NEAR (Neuropsychological and educational approach to cognitive remediation)
近年,様々な精神疾患において認知機能障害が日常生活やコミュニケーションのなかで大きな障壁となることが明らかになっております。精神症状の減弱のみならず、認知機能の回復が重要視されてきました。
NEARとは認知矯正療法の1つでColumbia大学のAlice Medaliaが開発した認知機能リハビリテーションです。
学習理論と教育原理を背景に,パソコンソフトを用いたPCによるセッションと,生活における認知機能を話し合う言語ミーティングによるセッションから成ります。PCで活動し、トレーニングした内容について、言語セッションを通して実生活にも橋渡しできるようにされています。(例えば、記憶をPCで実際にトレーニングし、その記憶方略を家事や仕事など日常生活場面にいかす方法について話し合います。)
当院では、統合失調症のみならず、感情障害や発達障害の患者様にも本プログラムを活用していただき、リハビリテーションに役立てていただいております。
当院では、「認知戦略の言語化」を重点的に行い、PCセッションで得意な力を伸ばし、苦手な部分もトレーニングしながら課題をクリア出来るようにしていきます。また、発達障害やひきこもりを経験されている方が、ドロップアウトすることを防止できるように配慮を検討し、個別に合わせてトレーニングを行えるようにしてきました。
当院が行ってきたNEARの取り組みについては、以下の論文をご参照ください。
北村直也(2017)統合失調症、発達障害、感情障害に対する認知リハビリテーション(NEAR:Neuropsychological and Educational Approach to cognitive Remediation)の効果に関する検討
https://igakkai.kms-igakkai.com/wp/wp-content/uploads/2017/KMJ-J43(1)29.pdf
<論文>
北村直也(2017)統合失調症、発達障害、感情障害に対する認知リハビリテーション(NEAR:Neuropsychological and Educational Approach to cognitive Remediation)の効果に関する検討 川崎医学会誌 43(1):29-41. doi:10.11482/KMJ-J43(1)29
<学会発表>
村尾卓嶺・川上英輔・竹澤律子・矢部達也・萬関ひとみ・土井原一輝・北村直也・深井光浩(2012)デイケアにおける認知リハビリテーションに関する検討 -認知矯正療法(NEAR)による効果について-.第20回日本精神障害者リハビリテーション学会,128.
村尾卓嶺・川上英輔・久保ひとみ・矢部達也・北村直也・深井光浩(2013)認知矯正療法(NEAR: Neuropsychological Education Approach to Cognitive Remediation)による効果について. 第2回日本精神科医学会学術大会.43.
2013年 デイケア学会
「認知矯正療法(NEAR)の取り組み」 久保ひとみ
2015年 CEPD研究会
「認知矯正療法(NEAR)による障害別の改善度」村尾卓嶺、川上英輔、矢部達也、鴫山東志子、久保ひとみ、北村直也、深井光浩
2016年 CEPD研究会
「認知矯正療法(NEAR)におけるモニタリング課題の有用性の検討」村尾卓嶺、川上英輔、矢部達也、鴫山東志子、久保ひとみ、北村直也、深井光浩
2017年 CEPD研究会
「認知矯正療法(NEAR)による障害別の傾向と介入方法の検討」村尾卓嶺、川上英輔、矢部達也、鴫山東志子、北村直也、深井光浩
「NEARの介入方法を検討することによってBACSおよびWCSTに改善がみられた ASDの2症例」 川上英輔、村尾卓嶺、矢部達也、鴫山東志子、北村直也、深井光浩
2017年 認知機能を考える会
「赤穂仁泉病院における認知機能リハビリテーション“NEAR”の実践について」村尾卓嶺、川上英輔、矢部達也、鴫山東志子
2018年 認知機能を考える会
「NEARにおけるドロップアウト防止の検討」川上英輔、村尾卓嶺、矢部達也、鴫山東志子、井上湧斗、北村直也、深井光浩
2021年 CEPD研究会
「NEAR‐PCセッションにおけるスタッフのフィデリティを高める工夫」川上英輔、鴫山東志子、北村直也、深井光浩
「ひきこもり状態の発達障害患者に対するNEARの実践」矢部達也、川上英輔、村尾卓嶺、鴫山東志子、大田理恵、井上湧斗、北村直也、深井光浩
NEARについて リンク
詳細や研修会の情報については、国立精神・神経センターのホームページ、CEPD研究会もご参照ください。ホームページ、CEPD研究会もご参照ください。
統合失調症早期診断・治療センター(EDICS)
https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sd/edics.html
統合失調症早期診断・治療センター(EDICS):認知リハビリテーション NEAR 実施施設一覧 ご参照ください
SST(社会技能訓練 /対人関係スキル/ コミュニケーショントレーニング )
SST(Social Skills Training)は、職業、教育の分野で以前から研究が発展してきました。精神科リハビリテーションにおいては、R.P.Liberman(1998)による疾病自己管理・服薬自己管理も含めた、生活技能など自己管理技能、身辺自立に関わる日常生活技能が実施されています。
SSTにおいては、対人関係のベースとなる基本スキル、マナーや社会技能、および具体的な場面を想定した社会技能訓練が想定される。身近な家族や職場の対人関係において、やり取りが円滑になり、医療者・支援者とも十分にコミュニケーションを行える力を付けて行くことで、ディストレスの軽減や社会参加の促進が期待できます。
また、広い概念では、実際の場面におけるセルフコントロールやセルフマネジメントを含めた技能を扱います。
さらに、グリンら(2002)は実際の地域生活(in vivo)での効果を検討しており、実地訓練においてスキルトレーニングを増幅させることを示しました。単に対象者が施設内だけのセッションに参加する場合よりも有効な方法として、様々な場においてセッションを行うことが実生活に般化しやすいと言われています。
近年では、エクスポージャーやストレスマネジメントも掛け合わせたSSTがリハビリテーションにおいて重要と考えられるようになってきています。
文献:
熊谷直樹, 天笠崇, 岩田和彦.(2000) 「改訂版 わかりやすい SST ステップガイド: 統合失調症をもつ人の援助に生かす.」.星和書店
Bellack, A. S., Mueser, K. T., Gingerich, S., & Agresta, J. (2013). Social skills training for schizophrenia: A step-by-step guide. Guilford Publications.
