている透湿抵抗のセルの式は復活しないので、透湿抵抗=透湿比抵抗×厚み/1000(単位がmmなので)で透湿抵抗を求めて、透湿抵抗のセルに直接入力して下さい。
計算に使用している構造は、「湘南ミサワホーム」の天井の構造です(「ミサワホーム株式会社」も同様の構造です)。
室内側から石膏ボード、ロックウール断熱材の2重敷です(ロックウール断熱材は製品の状態で室内側に来る防湿フィルム、室外側に来る透湿フィルムでサンドイッチにされています)。
従って、細かく言うと、室内側から、石膏ボード→防湿フィルム→ロックウール断熱材→透湿フィルム→防湿フィルム→ロックウール断熱材→透湿フィルム、を経て天井裏に到達します。(7層構造となります。エクセルシートではもっと多層な構造でも計算可能となるように16層まで入力出来るようにしています)
この、「小屋裏 -11.6℃、湿度70%、室内10.0℃、湿度70%」と言うのは、「ミサワホーム株式会社」が「天井断熱材の防露基準に基づく別張り防湿フィルムが無い仕様」の認定を受けた時の条件とのことです。この条件で計算上結露しなければ別張り防湿フィルムは省略しても良いと決められているようです(「日本住宅性能表示基準・評価方法基準 技術解説(新築住宅)」参照)。
国が決めた計算方法と基準のようですから、それを使うこと自体は問題ないと思いますが、紫矢印(←)で示した部分では、飽和水蒸気圧と実在水蒸気圧の差が余りなく、15.48[Pa]です。この部分での飽和水蒸気圧が565.93[Pa]ですから、その2.7%と言う小さい値です。また0℃付近で温度が1℃異なると飽和水蒸気圧は45Pa程度変動します。2.7%の数値が変動すると結露すると言うことですから「この防湿性能は住宅という製品を作る上でマージンはないのではないか」と考えました。その旨を「湘南ミサワホーム」(と「湘南ミサワホーム」を介して「ミサワホーム株式会社」)に質問しましたが、はっきりとした回答は得られませんでした。
そこで、実際の気象条件で結露が起こるのか起こらないのかが、関心事となります。
Ⅱ)実際のアメダスの気象情報を下に、一次元定常モデルで結露するかどうかの計算を行います。
まずアメダス情報を入手しましょう。
「過去の気象データダウンロード」で検索すると、
https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/ に行きつきます。
(最初からこのリンクを開いても同じです)
2021年の横浜の6月・7月・8月のデータをダウンロードしてみましょう。
>「地点を選ぶ」で神奈川を選択し、さらに横浜を選択
>「項目を選ぶ」で
「時別値」「気温」「相対湿度」にチェックを入れます。
>「期間を選ぶ」で「2021年6月1日」から「2021年8月31日」を指定します。
(データ量が多くなると、項目や期間を減らせと警告が出ます。一つの地点で「時別値」「気温」「相対湿度」の場合は7カ月が限界のようです)
>「CSVファイルをダウンロード」をクリックします。
→data.csv という名のファイルがダウンロード出来ます。
これをエクセルで読み込むと、
のようなデータがエクセルに取り込めます。
C列、D列、F列、G列は不要なデータなので削除します。
結露の計算をするので、厳しい条件として、湿度が高い順、その後に温度が高い順にソートします。
>データの並べ替えをクリック(エクセルのバージョンで表示は異なると思います)。
湿度と温度の2条件でソートするので、「レベルの追加」をクリック
「最優先されるキー」に「湿度」の列Bを選択、「次に優先されるキー」に「気温」の列Cを選択。「並べ替えのキー」は「値」のまま。順序は「湿度」「気温」ともに「降順」を選択し「OK」をクリック。
湿度が高い順→さらに同じ湿度なら温度が高い順に並び変えられました。
湿度100%での一番厳しい条件(高温多湿)は2021年6月4日 19:00の「湿度:100%、気温:23.4℃」となります。
ここでエアコンを作動させます。
室内を「湿度:80%、温度:22℃」としてみましょう。結果結露しています。
(小屋裏表面でも結露する結果ですが、外気温の湿度が100%なので少しでも温度が低い部分では通常結露は必至であり、小屋裏表面は100%結露と言う計算結果になるので、ここではそこは問題としません。)
2重に重ねられた断熱材の重なりの部分で結露しています。
