アゴハゼ
Chaenogobius annularis Gill, 1859
レア度:いつでも見られる
形態:腹鰭は吸盤状になる。口は大きく、上顎は下顎よりも前にでて、上顎の後端は眼の後端を超える。胸鰭の上部に遊離鰭条(鰭膜を持たない鰭条)がある。胸鰭と尾鰭に黒い点の列があり、尾鰭の後端は白くないことでドロメ C. gulosus と識別できる。色彩変異は多少あるが、体色は黄色や茶褐色で、側面にな黒の斑模様が並ぶ。また、眼の後方から放射条が数本伸びる。小さい個体(若魚?)では、背鰭の上縁に入る水色の線がきれいに目立つ。稚魚は透明だが薄い黄色を呈し、尾鰭の付け根に黒点がないことでドロメの稚魚と識別できる。
生息域:葛登支のいたる所で、最も普通に見られる魚種。タイドプールなどをススっと泳ぎ、尾鰭が透明ならだいたい本種。基本的に砂地から岩場まで幅広くみられる。普段は探さなくても見つかるが、冬は活性が下がり石の下に潜むものがほとんどになる。
生態:ドロメとはほぼ同所的に見つかるが、アゴハゼは(1 雑食だがヨコエビが主食、(2 浅い砂泥底を好む、(3 砂に埋もれる転石の下に産卵する、といった点で、ドロメと生態的に異なるため、、互いに仲良く生息できていると考えられいる(佐々木・服部, 1969)。春に浮遊仔魚が生まれ、沿岸を漂った後に、体長2㎝くらいで着底する。孵化時点で卵黄がない、口と肛門が機能するなど、他のハゼ類と比べてかなり発達している(Nakamura, 1936)。
その他:太平洋側と日本海側(対馬暖流域)で遺伝的分化が知られる(Hirase et al., 2012a)。さらに浮遊期が短く分散力が低いため、地理的に数km離れた地点同士でも遺伝的分化が認められるらしい(Hirase et al., 2012b)。
引用文献:
Hirase, S., Ikeda, M., Kanno, M. & Kijima, A., 2012a. Phylogeography of the intertidal goby Chaenogobius annularis associated with paleoenvironmental changes around the Japanese Archipelago. Marine Ecology Progress Series 450: 167-179.
Hirase, S., Kanno, M., Ikeda, M. & Kijima, A., 2012b. Evidence of the restricted gene flow within a small spatial scale in the Japanese common intertidal goby Chaenogobius annularis. Marine Ecology 33: 481-489.
Nakamura, S., 1936. Larvae and young of fishes found in the vicinity of Kominato, II-VI. Journal of the Imperial Fisheries Institute 31(2): 131-166.
佐々木喬・服部仁, 1969. ハゼ科の2近縁種(アゴハゼとドロメ)の潮溜りにおける共存関係. 魚類学雑誌 15(4): 143-155.