慶應義塾大学・日吉丸の会は、人も生きものもにぎわう街づくりを目指して、慶應義塾大学日吉キャンパス・まむし谷を中心に、『流域思考』をベースとした自然再生・防災減災に取り組んでいます。
メンバーは、慶應義塾大学の教員・学生・OBOG、鶴見川流域・日吉地域の市民など、『流域思考』をベースとした自然再生・防災減災に関心のある有志です。
※『流域思考』 ・・・環境問題(生物多様性保全:生きもののにぎわいを守ること、地球温暖化適応策:地球温暖化で大雨や高潮などの災害が増えることへの対応)などに対して、『流域』で考えること。【提唱:岸 由二 慶應義塾大学名誉教授、NPO法人鶴見川流域ネットワーキングの登録商標です。】
日吉キャンパスを空から見ると、台地になっている箇所を囲むと、動物(?)のかたちに見えてきます。この動物を「日吉丸」と呼んで、会のキャラクターにしています。
上空からの航空写真を見ると分かりますが、慶應日吉キャンパスは、駅前の都市のキャンパスにありながら、敷地のおよそ半分が緑地になっており、その規模は横浜市港北区で最大級です。また、奥行400mほどの「まむし谷」と呼ばれる谷戸地形も残っています。
慶應義塾大学日吉キャンパスの緑地は、日吉の街に暮らす市民にとって、慶應義塾大学に通う教員・学生にとって、まさに足もとの自然です。そこには、多種多様な生きものたちも暮らしています。
環境問題というと、遠く離れた大自然の破壊とか、遠くの島が沈むかもしれないとか、遠い世界の話ばかりだと思ってしまいがちです。そもそも、自然は都会にはなくて、遠くにあると感じてしまうのではないでしょうか。
しかし、足もとの自然に目を向ければ、生きものたちの賑やかな暮らしが見えてきます。また、暮らしている身近なところに「谷」や「山」もあって、流域を意識すれば、どの場所も必ず川とつながっています。だから、まずは足もとの自然を大事に守り育てていくことから始めよう、ということが、日吉丸の会の活動のモットーです。
日吉丸の会の活動方針は、大きく分けて以下の3つです。
「慶應義塾大学日吉キャンパスは日吉丸のかたち」を多くの方と共有することです。多くの市民や慶應義塾大学に通う教員・学生は、慶應義塾大学日吉キャンパス・まむし谷に広がる自然に気づかないまま、暮らしています。「日吉丸」というキャラクターを通して、日吉キャンパスの地形や自然の存在に気付くきっかけにしたいと考えています。(このような地形を具体的なカタチにして普及啓発する手法は、「ランドスケープイメージング」と呼んでいます)
生きものたちが賑わう場所づくりを、日吉キャンパスの「一の谷」「ひよ池」「池の平」の3拠点で進めています。
「一の谷」では、2001年より雑木林と水辺の再生活動に着手し、雑木林にはカブトムシ・クワガタといった昆虫、水辺では絶滅危惧種のホトケドジョウ・メダカが生育・繁殖しています。
同時に、これらの場所は防災・減災の役目も果たしています。「一の谷」「池の平」は森を育てることで雨水の地下浸透を助け、「ひよ池」は大雨時に雨水を一時的に貯留する(雨水調整池)ことで、鶴見川流域の水害抑制(流域貢献)をしています。
※日吉地区グリーン計画
当会の活動は、2010年3月に印刷発行された「日吉地区グリーン計画」に基づいて行っています。
1980年代前半から、慶應義塾大学生物学教室教員の有志が、日吉キャンパスの自然に総合的な関心を向け始め、植物相を確認し始め、昆虫やクモ類までふくむ動物全般にも関心をひろげ、地形・地質の専門教員の参加も得て「日吉自然調査グループ」(代表・岸 由二 慶應義塾大学名誉教授)を組織し、義塾や横浜市の助成金を得て91年4月、日吉キャンパスの自然に関するはじめての総合的な報告書、『慶應義塾日吉キャンパス域の自然調査報告』が印刷発行されました。
その後、2000年代中盤、まむし谷の管理保全課題をめぐる議論が活発になる中で、新たな自然調査報告書の製作の動きになり、2010年3月、「日吉地区グリーン計画」が印刷発行されました。91年報告書の資料が追加・確認・改訂されたばかりでなく、微地形の区分に沿って自然の状況が確認され、回復管理の課題が詳細に提案されています。作成にあたっては、当会の実践や調査のデータも多数使用されています。
当会の活動を含め、樹林の再生・管理、ビオトープ、雨水調整池の工夫、競技用グラウンド拡大にあたっての水循環配慮、土砂流への安全対応などの諸領域で、「日吉地区グリーン計画」が活用されています。
生きものの賑わいをキャンパスや街の方々を共有するため、キャンパスの自然をみてまわる散歩会や子どもたち向けの生きもの観察会を開催しています。
日吉丸の会の取り組みは、「流域思考」に則り、鶴見川流域・多摩三浦丘陵連携をベースとして、いろいろな方々との協力・連携(パートナーシップ)により進めています。
NPO →NPO法人鶴見川流域ネットワーキング
行政等 →鶴見川流域水協議会(事務局:国土交通省京浜河川事務所)、横浜市港北区、日吉地区センター 、かながわトラストみどり財団
企業 →東急株式会社、 お家ごはんカフェunwind
大学 →慶應義塾大学 社会・地域連携室
(順不同)
慶應日吉キャンパスは、鶴見川流域に位置していることから、鶴見川流域のNPOや行政と連携した活動に取り組んでいます。
日吉地域の行政や企業との連携にも取り組んでいます。
まむし谷と松の川をつなぐ 次世代まちづくり(2014年)(東急「みど*リンク」アクション)→詳しくはこちら
当会は、活動を通して、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の達成に貢献しています。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。
