”印刷班”により実装されたCNT型PTEフレキシブルブロードバンドMMW・THz・IRカメラを活用し,情報班ではスペクトル情報・幾何学・統計学等に基づいた非破壊検査手法の拡充へ着手しております.スペクトル情報の活用といたしましては,情報班では医薬品を例に成分となる各高分子,および異物として混入し得る各材質のMMW・THz・IR帯における基礎光学特性(透過率・吸収率・反射率等)をデータベース化してまいりました.またCNT型PTEフレキシブルブロードバンドカメラを薄膜シートとしてベルトコンベア状の加工ラインへ貼り付け,模擬産業検体をベルトコンベアにより搬送しながら併設された小型MMW・THz・IR光源の下でリアルタイムに全数観察します.これにより疑似的なMMW・THz・IR分光が本来のモノつくり環境を妨げることなく再現され,対象成分・候補異物の光学データベースをCNT型PTEブロードバンドカメラにおける画素応答とアルゴリズム同期させることで,実験室スケールではあるものの情報班による取り組みとして医薬品を対象とする透視・材質同定型リアルタイム非破壊全数検査が実証されました.難所インフラに対するオンサイト検査と同様に,工場等のモノつくり現場では加工・搬送ベルトコンベア状において完結する(インライン)全数検査が強く求められており,CNT型PTEフレキシブルブロードバンドカメラのデバイスとしての潜在能力に光学データベースを融合させることで,情報班では超広帯域,リアルタイム,非破壊,そしてインラインなMMW・THz・IR全数検査を先駆けて原理実証してまいりました.
また情報班ではCNT型PTEフレキシブルブロードバンドカメラを用いたMMW・THz・IR計測における幾何学情報にも着目しており,特に情報工学分野において勢いを増すコンピュータビジョン(CV)へと展開してまいりました.CVは2D画像計測における光学情報(透過・吸収・反射・散乱の信号強度等)を時空間情報(座標変化,位相ズレ,時間遅れ等)と紐付けることで,観察物の3D構造を復元することが可能となります.従来のCVは侵襲的なX線計測や,映像美法としての可視光計測へ重用されておりましたが,情報班ではCNT型PTEブロードバンドカメラが有する潜在能力から透視性・材質同定性に富む超広帯域かつ超高感度なMMW・THz・IR計測へと拡張してまいりました.具体的には情報班ではCNT型PTEブロードバンドカメラにより視体積交差法(Visual Hull(VH):複数視野の”影”から3D位置情報を逆投影)や断層撮影法(Computed Tomography: CT)といった代表的CV手法のMMW・THz・IR帯拡張を実証し,先駆けて材質同定と3D構造復元が両立可能な非破壊検査技術を確立してまいりました.
本成果では,独自のPTEカメラを用いた新たな医薬品検査システムを開発しました.このカメラは日本発の先端材料:CNTフィルムから成り、ヒトの眼には見えない光であるMMW・THz・IR・を高感度に検出します.また,特にTHz–IR光計測は医薬品成分に対する透視・材質同定へ特化しており,取り違えや混入異物の検知に有用です.本成果ではCNT型PTEカメラがもたらす「シールのように貼り付けられる操作性」と「THz–IR光の潜在能力を最大限に引き出す豊かな材料特性」を活用し,ベルトコンベア状の錠剤搬送ラインへと,さりげなくしなやかに実装可能な非破壊検査プラットフォームを確立しました.
健康寿命の増進に向けては,流通前の段階における網羅的な医薬製品への検査が鍵を握ります.しかし,含有成分/混入異物の広範な材質同定を可能にする計測技術は,巨躯な装置構成からインライン(製造現場での本来の環境を妨げない操作形態)な実装に課題を残しており,依然として欠陥漏れを招き得る抜き取り検査での利用が主流となっています.この状況に対して本成果が確立したシステムは,小型CNT型PTEカメラを搬送といった創薬ラインへシールのように薄く軽く装着でき,創薬工程と並行して含有成分/混入異物に対するリアルタイムかつ非破壊な材質同定情報を全数画像検査結果としてユーザーへ提供します.システム化の鍵は,事前にデータベース化された分光スペクトルから対象の医薬品検査へ直結する光照射波長を選定することです.医薬品を含むモノづくり現場では,取り扱い対象の材質・成分を事前に把握可能で,この情報から逸脱するインライン環境上の光学的挙動を欠陥・異常の発生と紐付けることができます.また,多波長光照射を要する分光装置とは異なり,単一帯域光を照射する光源はマッチ箱程度という小型サイズで扱うことが可能となります.本成果では対象の医薬成分を3種(鎮痛剤・解熱剤・抗血小板剤)に事例化し,これらの非破壊識別に適応する3波長の小型光源を配列し,CNT型PTEカメラと共に集積しました.これらの取り組みは,基礎研究部分での光学分野における裾野を拡げるとともに,我が国が過去・現在・そして今後も強く依存し続ける医薬品利用へ,非破壊検査による安全性担保という観点から貢献しうるか真価を試されるものです.
