2025. 10. 20
借用は言語変化を探るうえでも(英語史)、一般に言う歴史を探るうえでも(英国史)マイルストーンとなる。特に後者について、Jesprsen は次のように語る。
When in two languages we find no trace of the exchange of loan-words one way or the other we are safe to infer that the two nations have had nothing to do with each other. But if they have been in contact, the number of the loan-words and still more the quality of the loan-words, if rightly interpreted, will inform us of their reciprocal relations, [...]
2つの言語のあいだにいずれの方向にも語彙借用の痕跡が見られない場合、その2つの民族は互いに交渉を持たなかったと推定して差し支えない。しかし、もし両者が何らかの接触をもっていたならば、借用語の数さらにはその質が、正しく解釈されるかぎりにおいて、両民族の相互関係のあり方を教えてくれるであろう。
例えば北ヨーロッパ言語に見られる借用語 piano, soprano, opera, libretto, tempo, adagio を見れば、イタリアの音楽がヨーロッパ全体で大きな役割を果たしていたことわかる。なおこれは当然だが、借用語は新しい文化・技術・概念などを受容すると同時に取り入れられることが多い。ただしそうした場合にも、ことばの方は自分たちの言語で、いわば自前に用意するということもまたありうるわけである。日本でも、例えば liberty を翻訳して取り入れようとした際には、様々な訳語が考え出された末「自由」となった(cf. 【講演録】近代日本の翻訳文化と福澤諭吉──『学問のすゝめ』150年を記念して|その他|三田評論ONLINE)。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].