佐賀大学教育学部
英語文学ゼミ/吉村 圭
佐賀大学教育学部
英語文学ゼミ/吉村 圭
映画『スタンド・バイ・ミー』(1986)で学ぶスラングの手ごわさと面白さ
もう10年以上も前になるが、「スクリーンプレイ」シリーズの『スタンド・バイ・ミー』(2014) にコラムと語句解説で関わる機会があった。幼いころから親しんだ80年代の名作中の名作に、英語を活かして関わることができ感激したものだ。しかし翻訳や語句解説を行う作業そのものには大変な苦労があった。というのも、この作品の台詞を扱うということは、スラングとの闘いを意味するからだ。
映画『スタンド・バイ・ミー』は不良にあこがれる10代の少年たちを描いた作品である。そのため彼らの台詞には必然的に下品なスラング(卑語・俗語)が多用されることになる。そもそもスラング自体、乱暴でセクシャルなものが多く、そのままでは(特に参考書となると)日本語にできないため翻訳者泣かせなのだ。
しかし中には、多様な文化的背景を理解していなければ意味さえ分からないような難解なものもあった。例えば以下の例を見ていただきたい。
TEDDY: Yeah, Vern told us how you found him: “Oh, Billy, I wish we never boosted that car! Oh, Billy, I think I just turned my Fruit of the Looms into a fudge factory.”(p.128)
この台詞は「死体」(the body)を見つけた主人公4人のもとへ、敵役のエースたちが遅れて現れて脅しをかけてきた場面のものである。仲間のひとりテディが、エースの一味のチャーリーが死体を見て「ビビっている」とからかっている台詞であるが、下線部は直訳すれば「俺はたった今『機織りの実り』をファッジ工場に変えてしまった」となる。もちろんこのような支離滅裂な日本語などあってはならない。
ここでまず重要なのは、“Fruit of the Looms”が有名な下着メーカーのことで、“fudge”がチョコレート菓子だという文化的背景を理解していることである。さらに、不良少年たちが常に下品なスラングの応酬をしていることを念頭に置いておく必要がある。つまり、チャーリーの“Fruit of the Looms”製のブリーフが「チョコレート工場」になるという台詞は、何らかの下品な光景を描写しているのだと…。
詳細は省くが、それができてようやく初めて、テディがいかにしてチャーリーをからかっているのか、その確かな意味を理解することができるのだ。その結果解き明かされる意味には心底脱力させられるが、調査と推測でその意味にたどり着くまでの過程は、推理小説の謎を解き明かすようで、英語学習として非常に刺激的だといえる。
ちなみにこの箇所は、先述した「スクリーンプレイ」では「ちびりそうだぜ」(p.129)と訳してある。英語の参考書に載せるにはギリギリを攻めた訳だといえる。映画の字幕では、翻訳家の菊地浩司氏によってより原文が生かされた(露骨な)訳がつけられている。ここでは紹介しづらいのでぜひDVD等で作品をご覧になって確認していただきたい。
2025年2月
ATEM九州支部ニューズレター第21号寄稿記事