稗田真也1,金子有子2,中川昌人3,野間直彦4
(1滋賀県大・院・環境,2東洋大・文,3岡山農水セ・生物研,4滋賀県大・環境)
目的 琵琶湖では、侵略的外来水生植物の繁茂が社会問題になっている。特に近年では、北米南部・南米原産のアカバナ科の抽水植物オオバナミズキンバイ Ludwigia grandiflora が急速に生育面積を拡大していることでしられる。本種には、亜種オオバナミズキンバイ L. g. subsp. grandiflora(6倍体: 2n=48)(以下、亜種オオバナ)と、亜種ウスゲオオバナミズキンバイ L. g. subsp. hexapetala(10倍体: 2n=80)(以下、亜種ウスゲ)の2亜種がしられ、特定外来生物に指定されている。侵入リスク解明のため、亜種オオバナとされる琵琶湖集団を対象に、分類および生活史特性を調査した。
対象と方法 正確な亜種の分類のため、花器官(ガク裂片・花弁・花柱・短花糸・長花糸・子房)を測定し、茎・葉の毛を観察した。押しつぶし法で、根端の染色体を計数した。
受粉様式の解明のため、訪花昆虫の同定・付着花粉の有無を調査し、果実の結果数を記録した。種子発芽特性の解明のため、無処理および4℃120日間の前処理後(条件: 乾燥・泥中・湿潤; 状態: 果実・種子)に、発芽実験を行った。実生生存率の解明のため、実生の個体数・高さ・被度、群落の被度を調査した。分布特性の解明のため、水辺から陸上にかけて群落を踏査し、植物体を観察した。
結果 花器官の形態は、ガク裂片・花弁・花柱の長さ、茎・葉の毛は、亜種ウスゲの測定値内にあった。短花糸・子房の長さは、両亜種の測定値内にあった。長花糸は、両亜種の測定値内になかった。染色体数はおおむね2n=80で、亜種ウスゲと同じであった。
在来・外来のハナバチ類の訪花が、結果に寄与していた。発芽率は、泥中果実・種子で高く、乾燥・湿潤果実は乾燥・湿潤種子よりも低かった。実生は、全個体が死亡した。植物体は複数の生活型(抽水茎陸上型・水上型;浮茎)を示し、独占的に繁茂していた。
考察 琵琶湖集団は、亜種ウスゲであると考えられる。この亜種は、欧州で1800年代に野生化し今でも繁茂しているため、更なる分布拡大に警戒する必要がある。
外来・在来のハナバチ類を送粉者として獲得し、セイヨウミツバチとの間に侵入溶融(外来種が別の外来種の侵入を促進する現象)が起きている。種子には4℃120日間の保存後も発芽力があるため、越冬可能と考えられる。果実・種子は、泥中に埋没して休眠打破されると考えられる。実生の死因は、キタカミナリハムシの食害と乾燥であると考えられる。
植物体は、形態可塑性により水辺から陸上の環境に適応し、独占的に生育すると考えられる。琵琶湖における亜種ウスゲの主な競争種は、ナガエツルノゲイトウ・オオフサモ・チクゴスズメノヒエなど、抽水性の侵略的外来植物であると想定される。一方で在来種では浮葉植物のヒシが競争種であると考えられるが、これら侵略的外来種にたいして有効な競争種になることは想定しにくい。今後も、琵琶湖に新たな侵略的外来種が侵入し繁茂する可能性があるため、早期対応を目的とした予防的対策が求められる。