北海道大学 大学院水産科学研究院 海藻学教室では,沿岸生態系の基盤をなす海藻類を保全するために,基礎的な分野である分類,生理や生態に関連する研究,実際の藻場回復に関連した研究を展開しています。
個人的には,集団遺伝解析と野外の生態学的な調査を融合し,目視による個体観察からは見えてこなかった海藻の生態を解き明かすこと,豊かな藻場を維持し地域の海藻産業が活性化することを目指しています。
ご興味がある学生さんや企業の方は秋田までお問い合わせください。
企業様からの共同研究のご連絡もお待ちしております。
潜水調査希望の学生は,セルフのスキルと潜水に関する知識を身につけて来てください。潜水教室ではありません。ファンダイビングでもありません。調査するための手段です。
▶︎ 研究室の主なテーマ:
海藻類の生態や多様性に関する研究
(配属希望の学生さんへ:興味があるテーマの持ち込み大歓迎です。相談に乗りますが,現実的でない場合は実施できないことをご承知ください。)
▶︎ キーワード:
藻場の保全,海藻の繁殖生態,ライフサイクル,種分類など
研究室所属の学生や教員が主導した研究で科学雑誌に掲載された成果の紹介
7. ヒジキは優占的な繁殖方法の検討(Minamiguchi et al. 2026)
ヒジキは無性生殖と有性生殖で繁殖します。これまでの見解では,繁殖において無性生殖が優占的であり,個体の加入はほとんど無性生殖によると考えられていました。でも,ヒジキは毎年成熟し有性生殖します。これは意味のない成熟なのでしょうか。ヒジキを持続的に活用するためには,繁殖戦略を理解する必要があります。これまでは目視観察によって調べられていたのですが,今回は個体を遺伝的に個体識別してクローン個体を同定することで調査してみました。その結果,ヒジキは多くの場合で20-30cmの範囲でクローン個体が加入することがわかりました。今回検出できた最大のクローンの範囲は約70cmでした。一方で,有性生殖でも親個体の近隣から数キロに及ぶ範囲で加入が認められました。無性生殖で加入する範囲は地点ごとに異なっており,磯の微小地形が影響しているようでした。今度は,なんの条件で無性生殖で加入できる範囲が決まるのか調べてみようと思いました。新しいことにチャレンジしたので論文が受理されるまで多数の障壁がありました。勉強になりました。
ヒジキを採集にご理解をいただきました上磯郡漁協はまなす支所の皆様に御礼を申し上げます。
詳細はPhycologyに掲載された論文をご覧ください。こちらからアクセスできます。解説スライド。
6. 道南のヒジキの季節的変化を報告(南口ら 2026)
ヒジキは道南が北限で津軽海峡では函館近辺,日本海ではせたな町近辺に生育しているようです。日本国内では,千葉県や三重県がヒジキの産地として有名ですが,最近の海水温上昇がもたらす植食性魚類の活発化による食害(?)の影響で,本州ではヒジキ群落の消失や衰退が報告されています。北海道南部には幸いなことに,植食性魚類がまだ到達していないので(永遠に来ないでください。。。),ヒジキの一大産地となり得る可能性があります。これまでに北海道南部のヒジキの季節的消長は不明で一部の季節のみの報告にとどまっていました。そこで,今回は函館の磯で毎月ヒジキを採集し季節的な変化を記録しました。その結果,道南でのヒジキは,主枝長が最大となる時期や成熟時期が本州の報告に比べて1〜2ヶ月遅れていました。水温が低い時期は本州と比べて長いためと考えています。秋〜冬季は1日のうちの最干潮の時間が夜間となります。冬の気温がマイナスの時期に採集に行くと干出したヒジキの藻体表面が凍結しています。凍結耐性が気になります。
ヒジキを採集にご理解をいただきました上磯郡漁協はまなす支所の皆様に御礼を申し上げます。
詳細は和文誌 藻類に掲載された論文をご覧ください。こちらからアクセスできます。解説スライド。
5. モーリシャスで新種のベニマダラを発見(Yao et al. 2026)
ベニマダラ属Riverinaは,綺麗で流れの速い河川,湧水,少し陰った河川などに生育し,世界中に分布すると考えられています。日本にはタンスイベニマダラRiverina jigongshanensisの1種のみが発見されています。趣味で様々な淡水域でサンプリングしていますが,日本には1種のみで間違いなさそうです。ベニマダラ属Riverinaは,ヨーロッパ,アメリカ大陸,アジア大陸,東南アジア,オセアニア,太平洋の諸島など様々で報告されていますが,インド洋の諸島での発見例はありませんでした。商船三井に援助いただいているモーリシャスの水産振興で,現地に訪れた際に立ち寄った河川でたまたまベニマダラを発見しました。形態を他のベニマダラと比較し,遺伝情報を取得し系統解析したところ,今回のサンプルは未記載であったため新種として報告しました。モーリシャスの海藻の多様性分野の発展に貢献された(故)Dr.Reginald Edward Vaughanにちなんで,Riverina vaughaniiと名付けました。
詳細はPhycologiaに掲載された論文をご覧ください。こちらからアクセスできます。
4. オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブ,マコンブの分類学的再検討(Akita et al. 2026)
マコンブ,オニコンブ(ラウスコンブとして市場では流通しています),リシリコンブ,ホソメコンブは産業において極めて重要な海藻です。しかしながら,産業利⽤の基本的な単位である種の境界が不明瞭でした。具体的には,オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブをマコンブの変種と扱うことが発表された後, それらに対応する遺伝集団の存在が⽰唆されていました。興味深いことに,これを支持する研究は変種を提唱した著者らによる研究1報のみでした。マコンブは産業重要種であるため,集団遺伝学的な研究がいくつか実施されてきましたが,それらでは変種に対応する集団が示されていませんでした。加えて,変種が充てられているマコンブは北海道沿岸に生育するもののみで,本州の東北沿岸に生育するマコンブやロシアや北朝鮮で産するマコンブは,どの変種にあたるのかよくわかっていませんでした。