エゾアワビ
Haliotis discus hannai Ino, 1952
レア度:たまに見られる
形態:大型のアワビで、10㎝になる。開口部が異常に大きいだけで、よく見ると巻貝の形をしている(ただし蓋はもたない)。巻きに沿うように吸水孔列があり、3~5個開いているが、これは成長とともに古い穴を塞ぎ、新たな穴をつくることによる。なお、クロアワビ H. discus discus Reeve, 1846 の地方型にすぎない。
生息域:東北地方から北海道、朝鮮半島に分布し、潮間帯から潮下帯の岩礁に生息する。葛登支では潮溜まりでたまにみられる。
生態:雌雄異体であり、繁殖は体外受精による。放精・放精は台風や時化によって誘発され (Sasaki & Shepherd 1995)、北海道松前では7月末から10月初旬に起こる (八幡・高野 1970)。成長過程でハビタットが変化し、同時に餌資源も付着珪藻から大型藻類へと変わる (Takami & Kawamura 2018)。
その他:北海道の重要な水産資源である。餌の種類によって貝殻の色は変化し (酒井 1962)、特に人工飼育された放流稚貝は螺頂部が青緑色になる。これをグリーンマークといい、天然個体との識別に用いられる。さらに、貝殻の形状も環境によって変化し、本亜種をクロアワビの生息地に移植するとクロアワビ型に成長する (猪野 1952)。
引用文献:
猪野峻. 1952. 邦産アワビ属の増殖に関する生物学的研究. 東海区水産研究所研究報告, 5: 1–102.
酒井誠一. 1962. エゾアワビの生物学的研究―Ⅰ 食性に関する実験的研究. 日本水産学会誌, 28: 766–779.
八幡剛浩・高野和則. 1970. エゾアワビの生殖巣成熟について: 第 1 報 松前・礼文両地における生殖巣成熟の比較. 北海道大学水産学部研究彙報, 21: 193–199.
Sasaki, R. & Shepherd, S. A. 1995. Larval dispersal and recruitment of Haliotis discus hannai and Tegula spp. on Miyagi coasts, Japan. Marine and Freshwater Research, 43: 519–529.
Takami, H. & Kawamura, T. 2018. Ontogenetic habitat shift in abalone Haliotis discus hannai: a review. Fisheries science, 84: 189–200.