アイディア勝負な”材料班”では前人未到となるコンセプトを0から1へと創出し,職人気質な印刷班では非破壊検査現場で求められる技術基準に向けて”材料班”発アイディアを1から10へ伸ばしてまいります.印刷班ではMMW・THz・IRフレキシブルブロードバンドカメラにおけるCNT型PTEイメージセンサ画素の微細加工・高密度集積をメインテーマとして扱っておりますが,職人気質たる所以は文字通りに”印刷”です.先述の通りにCNTは分散液が材料加工における起点となり,巨躯・超高額・技術的に高ハードルなクリーンルームへ依存せず,卓上・室温・大気暴露・室内照明下での簡便な印刷工程に適応可能となります.一方で高濃度CNTの均一液中分散は材料科学における最もタフな項目としても知られており,凝集粒径,粘度,分散剤等,インクやペーストといった液体材料としての検討事項は多岐にわたります.上記の項目はそれぞれが独立して印刷工程における加工精度へ影響を与え,CNT分散液自身への精緻な状態制御,またCNT分散液に応じた各印刷装置の網羅的な条件出し等,サイエンスの枠を超えたエンジニアリングとしての修業が待ち構えております.
印刷という言葉を広く解釈し直すと,古典的・全面塗工型の濾過や版画(別名 スクリーン:例①・②),そして微細・選択的ノズル描画型のディスペンサ(例①・②・③)等,多岐にわたる工程を印刷班では一つ一つ着実に確立してまいりました.
本成果ではCNT型PTEセンサに対して,卓上機械ロボットタイプのエアジェットディスペンサ一台により,「印刷」という概念での簡便・高速・高精度な作製および集積手法を新たに確立しました.CNT型PTEセンサに対する従来の作製工程においては,「ヒューマンエラーが付き纏う手作業」や「複数装置間での煩雑な繰り返し作業」が不可欠となっており,歩留まり(「作製した素子数」に対する「正常に動作する素子数」の割り合い)の低さが致命的な課題として問題視されておりました.よって,本成果はこの様なボトルネックを一網打尽に解決する位置付けと言えます.特にCNT型PTEセンサは豊かに優れた計測性能から非破壊検査素子への応用が期待されており,本成果での技術的な進展は,当研究室が独自に培ってきたCNT型PTEセンサの社会実装を大きく後押しするブレークスルーと言えます.
本成果において,鍵は印刷における「空間的な位置合わせ:アライメント」と「インクの濃度」です.CNT型PTEセンサの作製において,従来はセンサ自身を成すCNTや信号読み出しに不可欠の電極配線,そしてセンサの高感度化に有用なキャリアドーピング等,各構成材料や部位の相互的な空間位置関係を作製者自身が把握せざるを得ない状況となっておりました.これらにおける人為的誤差は,センサの致命的な動作不良(材料間での位置ズレ)を生んでいました.一方で,本成果は液体インクシリンジを交換することで同一ディスペンサによる異種材料の印刷を可能とし,ディスペンサ自身がインク間のアライメントを機械制御することで高歩留まりなCNT型PTEセンサ集積へ展開してまいりました.上記において,本成果はCNTインクの濃度が「センサ印刷の精度」と「センサの感度」に対する支配的な定義要因となる点を,科学的に解明しました.
本成果では機械的に位置合わせ可能なエアジェットディスペンサによるCNTインクの印刷を通じて,極めて高い歩留まりでのpn接合タイプPTEセンサの実装技術を確立しました.本成果では元来のp型という電子状態に加えて,オリジナルなCNT分散液とn型ケミカルキャリアドーパントの組み合わせにより高安定なn型インクを設計しました.これらのアプローチは,支持基板シートの材料特性や表面状態にかかわらず,100 %に迫る盤石な歩留まりで高感度・超広帯域CNT型PTEセンサの実装を可能にしており,上記デバイスによるマルチモーダルな非破壊検査応用を促進する位置付けを占めます.
