須藤明子(株式会社イーグレット・オフィス)
カワウは,20世紀前半までは全国に生息していたが,狩猟,河川改修などの生息環境破壊,PCB,DDT,ダイオキシン類などによる化学物質汚染の影響で個体数が減少し,1970年代には,絶滅が危惧された。ところが,1980年代になると,禁猟,化学物質規制による水質改善などの影響でカワウの個体数は回復しはじめた。現在,個体数増加と分布拡大にともなって,人間活動との軋轢が全国で発生している。主なカワウ被害は,内水面漁業被害で,放流魚や漁獲魚の食害,漁具の破損,釣客がカワウを嫌うことによる入漁料の減少などが問題となっている。コロニーやねぐらでは,巣材採集や踏みつけによる枝折り,糞による土壌変成などで樹木枯死や土壌流出が発生,糞や鳴き声による生活被害も起きている。カワウは,適切な個体数管理が必要な種と認識され,鳥類では唯一,特定鳥獣保護・管理計画の対象種となっている。
滋賀県においても,1980年代に琵琶湖北部の竹生島と琵琶湖東岸の伊崎半島に再営巣が確認されてから,営巣数と生息数が急激に増加して数万羽に達し,滋賀県のカワウ被害は,全国で最も深刻な状況となった。銃器による有害捕獲をはじめ,花火や凧による追い払い,ロープ張りによる営巣防止,オイリングによる繁殖抑制などの様々な対策が行われたが,カワウ被害は深刻化する一方であった。
滋賀県は「漁業・植生被害の軽減とカワウ個体群の安定的維持」を長期目標,カワウ個体数の顕著な低減」を短期目標として,2006年度に任意計画「滋賀県カワウ総合対策計画」,2009年度に「特定鳥獣保護管理計画(カワウ)」を策定した。計画では,県内のカワウ生息数の管理目標を4,000羽に設定し,竹生島・伊崎コロニーでの銃器捕獲による大規模な個体数調整を実施することとした。現計画「滋賀県カワウ第二種特定鳥獣管理計画」においても,これらの目標が掲げられている。
カワウの個体数調整の成功例は世界的にもほとんどなく,特にねぐらやコロニーにおける無計画な銃器捕獲は,コロニーを拡散させ,被害を増大させる危険がある。そこで,滋賀県は水産課事業として,専門的・職能的捕獲従事者(カラー)による少数精鋭の捕獲体制(シャープシューティング)を整備し,2004年からプロジェクトKSS(カワウシャープシューティング)を開始し,成鳥の選択的・高効率捕獲を実施した。2009〜2016年度までの7繁殖期(5〜7月)に,射手2〜3人/日で179日間(射手401人日),57,050羽を捕獲した結果,繁殖前期(5月)の個体数は,2008年の37,066羽から2016年の6,538羽に,繁殖後期(9月)では,2008年の74,688羽から2016年の9,979羽に減少した。
カワウの減少にともなって,竹生島コロニーでは,土壌流失が止まり,裸地化していた斜面に草地植生が回復するとともに,タラノキやアカメガシワなどの先駆的な種による低木林が形成され始め,立ち枯れていると思われていたタブノなどの照葉樹大木の一部に胴吹きが確認されるなど,顕著な植生の回復が見られている。また,漁場へのカワウ飛来数の減少や放流魚を食害するカワウの減少を実感している漁協が増加した。