更に湿度を下げましょう。室内を「湿度:60%、温度:22℃」としてみます。
まだ結露しています。
室内を「湿度:50%、温度:22℃」まで湿度を下げるとどうでしょう。
やっと結露しなくなりました(小屋裏表面で結露するので、「結露します」の結果になっていますが、今はそこは問題にしていません)。
エアコン作動させて室温も下がったらどうでしょう。
室内が「湿度:50%、温度:20℃」となると、
とまた結露してしまいます。
このように、湘南ミサワホームの断熱構造(=「ミサワホーム株式会社」の断熱構造)では夏の結露は非常に防ぐのが難しいようです。
冬なら最悪加湿しないと言う選択肢もあるかもしれませんが、夏にエアコンを作動させない訳にはいきません。
まあ湿度100%と言うのがさすがに厳しい条件だとは思いますが、上のソートの結果で2021年4月~9月末までで湿度100%は142回記録されています。(1測定ポイントは1時間なので1時間×142=142時間≒5.9日。概算で半年のうちで6日に近い時間湿度100%に近い気象条件になっていると言うことです)。
湿度は高いが気温は低い時はどうでしょう。
2021年4月~9月末までで湿度100%で最も気温が低い時の気温は14.7℃です。
14.7℃で冷房を作動させることはないと思いますが、除湿を作動させて少しだけ室温が下がった状態を考え室温を14.0℃としてみます。
すると室内の湿度が75%まで除湿されてもまだ結露が発生しています。
(室内の温度を上げた場合は、室温>外気温となり冬型の結露条件となるのでここでは、室温<外気温の条件を考えています)
外気の湿度100%は厳しい条件かもしれませんが、この場合は容易に断熱材の重なりの部分で結露が発生することになります。
結露をさせないエアコンの操作方法としては、一般的に温度を下げずに湿度だけ下げて、湿度が下がったのちに室温を下げる、と言う方法となりますが、なかなか実現は難しいのではないでしょうか。
では、もう少し条件を緩めて湿度90%を考えてみましょう。
(湿度90%以上と測定された回数は984回で、2021年4月1日から9月30日までの全測定回数の4392回の22.4%を占めます。つまり湿度90%以上という条件はそれ程珍しい条件ではないと言うことです)。
湿度90%で気温が一番高いのは、2021年8月4日午前3時の26.8℃です。
室内の湿度を下げずに、室温だけ下げていくと22.5℃前後で結露が発生し始めます。
通常湿度90%、室温26.8℃でエアコンを作動させる場合は、冷房または除湿でも室温は下げる設定になると思うので、この条件では室温を22.5℃程度まで下げなければ結露の心配は不要と言うことになります。
中間の湿度95%を考えてみましょう。
(湿度95%以上を測定された回数は621回で、2021年4月1日から9月30日までの全測定回数の4392回の14.1%を占めます。25.9日分に相当します。やはり極端な条件ではないと考えられます。)
95%で最も気温が高いのは2021年8月7日14:00の27.3℃です。
室温25.0℃では90%まで湿度が下がった状態でも結露します。室温を25.0℃を下回らないようにして湿度を87%以下にすると結露の条件を満たさなくなります。
やはり湿度が高い状態で室温を下げるのは結露にとっては不利な条件となります。
では少し室温を冷やしすぎの23.0℃まで下げた場合はどうなるでしょう。
この場合、湿度10%まで下がってもまだ結露しています。
やはり室温を下げることが結露の高リスクであることがわかります。
上で、先に湿度を下げてから室温を下げれば結露しにくいと書きましたが、そもそも23℃まで下げる時は先に湿度を10%まで下げないといけないと言うことですから、この条件で室温を23℃に下げて結露させないと言う室内の温度湿度条件は現実的には達成不可能です。
但し、一次元定常計算でピンポイントに結露が発生する条件を満たしたとして、それが実際の家の機能としての防湿性能と直結するかどうかに関しては議論の余地は残ると思います。
夏型結露にも冬型結露にも強い調湿シートに関する記載が
https://jutaku.homeskun.com/assets/images/contents/legacy/syouene/analysis/econavi_report_wall.pdf
にあります。