研究内容
研究内容
情動認知発達研究部門は主に注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)のような神経発達症の脳画像研究に関する共同研究を積極的に推進しています。連合大学院によるデータベースを基盤として行った大阪大学との国内多施設共同研究や、米国Stanford大学やHarvard大学との国際共同研究で成果を上げています。
Stanford大学との国際共同研究により、無作為化二重盲検プラセボコントロール試験を実施し、ADHD児においてメチルフェニデートが、持続的な注意機能と共に、認知制御に関わる脳神経ネットワークの相互作用動態を改善することが明らかとなりました(Mizuno et al., NeuroImage, 2022)。さらに、機械学習を用いて、我々のデータだけではなく、独立したコホート集団のデータでも、メチルフェニデートがそのネットワークの自発的脳活動のパターンを変化させることを明らかにしました(Mizuno et al., Biol Psychiatry Cogn Neurosci Neuroimaging, 2023)。現在は、さらに米国の大規模研究であるABCD studyにおける多サンプルを確保した上で、教師なし機械学習を用いて、神経ネットワークに基づいてADHDのサブタイプ分類を開発する研究に着手しています。
ADHD児の脳構造の解析において機械学習を導入し、ADHD児には特定の脳部位に特徴があることを高い精度(約80%)で明らかにしました。本成果を基に、米国・中国のデータベースで検証したところ、その精度は73%であり、将来、国際的な診断指標として応用できる可能性が示唆されました(Jung & Mizuno et al., Cerebral Cortex, 2019)。
連合大学院データベースを基盤とした大阪大学との多施設共同研究により、ASDとADHDの併存患者は、定型発達児よりも左中心後回の脳容積が少ないことを明らかにしました。さらに、この変異は児童期と前思春期のみに認められ、思春期では認められませんでした。この結果は、左中心後回の成熟遅延に起因する異常な体性感覚が、ASDとADHD併存患者の中核症状に繋がっている可能性を示唆しました(Mizuno et al., Translational Psychiatry, 2019)。
神経性過食症の日本人女性のためのオンライン・セルフヘルプ認知行動療法プログラムを開発
福井大学医学部医学科精神医学、鹿児島大学病院臨床心理室、Linköping Universityと共同し、過食や嘔吐の問題を抱える日本人女性が、インターネット上で取り組むことのできる、日本文化に適合した認知行動療法プログラムを開発しました。エビデンスの確認された認知行動療法の技法を、オンライン治療でも同様の治療体験ができるように再構築し、研究協力者12名にインタビューをした結果、開発したプログラムが日本文化に非常によく適合していることを明らかにしました(Hamatani et al., Frontiers in Psychiatry, 2022)。
インターネット上で取り組む本プログラムは、1週間に1回15分〜20分程度で実施することができます。利用者は、自身の思考・行動パターンを振り返り、よりストレスの少ない食習慣を確立していきます。本セルフヘルプ認知行動療法プログラムでは、自宅にいながら自分のペースで認知行動療法に取り組むことが可能です。また、通院の負担、時間の負担が少ない利点があります。今後は、本プログラムの実用性と有効性について検証することを通じて、神経性過食症で困っている方々にとって有益な治療選択肢の1つになることを期待しています。