公開講演会


日本海のイカ類と繁殖生態」 

広橋教貴(島根大学・生命科学・水圏多様性生物学コース・教授

日時:6月16日 13:30〜15:00

場所:鳥取県立博物館


写真:隠岐・西ノ島のケンサキイカ 

要旨

日本海では四季折々にイカがみられる。

    2月槍イカ、3月蛍イカ、4〜5月甲イカ、6月スルメイカ、7月〜8月剣先イカ、9〜10月ブドウイカ、10月〜12月ソデイカとイカづくしである。また、春〜秋にアオリイカ、そして冬〜春にダイオウイカが現れる。鮮魚店に良くみられる頃がおおよその繁殖期であるが、この中でダイオウイカだけは繁殖とは無関係で、また鮮魚店にも並ばない。季節的出現の理由は、接岸して産卵するため、日本海を縦断するため、そして謎の死である。

 イカ・タコの寿命は大抵1年で、寿命の尽きる最後に繁殖を行う。繁殖行動は種により様々だが、共通して「交接」を行う。交接とは雄が雌へ精包を受け渡す行動で、雌は受け取った精包をしばらく保存し、産卵に合わせてその精子を使って受精させる。これらはイカ研究者でもなかなかお目にかかれない。

 繁殖様式というと、体内受精とか胎生とかコロニー繁殖など、意味するところが多くて分かりづらいが、ここでは単婚・乱婚を指す。頭足類、ひいては多くの動物では乱婚が主流である。乱婚promiscuityは、さらに雄乱婚 polygenyと雌乱婚 polyandryに分かれ、このうち雌乱婚に纏わる諸現象が半世紀にわたって、進化生物学の主要なテーマとなってきた。

 自分の子孫をより多く残す工夫や戦略は、種子とてイカとて同じである。イカは雄同士の駆け引き、騙し合い、雌への求愛など人間さながらの様相で子を作る。ヒトより巧みな点は、ヤリイカなどの「雄2型とそれに応じた精子2型」であろう。小さな雄が立派な精子を作るのだ。雌を巡る競争ゆえの進化と言えるが、ホタルイカは何故か雌が単婚である。なかなかの身持ちの堅さであるが、近縁で同じ深海性のホタルイカモドキは乱婚であるため、謎が深まる。ソデイカは仲睦まじく「つがい」でよく泳いでいるが、実は雌は乱婚である。見た目に騙されてはいけない。

 ダイオウイカは真冬に良く海岸に打ち上がる。対馬海峡を越えて日本海に入り込んだに違いないが、死ぬまでは日本海の何処にいたのだろう?通常、水深600m、水温6度付近を好むが日本海にはそんな場所は無い。本講演では死因も含めて考察したい。