レア度:いつでも見られる
形態:体長4㎝ほどのヒザラガイ類で、正円形に近い輪郭をなす。肉帯は赤褐色または褐色で、淡色の縞模様をもつ。その表面にはパイプ状のヒゲが密集し、その1本1本はさらに細かい小棘で覆われる。小棘は笹の葉形で、隙間なく並ぶ。また、本属の特徴として、肉帯前方が唇のように幅広くなっていること (この部位はhead flapという)、その奥まった部分に口があり、口元から数本の前-頭触角 (pre-cephalic tentacles) が放射状に伸びることが挙げられる。これらは摂餌に機能する。
生息域:北海道南部から九州に分布し、潮間帯から潮下帯の岩礁に生息する。葛登支では岩の側面や窪みに普通にみられるが、付着物を纏って背景に溶け込んでおり、大変見つけにくい。
生態:肉食性。しばしばhead flapを持ち上げる行動が観察されるが、これは餌の待ち伏せ行動であり、刺激によって振り下ろされる。Mclean (1962) は北米種の P. velata の消化管内容物から小型の単脚類を発見し、捕食行動を詳細に記述した。ただし、P. velata の糞には珪藻やカイメンの骨片も含まれるため、grazingも行うようである。本種の繁殖生態は不明だが、エゾババガセ P. borealijaponica で放卵放精、キタノババガセ P. borealisで子の保育が報告されている (斎藤・山崎 2016)。
その他:類似種エゾババガセ P. borealijaponica は本州北部以北に分布し、津軽海峡周辺では本種と同所的に分布する (Saito & Okutani 1989)。したがってエゾババガセ (肉帯に縞模様がなく、ヒゲ状突起表面の小棘はスカスカ) も今後発見される可能性があるが、それらしき貝は見つかっていない。
引用文献:
Mclean, J.H. 1962. Feeding behavior of the chiton Placiphorella. Journal of Molluscan Studies, 35: 23–26.
Saito, H. & Okutani, T. 1989. Revision on shallow-water species of the genus Placiphorella (Polyplacophora: Mopaliidae) from Japan. The Veliger, 32: 209–227.
齋藤寛・山崎友資. 2016. 厚岸湾で観察されたキタノババガセの保育習性. ちりぼたん, 46: 107–109.