ヒレガイ

Ceratostoma burnetti (Adams & Reeve, 1849)

レア度:いつでも見られる

形態:最大7㎝に達する。和名の通り、ひれ状に発達した突起を3方向にそなえ、貝殻を上からみると3枚のプロペラのような形になっている。ひれとひれの間の角度は決まっており、70°→180°→110°→70°…と連続的に形成される。属名は「ツノのある口」を意味しており、開口部の脇から1本の牙状突起が手前側に伸びていることも本種の大きな特徴である。

生息域:日本海と北日本の太平洋岸に広く分布し、潮下帯の岩礁に生息する。葛登支では沖合の砂礫底にみられる。

生態:他のアッキガイ科同様、穿孔捕食者である。餌はカキやフジツボ等が報告されている (朝鮮総督府水産試験場 1939; 小菅 1960; Kado & Nanba 2016)。釜山では、摂餌行動は5–6月と9–10月に活発である (朝鮮総督府水産試験場 1939)。葛登支では、コベルトフネガイヌノメアサリなどを捕食する姿が観察されている。
多分雌雄異体で、交尾による体内受精をおこなう。釜山での産卵期は5月(朝鮮総督府水産試験場 1939)。卵嚢はオウウヨウラクのものに似るが、突起部がない。

その他:殻口の牙状突起は、捕食の際に餌の貝殻に押し当てて使い、自身と餌の貝殻同士を離すことで体の可動範囲を広げ、穿孔しやすくしていると考えられている (千葉 1960)。本科には直接この突起を攻撃に使う種もいるが (e.g. Perry 1985)、同属のコノハヒレガイ C. foliatumも攻撃には使っていない (Kent 1981)ところで、コノハヒレガイでは3方向のひれ状突起の役割を実験的に検証した研究がある。ひれの配置は流体力学的に重要な意味をもつようで、実験的に貝を水中で落下させると、高い着地成功 (開口部が下向き) 率をもたらすほか、それが失敗であって体勢立て直しコストが低い方向に開口部くようになっているらしい (Palmer 1977; Carefoot & Donovan 1995)。また、シンプルに防御機能もある (Donovan et al. 1999)。このように、ヒレガイ属の貝殻は造形美と機能美を兼ね備えている。

2020年4月 山上
2020年4月 山上1本突き立っている突起が特徴
2018年7月 山上砂に身をひそめる
2020年7月@茂辺地 大友
2018年4月 山上
2018年4月 山上
2018年7月 山上
2020年10月 大友コベルトフネガイを捕食
2019年5月 山上捕食痕(コベルトフネガイ
2020年8月 山上
2021年4月11日 りった乾燥中
2021年4月11日 りった
2021年4月11日 りった
2021年4月16日 りった
2021年4月 とみよしかっけぇ
2021年6月 藤本いい三角だ
2021年9@石狩湾 山上卵嚢(下はチヂミボラ属)

引用文献:

  1. 朝鮮総督府水産試験場. 1939. 養殖竝生物調査 (養殖係). 朝鮮総督府水産試験場年報 第9巻 第3冊.

  2. 千葉蘭児. 1960. 貝のくらし (1). ちりぼたん, 1: 130.

  3. Palmer, A. R. 1977. Function of shell sculpture in marine gastropods: hydrodynamic destabilization in Ceratostoma foliatum. Science, 197: 12931295.

  4. Kent, B. W. 1981. Feeding and food preferences of the muricid gastropod Ceratostoma foliatum. Nautilus, 95: 38–42.

  5. Perry, D. M. 1985. Function of the shell spine in the predaceous rocky intertidal snail Acanthina spirata (Prosobranchia: Muricacea). Marine Biology, 88: 51–58.

  6. Carefoot, T. H. & Donovan, D. A. 1995. Functional significance of varices in the muricid gastropod Ceratostoma foliatum. The Biological Bulletin, 189: 5968.

  7. Donovan, D. A., Danko, J. P. & Carefoot, T. H. 1999. Functional significance of shell sculpture in gastropod molluscs: test of a predator-deterrent hypothesis in Ceratostoma foliatum (Gmelin). Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 236: 235251.

  8. Kado, R. & Nanba, N. 2016. Normality of succession of an intertidal community after the Great East Japan Earthquake. In: Urabe, J. & Nakashizuka, T. (Eds.) Ecological Impacts of Tsunamis on Coastal Ecosystems: Lessons from the Great East Japan Earthquake. pp. 11–24. Springer, Tokyo.