塚本敬之、山本雅則、江波義成(滋賀県農業技術振興センター)
はじめに
滋賀県では、化学合成農薬および化学肥料の使用量を慣行の半分以下に削減するとともに、環境負荷を削減した技術で栽培された農産物を「環境こだわり農産物」として認証する制度を実施してきた。
農業技術振興センターの病害虫分野では、病害虫防除所と連携しながら、環境に配慮した病害虫管理技術の確立を目指している。これまでに斑点米カメムシ類に対する防除技術、昆虫病原糸状菌を用いたチョウ目害虫防除技術、超音波を利用したヤガ類の被害防止効果の検証など幅広く試験研究に取り組んできた。本講演では、現場で広く普及している斑点米カメムシ類に対する減農薬防除技術と、近年取り組んでいるヒメトビウンカとイネ縞葉枯病ウイルス、環境こだわり農業における生物多様性保全効果の検証について紹介する。
最近の研究
斑点米カメムシ類に対する減農薬防除技術
本県農業は水稲作に特化しており、斑点米カメムシ類の防除は最重要課題であった。カメムシ類は畦畔のイネ科雑草に誘引され、これを経由して本田に侵入する。このため、畦畔のイネ科雑草を、効率的で省力的に管理する技術を検討し、現在、全県的に普及している管理法「畦畔2回連続草刈り」を開発した。この技術は、環境保全型農業の「農林水産大臣賞」など多くの賞を受賞している。
ヒメトビウンカとイネ縞葉枯病ウイルスの動向
1950年代の本病による被害面積は27,000ha以上にものぼり、その媒介虫であるヒメトビウンカ(以下ヒメトビ)を対象とした薬剤防除が実施されていた。その後、県内では本病の発生は減少し、ほぼ収束状態にあった。近年、本県では、本病による大きな被害は認められていないが、刈株再生芽(ひこばえ)において本病の発生が増加傾向にある。
本病の蔓延を未然に防止するために、2010年より本病ウイルスを保毒しているヒメトビを把握するための保毒虫検定を実施し、発生状況を継続的に調査している。その結果、保毒虫が増加傾向にあることや、8月のすくい取りで得られたヒメトビの保毒虫密度と10月の刈株再生芽におけるイネ縞葉枯病の発病株率との間には有意な正の相関があることが明らかになった。
環境こだわり農業と生物多様性
2008~2010年の農林水産省委託プロジェクト「農業に有用な生物多様性の指標および評価手法の開発」に参画し、その成果として、本県において環境こだわり栽培に面的に取り組まれている地域では、水田における生物多様性が高く維持されていることを報告した(北澤ら, 2011)。この既報とは異なる湖東地域を調査地として、2015・2016年度に『農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル』(農林水産省農林水産技術会議事務局,2012)を用いて、環境こだわり栽培における生物多様性の保全効果を検証した。
調査の結果、環境こだわり栽培では、指標生物とされている水生コウチュウ類、ダルマガエル類およびコモリグモ類の個体数が慣行栽培と比べて多く、マニュアルに基づくスコア値を計算すると、生物多様性が高いという結果が得られた。また、環境こだわり栽培では寄生蜂類が多く、指標生物以外の天敵類も豊富に生息していることが分かった。