本研究グループではこれまでにCNT型PTEカメラによる光学素子への適性の理論・実験的な解明,高性能なMMW–IRセンシングの実証,MMW–IR帯での画像検査アルゴリズムの確立,また卓上ロボットによる簡便・高速・高歩留まりな量産化といった独自性を一つ一つ打ち出しています.今回の成果では,CNT型PTEカメラの光学素子としての豊かな機能性に加えて,シートデバイスとしての扱い易さを最大限に活かした出口戦略を具現化するものです.日本発のCNTフィルムが有する先端材料としての新たなポテンシャル(産業用の非破壊検査デバイス・システム)を遺憾なく発揮し,我が国の基礎科学とその成果を更に加速させる位置付けと言えます.
医薬品の安全性への国民的な関心は高く,某製薬会社による報告では,コロナ禍を経た2022年以降では医薬品のリコール件数は1件/日超という危機的なペースとなっております.流通後のリコールでは医薬製品から網羅的に欠陥を取り除くことは極めて困難であり,我が国のみならず世界的な潮流としても製造段階での医薬品への高精度な全数検査は健康寿命へ直結する必須アプローチと言えます.
本成果では,MMW・THz・IR帯域でのCV画像計測へ立脚する新たな非破壊検査手法の確立に成功しました.上記の取り組みでは,CNT型PTEカメラによりMMW–IR照射特有の透視情報を高い効率で集約し,それらの数値情報をCV解析基盤により処理しております.具体的には眼では見透せない不透明な物体を対象に,本成果は操作員・観察物・設置環境の全てに安全な動作下において,隠された材質情報(モノが何で出来ているか?)および構造情報(モノの各材質が如何なる姿形で内蔵されているか?)を選択的かつ網羅的に抽出します.また数値情報・波形情報・平面画像と比較しても利用者に直感的理解を促す3Dモデルとして上記の特性が可視化され,将来的なモノづくり現場において本システムは即効性に富む詳細な非破壊品質モニタリングとしての活用が期待できます.
本成果において,鍵は光の「影」と「透け」です.MMW/THz/IRが電磁波として異なる波長を示す中,観察物毎にMMW-–IR照射に対する影・透けの見え方は波長により変化します.不透明な多層複合立体状の観察物に対して,本システムでは影・透けの波長依存特性から材質を同定し,「影➡空間配置」「透け➡詳細断面像」への展開に特化するVHとCTをハイブリッドなCVとしてそれぞれ組み合わせることで,3D検査モデルを提供します.
本成果ではCNT型PTEセンサに対して,CV手法として2D画像データから3D構造を復元する技術を有機的に組み合わせることで,非破壊で検査物の内部材質と内部構造をより確実に推定する新たな検査技術を創出しました.
ヒトとモノが密に相互介入するIoT社会の幕開け以降,工業製品や日用品に対して,不良・変質・異物混入を検知する非破壊検査技術が注目を集めています.特に非接触で大面積な解析性能を有する「光-電磁波撮像」は,検査技術の中心的役割を担っております.代表的な検査項目としては,材質同定(対象が何でできているか)と構造復元(対象がどのような形状となっているか)の把握が挙げられます.これらの両立は高い精度・信頼性での品質保証に繋がりますが,非破壊検査技術の研究開発においては,依然として発展途上な状況と言えます.
そこで本成果では日本発の先端ナノ材料:CNTをPTE型センサに用いた独自の材質同定型デバイス科学に対して,対象物の影(シルエット)の重ね合わせから外観を推定する3D構造復元システム技術を導入することで,品質評価の分野にブレークスルーをもたらす新たな非破壊検査手法を創出しました.これらの要素技術は,工業・日用品の製造流通において忠実な再現度の品質管理の実現に繋がると考えられます.
本成果では,CNT型PTEカメラが搭載された無人インフラ検査のためのユビキタスなMMW・THz・IR非破壊撮像プラットフォームを開発しました.IoT社会の発展により,危険を伴う難所インフラ検査において,非破壊かつ非接触の電磁波画像診断の活用に期待が集まっております.しかし従来の検査技術では,検査対象物の形状やサイズの制約,システム自体の持ち運びにくさなど,動作環境の自由度が低いことが実装の大きな妨げとなっておりました.
本成果では独自CNT型PTEカメラの撮影感度を向上させ,3Dプリンタを活用した検査モジュールの設計や、小型光源との一体化により,自走探査や多軸関節といったユニット駆動と融合したオールインワン型ロボット支援モニタリングシステムの構築に成功しました.更に開発モジュールにより,様々な工業製品や難所インフラ模型を観察対象例として,無人・遠隔操作での高速全方位非破壊画像診断を実証しました.本成果は,既存のMMW・THz・IR撮像技術が抱える動作環境制約を打破することが可能であり,将来的には環境親和型なセーフティネットとしての役割が期待されます.
情報班ではスペクトル情報の活用においては「透過系⇔反射系ハイブリッドなインラインシステム構築」,CVの活用においては「光測距(Light Detection and Ranging: LiDAR)」・「視体積交差⇔LiDARハイブリッド」・「断層撮影⇔LiDARハイブリッド」・「全方位CV」,また統計学への導入としては”材料班”による膨大な条件下でのCNT組成最適化に対する数理予測モデル構築等,CNT型PTEフレキシブルブロードバンドカメラとMMW・THz・IR計測の相乗効果から更なる非破壊検査技術へと展開し続けております.