研究トピック
(Recent. Update: Oct. 1., 2023)

松江の研究活動はいわゆる「応用数学」、特に以下の分野を基礎としている:
力学系理論,
・微分方程式,
数値解析、特に精度保証付き数値計算.

松江の基本精神は、力学系理論、数値解析や様々な数学の応用を通して、微分方程式などで生成される現象における「変」あるいは「特異」な振る舞いに潜む基本性質を紐解くことにある。
変なもの面白い。至極明快。
変に見える物も、見方を変えれば素直」をモットーにアイデアを練っている。
松江はさらに応用数学を軸とした燃焼、関連するエネルギー問題由来の課題にも従事し、革新的技術の開発につながる新しい知見の創出を目指している。

松江が現在特に関心を持っている物は以下の通り。

有限時間特異性と力学系

微分方程式の解の"有限時間爆発"、"絶滅"、"急冷"、"衝突"に代表される有限時間特異性が松江の主要な研究対象である特に、これらの特異性の特徴付けの基礎的・統一的枠組みの構築応用や具体的なモデルにおける問題より、理論整備に力を入れている。
松江は常微分方程式系を主な対象として、相空間のコンパクト化や時間スケール特異性解消を通した「無限遠ダイナミクス」の解析を軸に問題に取り組んでいる。

松江が主に達成した結果は以下の通りである:
1. 有限時間特異性の理論を「漸近的擬斉次ベクトル場」の枠組みで構築した。これは無限遠も含めて意味を持つ特異性解消ベクトル場の導出も含む。
https://epubs.siam.org/doi/10.1137/17M1124498  
2. (タイプ-I)爆発を、無限遠における不変集合(平衡点、周期軌道、法双曲型不変多様体)の局所(中心)安定多様体により特徴付けた。
https://epubs.siam.org/doi/10.1137/17M1124498  
https://arxiv.org/abs/2307.09201
3. タイプ-II 爆発、遅いレートの爆発が無限遠における非双曲型不変集合で特徴付けられ、これは絶滅、急冷などの有限時間特異性の共通機構であることを例示した。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022039619303274
4. シンク型、サドル型の爆発解の精度保証付き数値計算、および初期値依存する爆発時刻の分布の可視化を実現した。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00332-023-09900-6
5. タイプ-I 定常爆発解の複数項漸近展開の計算法と、その無限遠ダイナミクスとの対応を導出した。
https://arxiv.org/abs/2211.06865
https://arxiv.org/abs/2211.06868
6. 非自励的常微分方程式系における爆発解の特徴付けを与えた。
https://arxiv.org/abs/2307.09201

「無限遠不変集合」による爆発解の特徴付けは、爆発解の空間的複雑さを記述すると言える。

この課題の最近の取り組み(の一部)は以下の通り:
A. 漸近的擬斉次性とコンパクト化の統一的特徴付け(これまでのまとめ)。
B. 法双曲性から外れた有限時間特異性の特徴付け。
C. 非自励的スペクトルによる爆発の時間的複雑さの特徴付け(←現在、特に力を入れているのはこれ)。
D. 無限遠ダイナミクスを用いた有界な力学系構造の特徴付け。
E. 特異衝撃波、衝突や他の考え得る有限時間特異性の定性的・定量的特徴付け。

上記の課題は「有限次元」の問題、特に常微分方程式の範疇にある。
自然な問いとして、偏微分方程式や時間遅れを含む微分方程式などの「無限次元」問題における同様の考察も挙げられる。しかしこれらはまだ将来の方向性の1つにとどまっている。
必要な道具や理論が整備されれば、本格的な考察を始めるだろう(それ以前に、有限次元での考察対象が次々と生まれている)。

近年、親しくなった人からレート/分岐-誘発転換 (Rate/Bifurcation-induced Tipping)を習った。
これも非常に非自明な有限時間特異性なので、勉強を開始した。

力学系における精度保証付き数値計算

微分方程式の生成する力学系において、摂動に対して不安定な軌道の厳密な存在証明、その具体的なプロファイルがこの分野における近年の主流の1つであるが、有限時間で急激な(大域的)変化を発現する軌道の精度保証付き数値計算が主な興味の対象である。
現時点で、それは以下に大別される:
1. Fast-Slow系(マルチスケールダイナミクス)
2. 有限時間特異性(爆発解など)
いずれも「数学、(特別な工夫を施していない)数値計算の両方で考察・視認が難しい」事が特徴として挙げられる。その特徴を捉える数学的理論:特に対象の存在や安定性の特定を保証する充分条件を構築し、精度保証付き数値計算を援用する事で「標準的ステップ/コストで」解構造を抽出する事が本課題の大きな目的である。

