記載事項の誤りについて
1.8節の,作中の描写を巨大基数に見立てる箇所について,京都SFフェスティバルで質問を受けた.当該箇所について後日確認していたところ,当該箇所に重大な誤りが複数含まれていたことに気がついたため,ここで訂正する.
通常の数学において“無限”という語を用いるとき,順序集合の上限を“無限”としていることが多い.また,日常生活において“無限大”というときは,とりあえず“最も大きいもの”という意味で用いていることが多い.
一方で,物理学における無限は,実数の中の無限であるから,可算無限ではない.また,これはただの実数の中の無限大ではなく,単調増加列の収束先である,無限ではない数との四則演算の結果がプラスマイナス無限大になるなど,いくつかの満たして欲しい要素が余計に入っているものである.物理学における無限大を実数としての無限大と単純に同一視してしまうと,実数の体としての同一性を破ってしまうことになる.
ただし,物理学における無限は,実用上計算のごく一部でしか登場しないので,数学的に問題が起こりにくい.逆に,無限大で割る操作を厳密に行わなければならないくりこみでは,この困難が現実に発生してしまう.(余談だが,このくりこみはホイーラー-ファインマン吸収体理論の先にある理論である)
また,「コンメンタール」本文中にある“不可算無限”は“非可算無限”の誤りである.
参考文献の不足について
本書を刊行・頒布した文学フリマ大阪からの帰路に立ち寄った梅田のジュンク堂書店にて,本論の参考文献として挙げられるべきであった次の書籍を発見した.
吉荒聡, 『散在型有限単純群』, 共立出版, 2024
同書は「ムーンシャイン」に登場する散在型有限単純群のうち,特にマシュー型の5個とコンウェイ型の7個について,ゴレイ符号やリーチ格子との関連を扱う自己完結的な教科書である.散在型有限単純群が誤り訂正符号であるゴレイ符号によって自然に記述される様は,散在型有限単純群が純粋数学だけでなく情報理論とも強く関連することを示す.
同書は2024年8月5日に刊行されていたものの,私の探索から逃れており,本書で紹介することが出来なかった.
また,魔方陣に関するサイトとして,Walter Trumpによる以下のサイトが有名である.
Walter Trump, Notes on Magic Squares and Cubes, https://www.trump.de/magic-squares/index.html
これは私の不注意により,参考文献から漏れてしまったものである.
上記2点について,深く反省するとともに,ここに掲載することで補足としたい.