2025. 11. 3.
前節に引き続き、本節でも古英語の造語法を見ている。Jespersen の節冒頭の発言から見ていこう。
Existing native words were largely turned to account to express Christian ideas, the sense only being more or less modified.
既存の本来語の大部分がキリスト教の概念を表現するために活用された。その語の意味が多かれ少なかれ変更されたのである。
Jespersen は多くの例を挙げているが、God が最もわかりやすい例だろう。God はゲルマン語由来であるからキリスト教化以前から英語に存在していた。従って異教時代の神を表していたところから、キリスト教の神を表すのに意味が変化した事例ということになる。
ところでこの God の語源を OED で調べてみると、なんとゲルマン語より前の語源が不詳とわかる。ただし OED が挙げている語源説が2つあるので、ここでも紹介しておこう。
印欧祖語で yet「注ぐ」に対応する語根に過去分詞接尾辞 -ed が付いたとする説。ここでは供物や酒を注ぐ行為、即ち献酒・献供に関連して用いられたと考えられる。 サンスクリット語の huta「犠牲として注がれた、供えられた」や古代ギリシア語の χυτός「流された、液体の」は同様の形態を持つか或いは同語源である可能性があるという。
印欧祖語で「呼び求める」ことを表す語根に過去分詞接尾辞 -ed が付いたとする説。サンスクリット語 hū-「神を呼ぶ」、 古アイルランド語 guth「声」、古代教会スラヴ語 zŭvati「呼ぶ、招く、名づける」にも反映されている。こちらの解釈はしばしば支持されてきたが、音韻対応の点で問題があるのだという。
語源から見れば、God はお酒を注ぐ、或いは呼び求める存在ということになろうか。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].
Oxford English Dictionary Online, Available online at https://www.oed.com/(Accessed Nov. 3rd, 2025)