佐賀大学教育学部 / 英語文学
吉村 圭
佐賀大学教育学部 / 英語文学
吉村 圭
サンタクロースについての覚書
今日はサンタクロースについて、覚書を残しておかなければならない。ついにその時がきたからだ。
そもそもことの起こりは昨年(2025年)の12月上旬にさかのぼる。
長男(当時6歳)が私たち夫婦に向けておもむろに、「サンタはあんたたちだろ?」と問うてきたのだ。息子は幼稚園の年長とはいえ4月生まれ。月齢的にはもう小学生でもおかしくはないし、近所で仲良くしている幼なじみも小学1年生なので、そのあたりから何かを吹き込まれたに違いない。
それにしてもあまりにも唐突なできごとで、しどろもどろの回答しかできていなかったと思う。その反応も含めて、てっきり「ばれて」しまったものと覚悟していた。
しかしその騒動はクリスマス当日に思わぬ顛末を迎えることになった。クリスマスの朝、お目当てのプレゼントを手に満足気な息子は、こうつぶやいたのだ。
「親がサンタだったら、サンタ多すぎか」
つまりあの時息子は、サンタ=親という考えは浮かんでいたものの、それはプレゼントの贈り手を親と捉えたのではなく、文字通り世界中の親が、赤い服を着てトナカイのそりに乗ったサンタクロースそのものだと想像していたらしい。
―そんなことになったら世界中がサンタクロースだらけになってしまう―
この幼稚園児らしい発想の純粋さに対して、感動さえ覚えたものだ。
しかし現在の息子は違う。今や彼は、学校教育のひずみが生み出した怪物、あの「小学1年生」なのである。
ミルンの「プー」シリーズの最終話(The House at Pooh Coner, 1928)で、クリストファーは楽園「100エーカーの森」を追われることになる。その原因としてほのめかされるのは、クリストファーがどうやら最近学校に通い始めたことである。アダムとイブが知恵の実を食べてエデンの園を追われるように、クリストファーは学校で得た知識を代償に楽園を追われる。つまり人間に知識という呪いを与える場所こそが、学校なのである。
今日の入浴中、奴はサンタについて私に尋問を始めた。もう純粋だった幼稚園児の息子ではない。小学校でサタンにそそのかされ、サンタへの純粋な心を失ってしまったのだ。
息子は半分確信めいた目をして、私に自白を迫ってきた。
もはやこれは親と子のほほえましい会話ではない。恐らく奴らは今日の日中、あの呪われた小学校で結託して、今夜同時に各家庭で尋問を行っているに違いない。
愚かな1年坊主どもめ。こちらは30年以上も前にサタンにサンタを売り飛ばした大人、すべてお見通しなのだ。
これは戦いである。そして誰かが折れれば、それは全家庭の敗北を意味する。そのため私はすべての1年生の親たちの威信をかけて、息子にもう一度サンタを信じさせなければならない。
以下、その際の覚書である。Qは息子によるもの、Aは私からの回答である。
Q.サンタクロースに会ったことがあるのか?
A.あるが、基本的には手紙とメールのやり取りである。息子の手紙も毎年送っている。
Q.じゃあメールを見せてほしい。
A.それは規約違反になり、見せてはならないことになっている。
Q.故意ではなく、間違って見てしまったらどうなるのか?
A.間違ってでも見られてしまったら、それ以降はプレゼントの配給が止められることになる。だから閲覧の際には細心の注意を払っている。
Q.一昨年はベイブレードのセット、昨年はポケモンパッケージのニンテンドースイッチ。あんな簡単な手紙しか送っていないのに、過去2年間のプレゼントが細部まで希望通りだったのは不自然ではないか?
A.息子からの手紙は送付しているが、別途メールにて詳細を伝えている。その際にはAmazonのリンクを貼って、絶対に間違えがないよう伝えている。
Q.毎年ニンテンドースイッチのような高額なものをもらって、サンタクロースは破産しないのか?
A.高額なプレゼントは卒園式と入学式が重なるような大事なタイミングに限る。つまり今年のような特別な年だけである。
Q.サンタクロースの財源はどうなっているのか?
A.大変な富豪の集まりであることは確かである。ただし、世界中から巨額の寄付も寄せられている。当然我が家も毎年寄付している。
Q.サンタクロースは何人いるのか?
A.国際的に組織されたNPOのため、そこに何人いるとはいいにくい。ただ代表として表に出て来るのは1名であって、彼がみんなからサンタと思われている人である。小学校に校長先生がいて、他にもたくさんの先生がいるのと同じである。
以上は実際に息子から出された質問と、それに対する私からの回答である。
また今後の展望として、親がプレゼントを置くところを見た、あるいはあけっぴろげな家庭で、親がプレゼントを買ってくれているという場合への対応もあらかじめ検討しておく必要があるだろう。
Q.友人が親にプレゼントを買ってもらったと言っているが?
A.希望制ではあるが、一定の学年を迎えると、各家庭の親に代理権が与えられる。多くの家庭では4年生ごろから親がサンタの代理業務を請け負うことが多い。
なお、今年のクリスマスは、「スタートデッキ100」という極めて入手困難なポケモンカードのパックをお願いすることで、サンタの存在を見極めるのだそうだ。
つまり、サンタクロースという人間離れした超人であれば、あの「スタデ100」であっても入手できるに違いない。そしてそれができないということは、サンタは通常の人間である父よ貴様なのだろう、ということのようだ。
親がすべてサンタなら世界中がサンタになってしまうと空想していたあの無邪気な子どもが、どうしてわずか半年でこうなってしまうのだろうか。この点こそが、ミルンが「呪い」として表現したあの学校教育の恐ろしさなのだ。
そして勘の鋭い読者の皆様であればお気づきのことだろう。
息子を筆頭に、子どもたちのイノセントを守るためには、今年の年末までに「スタートデッキ100」が5パック必要なのである。
この記事を読まれた皆様には、できるだけ速やかに私までお送りいただきたい。
これは私個人の願いではない。先ほども言ったように、これはすべての1年生の親たちの威信をかけた戦い。ついにその時がきたからだ。
2026年6月2日