SDGsに対する考え方は様々ですが、1つの考え方として、17のゴールを「環境(生物圏)(BIOSPHERE)」「社会(SOCIETY)」「経済(ECONOMY)」に整理する方法があります。「環境(生物圏)」が「社会」「経済」を支えているという構造になっています。(下図参照)
当会の活動は、主に慶應義塾大学日吉キャンパスにおける、『流域思考:環境問題(生物多様性保全:生きもののにぎわいを守ること、地球温暖化適応策:地球温暖化で大雨や高潮などの災害が増えることへの対応)などに対して、「流域」で考えること。』をベースとした自然再生・防災減災であり、SDGsの目標達成への最大の貢献は、「環境(生物圏)」に整理されるものとなります。
<環境(生物圏)>
■安全な水とトイレを世界中に(目標6)…6.6水に関わる生態系を保護・回復する
→湧水や雨水を活用した水辺環境の保護・回復(一の谷、ひよ池、池の平)に取り組んでいます。
■気候変動に具体的な対策を(目標13)…13.1気候関連災害や自然災害に対する強靭性と適応能力を強化する
→土砂流出防止・雨水浸透促進を目的とした森林保全(一の谷・池の平)、防災調節池設置の市民への理解促進(ひよ池)に取り組んでいます。
■海の豊かさを守ろう(目標14)…14.2 海洋・沿岸の生態系を回復させる
→流域連携活動として、鶴見川流域ネットワーキングに参加・支援することで、鶴見川流域の沿岸部ひいては鶴見川が注ぐ東京湾の生態系の回復に貢献しています。
■陸の豊かさも守ろう(目標15)…15.1 陸域・内陸淡水生態系及びそのサービスの保全・回復・持続可能な利用を確保する、15.2 森林の持続可能な経営を実施し、森林の減少を阻止・回復と植林を増やす、15.4 生物多様性を含む山地生態系を保全する、15.5 絶滅危惧種の保護と絶滅防止のための対策を講じる
→森林(雑木林)の保全・回復(一の谷、池の平)による陸域生態系の保全・回復、淡水生態系(一の谷、池の平、ひよ池)の保全・回復による絶滅危惧種(ホトケドジョウ、メダカなど)の保護に取り組んでいます。
また、当会は、慶應義塾大学日吉キャンパスの位置する都市・日吉で、駅前にありながら港北区最大級の緑地である日吉キャンパスの緑地を活かして「人も生きものも賑わう街づくり」を目指しています。このことから、都市における社会・経済活動と環境(生物圏)との共生に関わる目標の達成にも貢献しています。
<社会>
■住み続けられるまちづくりを(目標11)…11.5 災害による死者数、被害者数、直接的経済損失を減らす、11.7 緑地や公共スペースへのアクセスを提供する
→土砂流出防止・雨水浸透促進を目的とした森林保全(一の谷・池の平)による鶴見川流域での水害抑制、日吉キャンパスでの一般公開型の散歩会やオープンガーデンの実施による街の活性化に取り組んでいます。
■質の高い教育をみんなに(目標4)…4.7 教育を通して持続可能な開発に必要な知識・技能を得られるようにする
→子ども向けの自然観察会や大人向けの鶴見川流域水マス推進サポーター研修会の実施などの環境教育活動を通して、都市における足元の生きものの賑わいを多くの都市市民と共有し、都市と自然とが共生する街づくりを担う人材育成に貢献しています。
<経済>
■つくる責任 つかう責任(目標12)…12.8 持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする
→当会の自然再生・防災減災の取り組みをより多くの人と一緒に行うことで、都市における自然と調和したライフスタイルの実現に貢献しています。
さらに、当会は、流域にかかわる市民団体・NPO・学校・企業・行政とのパートナーシップ(流域連携)により活動を推進していることから、パートナーシップに関わる目標の達成にも貢献しています。
<パートナーシップ>
■パートナーシップで目標を達成しよう(目標17)…17.17 効果的な公的・官民・市民社会のパートナーシップを推進する
→流域にかかわる市民団体・NPO・学校・企業・行政とのパートナーシップ(流域連携)を構築しています。
今後とも、SDGsの観点も認識しながら、活動に取り組んでまいります。
(参考)
○ 外務省…SDGs取り組み・・・https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
○ The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB)…TEEB and the Sustainable Development Goals (SDGs)・・・http://teebweb.org/
○ Stockholm Resilience Centre…How food connects all the SDGs・・・https://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-how-food-connects-all-the-sdgs.html
○ 環境省…持続可能な開発目標(SDGs)の推進・・・http://www.env.go.jp/policy/sdgs/index.html
●代 表
小宮 繁
●副代表
田中 健一(慶應義塾大学 理工学部管理工学科 教授)
若森 直樹(慶應義塾大学 商学部教授)
●顧 問
岸 由二 (慶應義塾大学 名誉教授)
●相談役
矢部 和弘(東京農業大学 地域環境科学部森林総合科学科 教授)
片田 真一(東京家政大学 家政学部環境共生学科 講師)
●設 立
1992年12月