<ソーシャルスキルズとは?( Social Skills )>
対人場面において、人や環境から正の強化(メリット)を受けるチャンスを高め、負の強化(デメリット)を被る機会を最小限にとどめるような、適切な対人行動をできるようにするための技術です。 (≑ 社会的スキル、社会適応スキルとも呼ばれます)
ソーシャルスキルは、得意不得意、できる人できない人がいると表現されますが、学習できるものであり、また、再学習しブラッシュアップして行くことが可能です。この特徴を生かして、望ましい行動を増やして行く事がSSTと考えられます。
精神疾患により、コミュニケーションが上手く行かないということだけではなく、二次的に不利益を被ることが多いと考えられます。(例えば、日常生活では、自分のスケジュールに合うようにお店や病院の診察予約がとれない。必要な手続きをするために、何度も何度もやり直さなければいけない。など)
障害によっては、ソーシャルスキルが未学習であったり、不十分、不適切、失われたりしているため、SSTの訓練の量を多くしていく必要があります。
対人関係スキル
→ 実際にコミュニケーションとして具体的に使用するスキル
挨拶する、頼み事をする、相手の言うことに耳を傾ける、不快な気持ちを伝える
・高次な対人関係
→ 場の雰囲気にそって 自分がどのような立場で、誰にどのように関わって行くのか
生活スキル
→ 切符を買う、料理する など生活上で必要なサバイバルスキル
その他の技能 セルフコントロール、セルフマネジメント
<セルフモニタリング型のSST>
社会適応スキル を獲得していく上で自分の行動や結果を自分で観察し記録 すself-monitoringや課題の出来について自己評価するself-evaluationの有効性
当院では、ビデオを利用したフィードバックが行動と自己評価に与える効果を検討しながら、セルフモニタリング型のSSTを実践しています。
<学会発表>
鴫山東志子・竹澤律子・矢部達也・川上英輔・北村直也(2013)広汎性発達障害者に対するセルフモニタリング型SSTの検討(1) –ビデオフィードバックが行動と自己評価に与える効果-.日本行動療法学会第39回大会.B-P-010.
竹澤律子・鴫山東志子・矢部達也・川上英輔・北村直也(2013)広汎性発達障害者に対するセルフモニタリング型SSTの検討(2) –ビデオフィードバックが行動と自己評価に与える効果-.日本行動療法学会第39回大会. B-P-011.
川上英輔・竹澤律子・鴫山東志子・矢部達也・深井光浩・北村直也(2014)
成人発達障害者に対するセルフモニタリング型SSTの検討,第2回成人発達障害支援研究会.P-11.
家族心理教育
当院では、統合失調症をもつ患者様のご家族に対する支援として、標準版家族心理教育を行ってまいりました。本プログラムは、統合失調症患者を持つ家族の感情表出(Expressed Emotion: EE)を低下させることによって患者の再入院を減させることが証明されているエビデンスに基づくプログラムです。
家族心理教育の実施により、家族のEEを低下させることで患者の病状や予後を改善させるという目的だけでなく,家族自身問題や困難を抱えなからも,自分らしい生活や人生を取り戻せるよう支援することが重要視されています(福井,2011)「気持ちが楽になり,自分が持っている力に気づけるようになる」 「いくらかであっても希望が持てるようになり,問題を抱えていても“何とかやっていけそう”と思えるようになる」「自分がどうしたいかを具体的に考えられるようになり,自分に必要なことを自分で選び取れる力がつく」など,家族の健康な力を引き出して高めるエンパワメントが目的となっています。
当院では実践現場で標準版家族心理教育(国府台モデル)を学び、患者様やご家族に合わせた配慮を行いながら実施してまいりました。その実施効果や課題についてはFAS(Family Attitude Scale)で評価した結果をまとめた以下の論文をご参照下さい。
<論文>
北村直也, 鴫山東志子, 村尾卓嶺, 海老原慶, 土井原一輝, 矢部達也, 児玉健次, 南條千鶴子, 三枝敬幸, 持田顕, 久保尚美, 井上湧斗, 川上英輔, 深井光浩(2021)標準版家族心理教育による入院率減少効果—FAS (Family Attitude Scale)からの考察— 川崎医学会誌, 47, 49-59.
