PhD Research: "生物規範柔軟構造のダイナミクスを活用した多機能性の実現 "
生物は、未知の環境においても破綻せず、目的に応じた振る舞いを実現しています。特に鳥類は、物体操作に特化した前肢を持たないにもかかわらず、柔軟な首を巧みに用いることで、採餌、探索などの多様な振る舞いを実現しています。
このような生物の振る舞いは、あらかじめ設計されたモデルに基づく逐次的な計算だけによって生じているのではなく、柔軟な身体と環境との相互作用の中から現れていると考えられます。
本研究では、鳥類、特にダチョウの頸部構造に着目し、柔軟な身体と環境との動的な相互作用に基づいて多機能性を実現するロボットシステムの構成論を探究しました。特に、生物規範アプローチとダイナミカルシステムアプローチの双方から、形態の機能的振る舞いへの寄与を明らかにすることを目指しました。
Project1: ダチョウ首規範柔軟マニピュレータの開発
柔軟マニピュレータは物理的な柔らかさと、取りうる姿勢・状態の多様性から、未知環境への適応や人との共存への応用が期待されています。
このような多自由度系の駆動方式として腱駆動が広く用いられていますが、腱張力による座屈や、腱配置次第では姿勢・状態の多様性が生かせない問題がありました。
多様な振る舞いが可能な柔軟構造である鳥類の首(特にダチョウの首)は典型的な運動パターンを持つことが知られています。
ついばみ動作(レバーパターン)と首の挙上動作(ローリングパターン)です。
この運動パターンはダチョウ首の解剖学的構造に密接に関わっていると考えられたため、実際にダチョウの首を解剖してロボットに実装しました。
制作されたロボットは実際のダチョウのような振る舞いが可能です。
また、実装された運動パターンを組み合わせて、重力に逆らってリーチングをしたり、姿勢の多様性を生かして障害物に衝突しながらリーチングすることが出来ました。
生物規範ロボットは、例えば「関節可動域を除去したらどうなるか」といった実際の生物では出来ない比較実験が可能です。関節可動域がない場合は、以下のように、姿勢を維持することが出来ません。
Project2: ダチョウ首アームの身体ダイナミクスを活かした知覚
Haptic Perception via the Dynamics of a Flexible Body Inspired by an Ostrich's Neck
この研究では、Project1で本来マニピュレータとして設計されたロボットそのものを用いて全く性質の異なる触覚センシングタスクを実現しました。
例えば、私たちは棒を振ることで、実際に見ていなくてもその長さを知覚することが出来ます。これは物体を振ったときのトルクが柔らかい身体に伝播することで実現されています。これは皮膚表面だけでなく身体全体からなる能動的な触覚の例を示しています。
柔軟な身体の動き(ダイナミクス)が持つ触覚の能力を定量化するため、物理リザバー計算という手法を用いました。
これは、複雑な身体ダイナミクスそのものがリカレントニューラルネットワークのように”計算”をしているとみなして、リードアウトと呼ばれる少数自由度の変換器のみを学習する手法です。
ダチョウ首アームに硬さが異なる対象物に繰り返し啄み動作をさせたときの関節角度と力センサの時系列を取得し、リードアウトを学習することで対象物の硬さを分類します。
身体の粘弾性を色々変えたときの学習性能をシミュレーションで探索しました。
学習性能が高かった時の反力の時系列を見てみます。色の違いは対象物の硬さの違いで、明瞭に分離しているほど学習性能が高くなることを示唆します。
衝突した瞬間は明瞭な分類が見られませんが、学習性能が高い状況では、衝突直後にバウンドするような振る舞いが見られ、その時に明瞭な分離が見られます。
打音検査をするときや、打楽器を演奏するときのように、ある程度体を硬くして力強く叩きつけつつ、その力を柔らかく受け止めるときに、外界の情報が明瞭に引き出せることを意味します。
この反力の違いは首の振る舞い全体にも影響を与えます。
首の軌道そのものに対象物の硬さの情報がエンコードされているので、素早くついばむ条件では、前のサイクルでついばんだ対象物の硬さを一貫して分類し続けることが出来ます。
これはある種の記憶能力(Haptic memory)だと考えられます。
このHaptic memoryを用いることで、"衝突"を高いサンプリング周波数で観測する負担が軽減されます。
これにより、リアルタイムで学習し、対象物の硬さを識別するシステムを構築しました。
Project3: 階層的に柔らかさを調整可能なダチョウ首のダイナミクスを用いた姿勢安定化
(In preparation)
準備中なので詳細は未公開ですが、ダチョウが椎間筋で姿勢を安定化させている点に示唆を得て、身体パラメータを多様に変えることでダイナミックかつ適応的に姿勢を安定化させるシステムを制作しています。
Conclusion:
柔軟な身体と環境の相互作用が多様な機能(リーチング、センシング、制御)の源になることを実証し、形態の寄与を定量的に考察しました。
形態によって運動パターンをある程度規定して自由度を落とすことで(啄み動作、挙上動作)ことで、それに対応した機能(センシング、姿勢安定化)が容易に実現されることを示しています。