そこで,本研究では日本国内からマコンブ,オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブを合計で475個体集め,集団遺伝学的な再検討を実施しました。その結果,マコンブ,オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブに相当する遺伝集団は存在せず,地域特異的な遺伝集団が認められました。全てのサンプルを統合して,サンプル間の遺伝距離と地理的な距離の関係を求めると,距離に比例して遺伝距離が大きくなりました。これは種内の遺伝距離の比較で頻繁に認められるのパターンです。したがって,マコンブ,オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブは遺伝的に区別できないため, 同種として扱うことが妥当であり,種を統合する際は,最も古く記載された種に統合する規則が国際命名規約で定められていることから,オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブをマコンブに統合することを発表しました。
マコンブはLaminaria japonicaとして記載された後,Saccharina japonicaに移属されています。この時に,Laminaria japonicaの品種(forma)として提唱されていたものが全て放置されていました。個人的にはコンブ類は形態変異が極めて激しいので品種は不要だと思っていますが,分類学的には放置できないだろうと考え,Laminaria japonicaに発表されていた品種とSaccharina japonicaに入れ込みました。一部標本が見つからない(実態不明)の品種があるようです。。。
コンブの採集にご協力いただきました各漁協の皆様ありがとうございました。
詳細はJournal of Phycologyに掲載された論文をご覧ください。こちらからアクセスできます。
3. ホンダワラ属の野外での種間交雑の初報告(Jozawa et al. 2025)
褐藻ホンダワラ類はヒジキの仲間の海藻で,ヒマバタ目というグループに分類されます。これまで,ヒバマタ目に含まれる数属の海藻では種間交雑が野外で報告されていました。しかし,なぜかホンダワラ属では発見されていませんでした。今回,フィールド調査で偶然にも,付着器と主枝の生え方がヨレモクとエゾノネジモクの中間的な形態と思える個体を函館と江差で発見しました。ヨレモク,エゾノネジモクも含めて遺伝集団を推定すると,形態的にはヨレモクやエゾノネジモクでも遺伝的に中間的な個体がいくつか検出されました。一方,形態解析では,形態的に中間的な特徴が統計的に支持される個体は見つかりませんでした。遺伝的に中間的な集団が存在することから,2種は交雑していることが示唆されましたが,定量的に推定すると形態的に中間的なグループが検出できないことは不思議です。ヨレモクやエゾノネジモクと近縁なグループは,いくつかの論文で遺伝的に明瞭な差がないと示されていることが関連しているのでしょうか・・・。今後,より詳細に分類学的な再検討を実施していく必要があります。
海藻の採集に日頃からご理解をいただいております上磯漁協はまなす支所の皆様に御礼を申し上げます。
詳細はPhycological Researchに掲載された論文をご覧ください。こちらからアクセスできます。
2. mtDNAのnad3-16s領域に基づくマコンブの系統地理解析(Chizaki et al. 2025)
日本の食文化と非常に馴染みの深いコンブは,マコンブSaccharina japonicaという種類で,マコンブにはオニコンブSaccharina japonica var. diabolica(流通名:羅臼コンブ),リシリコンブSaccharina japonica var. ochotensis(流通名:利尻コンブ),ホソメコンブSaccharina japonica var. religiosa(流通名:細目コンブ)という変種が含まれています。産業的に極めて重要なマコンブですが,集団遺伝構造はよくわかっていませんでした(研究例によって大きく異なる傾向が出ていました)。今回は,近縁種のカジメの仲間の集団遺伝解析にも使用されたミトコンドリアのnad3-16sという約2,000塩基の複数の遺伝子を含む領域を使用して,マコンブとその変種の集団遺伝構造をみてみました。すると,カジメの場合と同様に,マコンブとその近縁種でも多数の遺伝子型を検出することができました(483個体使用し88個の遺伝子型を検出)。これらは,大きな視点で見ると1集団でしたが,細かくは地域的に特異的な分布を示すものが多く検出されました。このような傾向は他のコンブの仲間と同様で,浮きを持たないコンブの仲間は子孫を遠くに飛ばせないため地域的な遺伝集団が形成されるのだろうと考えられています。最後に論文とは関係ないですが,マコンブは函館市の特産品で函館真昆布として商標登録がなされています。論文中に入れた変種の分布図は川嶋 (2004)のもので,Yotsukura et al. (2016)とは関係ありませんでした。反省しております。
詳細はJournal of Applied Phycologyに掲載された論文をご覧ください。こちらからアクセスできます。
1. 函館沿岸(志海苔海岸)でのツルアラメの漂着個体の発見(如澤ら 2024)
ツルアラメEcklonia cava ssp. stolonifera var. stoloniferaは,カジメEcklonia cavaという海藻の亜種で(別種と認めるほどの違いがない),日本海に固有の温帯性のコンブの仲間です。九州北岸,本州日本海側や韓国に生育し,北海道では不思議なことに松前小島にのみ分布します。函館の対岸の青森県では普通に見られる海藻です。今回,志海苔海岸に採集に行ったところ,偶然にも,ホンダワラ類に絡まって浜辺に打ち上がっていたツルアラメを確認しました。これまでに北海道の海岸に漂着した記録はなかったため,錯葉標本を作成し,北海道大学総合博物館の藻類標本庫(SAP)に所蔵していただきました(標本番号:SAP115701)。
詳細は藻類に掲載された報文をご覧ください。こちらからアクセスできます。