第27回大会は無事終了いたしました。今年も全国から小中高生ポスター発表にお越しくださり、ありがとうございました。
大会で発表された参加者の方々には参加証明書と、講評を集計した評価シートをお送りしました。
第28回大会は沖縄で開催される予定です。また来年度もみなさんにお会いできることを楽しみにしております。
吉住 実咲(玉川学園サンゴ研究部)
キーワード:サンゴ研究部、サンゴ礁保全、サンゴ移植、サンゴ養殖、人口産卵
要旨:
私達,玉川学園サンゴ研究部は2021 年から水産庁の「水産多面的機能発揮対策事業」を活用したサンゴ礁保全を実施している伊江島海の会(伊江漁業協同組合),国際航業株式会社,西松建設株式会社と連携して「伊江島サンゴ養殖プロジェクト」を進めている.
「伊江島サンゴ養殖プロジェクト」は,伊江島の海からサンゴを採取,運搬して東京都の玉川学園の水槽で養殖し,十分育ったサンゴを伊江島の海に移植するというプロジェクトである.
2022 年7 月に私たちサンゴ研究部員が自らの手で50 株のサンゴを伊江島の海に移植したが,2023 年1 月までに移植したサンゴのほぼ全てが消失してしまった.そのため,私達は移植の方法などを見直し,2023年の移植では半年後生存率を約30%まで上げることができた.
また,私達はサンゴの採捕に頼った移植以外にも挑戦できることはないかと考え,移植するサンゴの人口産卵に挑戦している.今年度から始めたため,まだサンゴが安定して成長する環境が整っていないが,学校の水槽でサンゴを孵化,着床,飼育させることを目標に活動していきたい.
私たちの取り組む活動により,生物多様性の基盤となるサンゴについて,少しでも多くの人に知ってもらうきっかけとなることを願っている.
義澤 舞千(玉川学園サンゴ研究部)
キーワード:サンゴ礁保全、サンゴ研究部、伊江島、サンゴ移植、サンゴ養殖
要旨:
私達,玉川学園サンゴ研究部は2021年から水産庁の「水産多面的機能発揮対策事業」を活用したサンゴ礁保全を実施している伊江島海の会(伊江漁業協同組合),国際航業株式会社,西松建設株式会社と連携して「伊江島サンゴ養殖プロジェクト」を進めている.
「伊江島サンゴ養殖プロジェクト」は,伊江島の海からサンゴを採取,運搬して東京都の玉
川学園の水槽で養殖し,十分育ったサンゴを伊江島の海に移植するというプロジェクトであ
る.
2022年7月に私たちサンゴ研究部員が自らの手で50株のサンゴを伊江島の海に移植したが,2023年1月までに移植したサンゴのほぼ全てが消失してしまった.消失した原因として考えられるのは着床具への被覆が不十分だったこと,魚の縄張りに移植してしまったこと等が考えられる.その反省を踏まえ,移植するサンゴの種類の見直し,水槽内での養殖方法の見直し,運搬方法の見直し,移植方法の見直し,移植場所の見直しなどを行った.
私たちの取り組む活動により,生物多様性の基盤となるサンゴについて,少しでも多くの人に知ってもらうきっかけとなることを願っている.
山田蓮花(世田谷区立明生小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
内山遼平(北大・院理、喜界島サンゴ礁科学研究所)
Zongxuan Shao(東大・生産技術研究所)
Ahmad Aki Muhaimin (東大・生産技術研究所)
酒井雄也(東大・生産技術研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:サンゴの養殖、藻類、次世代コンクリート、温暖化抑制、水質汚濁防止
要旨:
(はじめに)石垣島でサンゴ塾のフィールドワークに参加後サンゴの養殖体験をした.養殖用の特別なコンクリートに,小さいサンゴを針金で固定して海の中で育てることが分かった.実際に作業をしてみてサンゴの養殖専用のコンクリートがあることを知り,サンゴの育ち方に違いが生まれるのか気になった.本研究ではコンクリートを3 種類準備し実際にサンゴを育て,コンクリートによってサンゴの育ち方にはどの様な差が出るのか調査を行った.