https://igakkai.kms-igakkai.com/wp/wp-content/uploads/2021/KMJ-J202147049.pdf
<学会発表>
村尾卓嶺・児玉健次・北村直也・森藤郁世・土井原一輝・鴫山東志子・川上英輔・深井光浩(2011)家族心理教育についての検討~より効果的なプログラムを目指して~. 第19回日本精神障害者リハビリテーション学会,90.
海老原慶・児玉健次・村尾卓嶺・南條千鶴子・土井原一輝・鴫山東志子・川上英輔・北村直也・深井光浩(2012)標準版ツールキットを使用した家族心理教育についての検討 -当院第二クールの結果と考察-,第20回日本精神障害者リハビリテーション学会,135.
土井原一輝・南條千鶴子・海老原慶・矢部達也・村尾卓嶺・児玉健次・鴫山東志子・川上英輔・北村直也・深井光浩(2013)標準版ツールキットを使用した家族心理教育についての検討 当院第3クールの結果と考察.第2回日本精神科医学会学術大会.60.
カウンセリング
カウンセリングの概念は幅広く、面接を行うカウンセラーの資格も多数存在しています。当院では、公認心理師、および臨床心理士の資格を有しているカウンセラーが支援を行っております。
特に、当院のカウンセリングでは、対象者の日常生活における困難を解消し生活の質の向上を目指し、日常生活において制限されていた行動、あるいは望ましい 行動の増加を目標とすること重視した支援を行っております。
現場の実践家として、様々な確立された研究のエビデンスを活用しつつ、個別の特性や、複合的な症状、多様な環境を示す対象者に対して、 多様な方法を組み立てるように「エビデンスに基づく心理学的実践(evidence-based practice in psychology; EBPP)」による努めております。
*EBPPとは、①その時点における最良の研究結果と、②対象者の特性や嗜好、文化といった実践の文脈と、③実践家の臨床的力量(ポジティブな治療成果を生み出すための臨床的能力)を統合して適用する。
<学会発表>
川上英輔(2009)統合失調症を持つ人に対する幻聴・妄想のコントロールに関する症例検討 –幻聴・感情の記録を利用したフィードバックの効果-.日本行動療法学会35回大会,244-245.
川上英輔・北村直也(2010)PDD・ADDをもつ成人における自尊感情回復に関する症例検討.日本行動療法学会36回大会,214-215.
北村直也・川上英輔(2014)成人発達障害患者の障害告知に対する意識調査.第110回日本精神神経学会学術総会. 1-P01-17.
川上英輔・鴫山東志子・北村直也(2019)精神科外来における生活記録表を用いたセルフモニタリングの効果(1)―不安・抑うつ症状を呈する軽度知的障がい者の事例検討 ―. 日本行動分析学会
井上湧斗・川上英輔・深井光浩(2019)精神科外来における生活記録表を用いたセルフモニタリングの効果(2) ― 10年ひきこもっていた抑うつ患者に対する事例検討 ―. 日本行動分析学会
井上湧斗・川上英輔・深井光浩(2020)広場恐怖を呈する 20代男性の電車乗車行動へのエクスポージャーの効果 ―Googleフォーム・SNSを用いた行動測定の検討― 日本認知・行動療法学会
川上英輔・竹澤律子・北村直也 (2021)成人ASD女性の心因性頻尿に対するセルフモニタリングおよび行動契約による介入 日本行動分析学会
竹澤律子・川上英輔・深井光浩(2021)思考にとらわれやすいASD患者における余暇活動支援 ― 生活記録表によるセルフモニタリングを指標とした事例検討(3) ― 日本認知・行動療法学会
川上英輔・深井光浩(2023)精神科外来における生活記録表を用いたセルフモニタリングの効果(4)― 被害念慮を主訴としたASD者に対する行動活性化 ― 日本行動分析学会
鴫山東志子・川上英輔・竹澤律子・久保尚美・伊豆栄美・北村直也 (2023) 精神科デイケアに通所していたASD女性への行動契約による就労支援. 日本行動分析学会
竹澤律子・川上英輔・深井光浩・北村直也 (2023) 統合失調症患者への行動契約を用いた就労準備支援.日本行動分析学会