Research

電気分極のトポロジーを応用した表面新物質相の開拓

Zak位相という現代の電気分極のトポロジーの中心概念となっている量子位相をデザインすることで、物質表面に新しい量子状態を実現します。また表面における"対称性の破れ"に起因した量子状態の"方向性"を利用し、電気や熱、音波で制御できる物性機能を設計します。

例えばこれまでに、FeSiという物質の表面に強スピン軌道結合状態を実現し、電流を流す方向で表面磁化の向きを自在に制御することに成功しました。これはMRAMといった次世代の不揮発性メモリに応用することができます。また従来のトポロジカル絶縁体とは異なり原子番号の大きな希少元素を含まないことや、室温でも電気分極のトポロジーとその機能を保持できることから、環境にやさしい高性能トポロジカル材料として応用が期待できます。

e.g., Science Advances (2021); Advanced Materials (2023).

ナノ磁気構造体の自己組織化とその複雑ネットワークが織りなす非線形伝導現象

単純な構成要素から複雑なシステムが自発的に構築されることを"自己組織化"と言います。巨大分子や生命体、人間社会に至る広範な分野に渡って、その概念が注目を集めています。これらのシステムにおいては、構成要素間の相互作用に起因した非線形性によって複雑なパターンが現われ、構成要素の性質からは予測もできない様々な現象を引き起こします。

特に私たちは量子物質中の電子スピンに注目し、膨大な数のスピンが織りなすナノスケールの自己組織構造体やその集合体を物質界面に組み立て、わずかな刺激で大きく応答する非線形電気伝導現象を実現します。また大きな非線形効果を利用したニューロモルフィックコンピューティングへの応用を目指します。

例えばこれまでに、キラル結晶中のスピン集団によって自然界には存在しないと考えられている"磁気モノポール"とその高密度結晶状態を作り出しました。さらに2次の非線形をもった磁気キラル効果に由来した整流現象も観測しました。

e.g., Nature Communications (2016); Physical Review B (2021).

低次元ナノ構造におけるゆらぎ現象とエネルギー変換機能

一般にシステムのサイズが小さくなったり次元性が低くなると、構成要素の数や隣接する要素からの作用が減少するためゆらぎの効果が顕著になります。特に低次元量子物質においては電子状態密度の特異性が現れるため、熱ゆらぎ・量子ゆらぎの効果がより強く反映されます。ナノドット結晶成長やナノデバイス加工技術を駆使することによって特徴的な電子状態・スピン状態を微小空間に閉じ込め、高エントロピー流による熱電変換効率の増大や対称性の破れに起因したゆらぎ整流効果とマイクロエネルギーハーべスティングを実現します。

例えばこれまでに、ナノワイヤー中に閉じ込めた磁気スキルミオンの創発磁束量子の検出とBarkhausen効果や集束電子線ビームで加工したマイクロサンプル中におけるキラルスピンゆらぎによる電気整流を観測しました。

e.g., Physical Review B (2016); Nature Communications (2017).