(方法)2024年7月17日に東京大学生産技術研究所実験室にて酒井雄也先生のご指導の元,がれきコンクリートの成形作業を行った.(1)がれきコンクリート×2,(2)第二リン酸カルシウム添加 がれきコンクリート×2を成形した.がれきコンクリート粉末と水を混ぜたものを,離型剤を塗った金属型に入れ,上下からコンプレッサーで圧力をかけて圧縮した.圧縮後に特殊なアーチ型の部品を乗せて型から押し出し,(1)のサンプルを取り出した.同様にがれきコンクリート粉末,第二リン酸カルシウムを最初に混ぜ,その後に水を混ぜたものを型に入れ圧縮して(2)のサンプルを作成した.乾燥機で24時間乾燥後,アルカリ度を下げるため,また強度を高めるために二酸化炭素を吹きつけて炭酸化させた.がれきコンクリートとの比較用として(3)モルタルのコンクリートを製品の袋に記載された手順通りに作成した.成形後,24時間自然乾燥させた.成形したコンクリートの高さ(長手方向)と重量を計測した.(1)〜(3)のサンプルをビーカーに入れた水槽の海水100mlに4日間浸漬し,海水のpHの変化を測定した.比較用にサンプルを入れる前の海水も測定した.成形した3 タイプのコンクリートに2 種類のサンゴを3分割に枝打ちし,それぞれを針金でサンプル基板にくくりつけ,水槽に入れて生育状況を観察した.2024年8月5日〜)サンゴは鹿児島県の特別採捕許可を得て喜界島早町港から採取したコノハシコロサンゴとエダコモンサンゴを使用した.
(結果)(2)のコンクリートは強度が増し,表面が平滑になってツヤが見られた.水槽から採取した海水のpHは7.76であった.4日間のコンクリート浸漬後,(1)と(2)のコンクリートはそれぞれ,7.70,7.48,対して(3)のコンクリートは,9.52, 10.26にpHが変化した.47日間の水槽での飼育を行い,(1), (2), (3)のコンクリートでそれぞれ重量(g) が,エダコモンサンゴで1.68, -0.17, -0.44,コノハシコロサンゴで−0.01, 0.37,013変化した.
(考察)実験の結果,(1)と(2)コンクリートは,藻類とサンゴどちらも育ったためサンゴの養殖に使用できると考えた.コノハシコロサンゴは重量が47日間で平均6.4%増加した.また,コンクリート基盤には藻類が繁茂してきた.そのため,サンゴの養殖に,(1)と(2)のコンクリートと針金が使えることが分かった.しかも,海水に浸水させた時のpH が(1)と(2)コンクリートはあまり変化がなく通常使用される普通のコンクリートよりも環境を汚染させずにサンゴの養殖に使える素材であるという結果が得られた.また,(3)のコンクリートもアルカリ性が高かったがエダコモンサンゴは成長した.数点のサンプルに成長後の重量の減少が見られた要因は定かでは無いが,一緒に飼育している魚がかじってしまった等で重量の減少が生じたのかもしれない.(2)コンクリートのリン酸カルシウムの成分量を変えると藻の生える量が変わるかもしれない.また,このコンクリートを使うと,藻を色々なところに広められるかもしれない.
(結論,展望)今回の実験の結果からサンゴの養殖にはがれきコンクリート,第二リン酸カルシウムを入れたコンクリートと針金が使えることがわかった.飼育実験は途上のため,もっとサンゴが大きくなるまで経過観察したい.比較のためにサンプル数を増やしたり飼育環境も改善した方が良いと思う.今回は海水温上昇のため白化が激しく水槽での実験となったが,いずれ大きく育ったものを実際の海に戻してみたい.また,藻ががれきコンクリートに直接繁殖したことから,例えば極地などの生物が成育し辛い環境ではどうなるか,コンクリートの成分の比率を変えた場合も知りたい.
