田崎駿平(滋賀県立大学大学院)
近年、野生鳥獣による人間活動への被害が全国各地で頻発している。このような人間活動において害を為す哺乳動物を害獣といい、それらによって生じる被害を総じて獣害という。一般的に獣害には、田畑などを荒らす農作物被害、苗木や樹木を採食する林業被害、人身事故などの人的被害、病原体の媒介などの感染症被害、さらに家畜や養殖魚を襲う被害などがある。これらの被害は全国各地で生じており対策が急務である。
滋賀県においても、他の地域と同様に獣害による被害が問題視されている。滋賀県における平成28年度の農作物被害は、面積にして約180ha、金額にして約1億1千万円とされる。農作物被害の推移は、平成22年度をピークとして平成23年度より減少傾向にある(図1参照)。これは害獣により生じた被害に対して、大掛かりな侵入防止柵の設置や集落環境点検などの地域ぐるみ対策など地域単位での対策意識が功を奏した結果といえる。
一方で、森林生態系への獣害も顕著で、特にニホンジカによる森林生態系への影響は大きく、ニホンジカの採食圧により不嗜好性植物が繁茂するなど植物の多様度を低下させるといった森林生態系への影響が懸念されている。ニホンジカによる食害は主に、下層植生の過食による植生の劇的な変化や樹皮剥ぎによる枯死、土壌の掘り起こしによる土壌侵食など多くの問題が挙げられている(図2参照)。こうした森林生態系への影響で生じる水源涵養や土壌保全などの公益的機能も低下させる可能性がある。このような森林生態系を保全する上で、ニホンジカの採食に関連する行動が森林生態系に与える影響や、それらの特徴を把握することが重要となる。そこで本セミナーでは、ニホンジカによる森林生態系への影響に関する研究最前線について概説する。