日本流通学会 第35回全国大会統一論題趣意書
「ポスト・パンデミックの流通と消費」
2021年4月 プログラム委員会
日本流通学会第 35 回全国大会は、2021 年 10 月 22 日(金)~24(日)の 3 日間、愛知工業大学 自由ヶ丘キャンパスで「ポスト・パンデミックの流通と消費」を統一論題に掲げて開催される。
日本では、2020年4月と2021年1月の2回にわたり、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が発出され、国内の流通・消費は大きな影響を受けた。報道では、飲食店の時短営業やコンサートの営業自粛など、負の側面が取りざたされることが多かったが、一方で、予測不能な経営環境の急変による需要の縮小と「新しい生活様式」へのシフトに伴う新規需要の増加が同時にもたらされた。
「非常事態」とは、国家的あるいは国際的に重大な危機・存亡に直面することであり、俯瞰的かつ戦略的判断が要求される状況を指す用語である。解決の切り札として期待されるのがmRNAワクチンであるが、その開発はもとより分配時の低温輸送に至るサプライチェーン構築は、まさに非常事態下での流通研究における重要課題の1つであろう。しかし、経済活動の自粛と活性化という両者のバランスに鑑みたとき、新生活様式への転換を踏まえた新たな経済活動へのシフトは同様に重要なテーマとなる。
ポスト・パンデミックというタイトルに決定した背景には、この危機的状況を克服する過程での価値観の変化や多様化、そして消費行動の変容による流通システムの再構築が、これまでになく急速かつグローバルとなっていることがある。我々の記憶に刻まれているように、過去にもスペイン風邪や第一次石油ショック、SARS、リーマンショックなど様々な有事が発生した。そして、それらの危機を乗り越える過程で、電子顕微鏡の開発や省エネ技術の進展、ECの普及などに繋がった。しかし、今回の中国武漢を震源地とするCOVID-19の猛威は、過去の有事とは比較にならないほど我々の生活に直接的、かつ広範なものであった。例えば食品業界では、輸入玉ねぎやレモンが一時的に品不足になったり、国内では給食の休業により牛乳の過剰在庫が社会問題となったりした。さらに、飲食店の時短営業やリモートワークの進展などを背景とした食生活の変化は、オンラインショッピングサイトや宅配サービスの販売増加、巣ごもり消費の増加など、サプライチェーン全体の抜本的な改革が迫られることとなった。このような状況は、海外の研究動向からも察することができる。少なくとも短期的には飲食業の売り上げ減少、デリバリー需要の増加など、急速なチャネルシフトの動きは世界共通の事象として認識すべきであろう(Richards et al., 2020、Hobbs, 2020、Goddard,2020)。
しかし、COVID-19が仮に終息したとしても、将来的に日本では南海トラフ地震や集中豪雨など様々な災害が予想されている。現時点ではパンデミックの終息もまだ予断を許さないことからも、「非常事態」への事前の備えと危機対応力の構築は今後の流通関係者の存続を左右することになることは間違いない。このようなポスト・パンデミックの社会像を展望し、日本と世界の流通・消費は何を目指し、どう変わるべきかを問うことは極めて重要な課題となっている。以上に鑑み、本統一論題のシンポジウムでは、現状で検討可能な限りでのポスト・パンデミックを見据えたの流通・消費について、(1)グローバル・サプライチェーン再構築の課題、(2)情報通信技術や新たなサービスの活用による新常態への対応、(3)企業や政治のリーダーシップ像などを論点としたい。パネルディスカッションにおいては、流通論という学術分野として、自然災害やパンデミックのような有事に対するマネジメントのあり方を平時のマネジメントと対比させながら両者の関係性を明示し、統合的な理論化を目指す。もちろん一朝一夕にできる作業ではないが、パネリストと会員の皆様とともに以上の方向性を共有しながら議論を深めたい。なお、より具体的な論点は、下記に集約される。
1.COVID-19は、これまでの有事と何が共通し、何が違うのか
2.COVID-19は、どのような流通・消費の新生活様式を生み出すのか
3.流通論・マーケティング論において、有事による急激な外部環境の変化は、理論的にどのように位置付けられるのか
第35回大会では、消費・流通の実務家と研究者を中心に、この急速な時代の変化に臆することなく現状を踏まえた議論を活発に行い、新しい研究分野を切り開く契機となることを期待したい。