2025. 10. 10
前節で英語がゲルマン語派に属し、さらにさかのぼると印欧祖語にまで至るという話が出てきた。Jespersen がアーリア語と呼ぶ、印欧祖語は以下のように特徴づけられている。
Its [=The Arian] grammar was highly inflexional, the relations between the ideas being expressed by means of endings more intimately fused with the chief element of the word than is the case in such agglutinative languages as Hungarian (Magyar).
アーリア語の文法は高度に屈折的であり、概念同士の関係は語尾によって表された。これらの語尾は語の主要要素と密接に融合しており、その結びつきはハンガリー語(マジャール語)のような膠着言語に見られる場合よりもはるかに緊密であった。
言語類型論は系統でなく形態や統語の面から言語を分類する試みであるが、世界の言語を以下の4つに区分している。①と②の区分は Friedrich von Schlegel により提唱され、③はその弟 August von Schlegel によって、④は A. F. Pott により加えられた(寺澤 2002: 689)。印欧祖語は①屈折言語に属するものと考えてよい。
①屈折言語(inflectional language)…形態論的な過程として屈折を行う言語
②膠着言語(agglutinative/agglutinating language)…語形成において接辞の付加を主要原理とする言語(e.g. トルコ語や日本語)
③孤立言語(isolating language)…文の諸要素の関係が屈折や接辞によらず、主に語順によって表される言語(e.g. 中国語)
④抱合言語(incorporating language)…命題全体を分節的な語句の集まりとしてでなく、1語の形で言い表すような言語(e.g. オナイダ語: kítsyaks(私は魚を食べる))
(ibid.: 22, 327, 339, 360)
印欧祖語の屈折に関して、 数(単数、双数、複数)は名詞の格語尾や動詞の人称・法・時制語尾と切り離すことができないから、特定の要素を以てそれが「単数」を表すとか「直接法」を表すとか言った指摘は不可能である。ところで、双数は2つのものが一対となった数を表すが、OE の人称代名詞 wit (= we two) や git (=you two)、さらにはbrēost (両の乳房) や duru (両開き戸) などに名残が見られる(ibid.: 209)。また印相祖語の格は8種類、文法性も存在し、語幹に応じて屈折語尾の種類も異なり、恣意的な規則によりアクセントも移動したという。また、Osthoff が提唱した補充法(suppletivwesen)も多く見られた。補充法は、現代英語にも good-better や go-went などにその例が見られる。
なお本節の最後あたりに Schleicher という人物が出てきたが、彼は言語系統樹の発想を出したその人である。彼が再建した印欧祖語で書いた寓話について、興味のある方にはご覧いただきたい(cf. #5149. 再建された印欧祖語で作文された羊と馬の小咄)。研究者のまじめなお遊びとはこのことである。
参考文献
Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Oxford: OUP, 1997[1905].
堀田隆一「#5149. 再建された印欧祖語で作文された羊と馬の小咄」『hellog~英語史ブログ』2023年6月2日。(2025年10月10日閲覧)
寺澤芳雄(編)『英語学要語辞典』東京: 研究社、2002年。