サルアワビ

Tugalina gigas (v. Martens, 1881)

レア度:たまに見られる

形態:大型で、7㎝程度になる。貝殻は笠型で平べったく、前後に長いドクロ形。殻頂から周縁部にかけて、放射状に隆起する。特に殻頂から後端にかけては1本の稜線となり、その末端が湾入して水管溝となっている。小型個体では、放射肋と成長線が交差するため、表面がザラザラした網目状になる。貝殻は本来純白色だが、たいてい付着物に覆われて汚れている。一方、軟体部はアスタキサンチンなどカロテノイド類を含み (西堀 1957)、鮮やかなオレンジ色を呈する。和名はこれを猿のおしりに例えている。ただし、灰褐色の外套膜で頭足部と貝殻を覆い隠していることが多い。

生息域:日本海北部 (北日本沿岸、沿海州~朝鮮半島沿岸)、太平洋西部 (北日本沿岸) に分布し、潮下帯の岩礁に生息する。大陸沿岸では少ないらしく、ロシアのレッドデータブックに掲載されている 。葛登支では平磯の沖合あたりをしばしば匍匐している。

生態:本種はCN同位体比から、植食性のエゾアワビと餌をめぐる競合関係にあるとされることもあれば (Won et al. 2011)、肉食性のエゾヤスリヒザラガイと同一の食性グループに分類されることもある (Won et al. 2013)。葛登支では、イタボヤ類を捕食するらしき姿が観察されている。本科には雑食性の種が存在し、例えばダイオウテンガイガイ Megathura crenulata はホヤ、紅藻、褐藻、ヒドロ虫、コケムシなどを食べている (Mazariegos-Villarreal et al. 2013)。したがって、本種も雑食性であり、海底の固着生物をなんであれ削り取って食べていると推察される。
多分雌雄異体で、繁殖は抱卵・放精による体外受精。ゼラチン状の膜に包まれた卵を放出する (佐々木 2001)。子はベリジャー幼生としてふ化し、3日で着底する (佐々木 2001)。Tyler (1939) は同科のダイオウテンガイガイの受精を観察し、ゼラチン状の卵膜に精子を活性化・凝集させる接合フェロモンがあること、精子の頭部に卵膜を融解させる接合フェロモンがあることを報告している。

その他:どうせアワビの仲間だからと食した者によれば、肉は固く、強いえぐみがあり、食べた後はしばらく手指がしびれるらしい。なお、アワビの仲間ではない。

2018年12月 山上
2018年12月 山上
2015年8月 りった
2020年9月@奥尻島 大友
2018年6月 山上
2015年8月 りった
2020年12月 山上5㎜弱の稚貝。シロスソカケガイ Tugali decussata に似ている。
2021年3月 大友殻長3㎝くらいの幼貝
2021年3月 大友殻長3㎝くらいの幼貝、別アングル
2021年5月 とみよし転石裏。そんなに中身が見えていていいのだろうか
2021年6月 とみよしイタボヤを食べている?
2021年9月7日 藤本ご尊顔

引用文献:

  1. Tyler, A. 1939. Extraction of an egg-membrane-lysin from sperm of the giant keyhole limpet (Megathura crenulata). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 25: 317–323.

  2. 西堀幸吉. 1957. 水産動物の色素に関する研究-V サルアワビ筋肉及び内臓の色素に就いて. 日本水産学会誌, 22: 715–717.

  3. 佐々木良. 2001. エゾアワビの加入機構に関する生態学的研究. 宮城県水産研究報告, 1: 1–86.

  4. Mazariegos-Villarreal, A., Piñón-Gimate, A., Aguilar-Mora, F., Medina, M. & Serviere-Zaragoza, E. 2013. Diet of the keyhole limpet Megathura crenulata (Mollusca: Gastropoda) in subtropical rocky reefs. Journal of Shellfish Research, 32: 297–303.

  5. Won, N. I., Kawamura, T., Takami, H., Hoshikawa, H. & Watanabe, Y. 2011. Comparison of abalone (Haliotis discus hannai) catches in natural habitats affected by different current systems: implication of climate effects on abalone fishery. Fisheries Research, 110: 84–91.

  6. Won, N. I., Kawamura, T., Takami, H. & Watanabe, Y. 2013. Trophic structure in natural habitats of the abalone Haliotis discus hannai with distinct algal vegetation of kelp and crustose coralline algae: implication of ontogenetic niche shifts. Fisheries science, 79: 87–97.