1. Fast-slow系においては、幾何学的特異摂動論(Geometric Singular Perturbation Theory)を基礎として、速いダイナミクス  / 遅いダイナミクス各々に支配的な軌道のピースが混在する全軌道を精度保証付きで計算・その存在を証明することをメインの課題としている。
速い極限系の平衡点の集まりである「臨界多様体」を摂動した「slow  manifold」を構築、複数のslow manifoldのピースをつなぐ軌道をODE(常微分方程式)の精度保証付きソルバーで計算し、slow manifoldの(上ではなく)近くを通る軌道の存在とその振る舞い方を、slow manifoldの法双曲性と遅いダイナミクスの関係を制御することで間接的に記述する。
DOI: 10.12775/TMNA.2016.072
DOI: https://doi.org/10.1090/suga/483

2. 有限時間特異性については、上で言及した通りである。
コンパクト化(埋め込み)と時間スケール特異性解消を用いて、ODEの精度保証付きソルバーと、地平線上不変集合の局所力学系を特徴付ける「局所Lyapunov関数 / 錐」「不変多様体のParameterization」を用いて、ODEを有限時間だけ積分して得られた解軌道と、Lyapunov関数が支配する特別な近傍 / 不変多様体との交差を検証する事で解を得る。
精度保証付き数値計算特有のアドバンテージ:爆発時刻の厳密定量評価は、時間スケール特異性解消と上記のツールで見積もった値で困難なく実現できる。
これにより、爆発解の厳密なプロファイルを含めた存在証明が完了する。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00332-023-09900-6
https://link.springer.com/article/10.1007/s00211-020-01125-z
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0377042719306120
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0377042716305027

燃焼科学 / 工学

太陽電池、燃料電池など温室効果ガスを出さないエネルギー生成技術がカーボンニュートラル社会創成の鍵として研究・開発されているが、人類史最古のエネルギー創成技術である燃焼は、その特性上二酸化炭素を多く排出し得る(←燃料依存!)にも関わらず、高効率かつ安定なエネルギー生成技術として、今なお我々の生活を支えている。近年では二酸化炭素の排出を抑える天然ガスやカーボンフリー燃料による燃焼が1つのホットな話題となっている。
一方、これらは個々の燃料や個々の装置による個別の考察が大半を占めており、「あらゆる」物理化学的影響に対し、「様々な」状況における炎の振る舞いを原理として理解する事を目指す研究は限られている(昔は漸近解析などの成功により盛んであったが、近年は影を潜めている)。

松江の燃焼科学分野における研究は、応用数学を軸とした
炎と物理化学的因子の相互作用に伴う火炎動態の指導原理の導出
を目標とし、高効率かつ安定・安全な燃焼技術の開発に繋げる事を目指す。
具体的には、以下の対象の相互作用に伴う火炎動態の指導原理を見出す事が研究対象となる。
・炎と熱膨張率
・炎と重力
近年挙げた成果が「炎と重力の相互作用」による火炎動態の変化である。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13647830.2023.2165968
・炎と物質拡散
炎と音
直近の課題の1つがこれである。炎は、自発的に音を生成する。炎が音を生み出し、それが燃料の濃度分布を不均一にし、炎の揺らぎを生み、・・・というサイクルを形成し、自発的な不安定化を引き起こす。特に音=圧力振動に伴う装置の破壊は、時に甚大な事故を起こす原因となり得るため、その制御は効率化だけでなく安全性の担保の観点からも非常に重要となる。しかし、炎と音の相互作用メカニズムは非常に複雑で、理解も非常に限られている。本課題ではSivashinsky方程式をベースに、非常に弱い炎の揺らぎと音響場の相互作用モデルを考え、音が炎に、炎が音にどう作用するかを網羅し、燃焼における音響メカニズムのシステマティックな理解を与える。
・その他
他にも様々な因子による火炎動態の変化を考察している。
なお、乱流火炎も考察すべき対象であるが、数多くの準備を要するため、現時点では考慮に入れていない。