2025. 11. 5
前節で古英語が語彙を拡充する際には、本来語の意味を拡張させる例があることを見た。次の方策として本来語の要素を用いた複合を見る予定であるが、本節ではその前に古英語にみられたなぞり(calque)、即ち「外国語の語結合を直訳した形で借入すること」(寺澤 2002: 80) について紹介している。Jespersen 曰く、なぞりは前節の意味拡張と次節の複合のどちらにも分類しがたい方策である。
例えば、ギリシア語の euaggélion は god-spell "good message" として、ラテン語の pagus "a country district" は hæþ "heath" として英語になぞられた経緯がある。またおもしろい例として、ラテン系の trinity に対して英語では þrynnes や þrines "three-ness" という語が古英語に存在したらしい。
なお、寺澤(同前)はなぞりの下位区分として以下のようなものを設定しているようだ。
(ア) 語彙的なぞり e.g. living space < Lebensarum
(イ) 意味的なぞり e.g. render 'to make' < F rendre
(ウ) 統語的なぞり e.g. the my friend < イタリア語法
(エ) 慣用語法的なぞり e.g. give furiously to think < F donner furieusement à penser
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].
寺澤芳雄(編)『英語学要語辞典』東京: 研究社、2002年。