本成果では,「ブラシで塗る」「筆で描く」といった簡便さを持つと同時に,非破壊検査デバイスとしての高感度動作・広汎用性を発揮する光学センサ素子の創出に成功しました.この素子はCNTの高効率な吸光特性と,ビスマス化合物(Bicom)の高効率な熱電変換特性を兼ね備え,相乗効果により,画像計測性能の観点で非破壊検査技術分野での更なる発展に貢献します.
非接触で大面積な解析性能を有する「光-電磁波撮像」は,非破壊検査技術の中心的役割を担っています。特に、亀裂等に対する単純な透視に加え、材質の同定(対象が何で出来ているか?)は,代表的な検査項目です.これらを実現するには,可視光と電波の中間周波数に位置するMMW,THz,IRを用いた広帯域・多波長で高感度な画像計測が有効とされています.材質同定を志向する非破壊検査の実現という観点において,画像計測に欠かせないセンサの設計・作製に対して,「光吸収による発熱」「その後の熱電変換」という2つの異なるエネルギー現象を融合したPTEが,動作原理として徐々に定着し始めています.センサ材料による高い吸光率(A)・ゼーベック係数(S:熱電変換信号強度に比例する物理パラメータ)の両立が求められる中,従来型PTE設計ではAまたはSというどちらか片一方にのみ高い物理特性を示す単一素材の採用が主流です.この傾向は,PTEセンサに対して頭打ちな動作感度・限定的な撮像帯域といった非破壊検査素子応用への致命的な課題を残しています.
そこで本研究ではPTE素子設計における新展開として,既存材料の中でも卓越した光学特性を持つCNTフィルム(A: MMW–IR、更には可視光にわたり一貫した90 %以上)と,廃熱利用の観点で再生可能エネルギー技術としての実用化も進むBicom(S: 金属、半導体、化合物の中で室温帯では最高レベル)が一体化結合したセンサを創出しました.また,本成果ではPTE素子としての性能改善に加えて,素子自体の作り易さにも着目し,上記センサを所望箇所に塗って描けるペーストとして展開しました.これらの取り組みは,検査性・操作性の両面において,モノつくり現場での安全品質保証をより確実なものとする位置付けと言え,材料組み合わせにおける高い自由度から,今後の更なる基礎研究としての探求により革新的産業技術への進展が見込めます.
本成果では多機能なCNT型PTEセンサの生産に印刷技術を活用することで,極めて高効率な製造工程の創出に成功しました.多機能な非破壊検査に向けた要素技術として当研究室が開発を進めるCNT型PTEセンサは,元来,多様な素材・構造から成る立体物(例:車載部品、医療器具、インフラ設備、動植物)を壊すことなく,内部の素材の組み合わせや形状・層構造を可視化する材質同定・構造復元といった非破壊検査技術に特化したものです.従来の素子作製工程では,センサやドーピング液,電極配線などの各原材料を,シートの必要な部分にだけ移し取って繋ぎ合わせる剥離転写法を用いていましたが,各材料間での断線が頻発し,動作不良を起こすという材料の機械的な強度不足が課題となっていました.
そこで本成果では液体インク状態の各材料を印刷技術により,高い密着度で刷り込ませるスクリーン作製工程(古典美術の版画から着想)を考案することで,素子の断線・動作不良を抑制し,作製効率と耐久性の飛躍的な改善を達成しました.この成果は,CNT型PTEセンサの社会実装に求められる大規模集積や用途に応じた生産等を可能にするもので,今後の幅広い応用展開が期待されます.
現在は最も細線加工が可能なインクジェット印刷に焦点が当てられており,更にはスプレー塗工や3D熱型溶接(いわゆる3Dプリンタ),そして紡糸等も視野に入れつつ,用途に応じて10 µm線幅から一桁mm線幅まで,印刷班では”材料班”発アイディアを非破壊高解像MMW・THz・IRイメージングへ有用なCNT型PTEフレキシブルブロードバンドカメラとして微細かつ高密度に実装してまいります.また難所環境において作業員自身が身に纏えるウェアラブルデバイス(生体適合性:人肌の発汗を妨げない透湿性)への研究も進行しており,印刷班では今後はビーチボールの様に膨らませられる全天球CNT型PTEフレキシブルブロードバンドMMW・THz・IRカメラにも展開してまいります.