角田拓(鹿児島県立喜界高等学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:ソフトコーラル、ハードコーラル
要旨:
(はじめに)サンゴは大まかに二つに分けるとハードコーラルとソフトコーラルに分けることができる.本研究ではソフトコーラルとハードコーラルのどちらが強いのか,ソフトコーラルの攻撃方法は覆い被さる事だけなのか,そしてどちらの方が生き残るかといった,ハードコーラルとソフトコーラルの競争を調査することとした.
(方法)本研究では,2024年8月20日から26日にかけて,喜界島の白水海岸(図1)において,2種類の調査を行った.初めにライントランゼクトを用いて,25m の範囲を観察し,底質の組成を調べた.次に,ハードコーラルとソフトコーラルが競争をしているポイント毎にその勝敗を記録した.両者の戦い方と勝敗の決め方として,図2のように①の茶色いサンゴが白いサンゴに侵食して相手から場所を奪っているので茶色いサンゴの勝ちとした.②は太陽光を遮られないように,触手で相手を攻撃して塞いでいるので,緑のサンゴが勝ちとなり逆に太陽光を遮ると茶色いサンゴの勝ちとした.トランゼクト内のソフトコーラルは,ウミキノコ,ウネタケ属が見られた.
(結果)ライントランゼクトで調べた範囲では,ハードコーラルの割合は30%,ソフトコーラルが15%でハードコーラルの割合がソフトコーラルと比較すると多かった.もう1つの調査では双方の戦いを13個観察した.ハマサンゴは,ソフトコーラルに7戦7勝していた.またソフトコーラルは,ウミキノコが強くハマサンゴ以外のハードコーラルより強いことが分かった.
(考察)ハマサンゴはウミキノコが勝ったキクメイシと比べると白化しやすいが強いと推測した.その結果ハードコーラルがソフトコーラルに勝っていた数が7 回ソフトコーラルがハードコーラルに勝った回数が6 回あり,ハードコーラルの方が強いと推定した.ハードコーラルの中でも数が多かったハマサンゴは,サンゴの競争で強いが他のサンゴに比べて大きいので海面ギリギリまで成長するので白化が進みやすい.ハマサンゴは,他のサンゴより成長速度が遅いがその分強固に作られていると考えた.また,他のサンゴに勝てるが白化しやすいので他のハードより強いウミキノコが生き残ると考えられる.そして,ソフトコーラルの攻撃方法は覆い被さる事だけだと予想した.もし今より地球環境が悪化した場合,ソフトコーラルが残りやすいと推測した.
宮崎圭乃子(鹿児島県立喜界高等学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
椎根 凛空(Grinnel College、喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:アオサンゴ、サンゴの成長、年輪
要旨:
(はじめに)鹿児島県大島郡喜界島には多くのサンゴが生息している.アオサンゴの分布はインド洋のサンゴ礁地域で琉球列島最北端のアオサンゴ群生は喜界島にある.そこで喜界島の海を泳ぎ実際にアオサンゴを見てみるとほかのサンゴを覆うように成長していた.また枝分かれしている部分をみて,ほかのサンゴに比べ成長が早いのではないか,枝の部分は折れやすいと思うがどう強度をたもっているのか疑問に思った.アオサンゴには年輪があると分かっているので,喜界島のアオサンゴを採取し年輪の長さを調査した.
(方法)2024年6月8日にアオサンゴの生息する喜界島小野津ビーチでアオサンゴを鹿児島県の特別採捕許可のもとに採取した.採取したアオサンゴ骨格を岩石カッターで成長が見られるよう5つに切断し,喜界島サンゴ礁科学研究所のCT装置(RF社Naomi‐CT L)を用いて,切断したアオサンゴのCT 撮影をし(図1),年輪と枝分かれ部分の密度を確認した.年輪の幅を画像処理ソフトウェアImageJ Abramoff et al., 2004 )を用いて測定した.成長方向ごとに年輪を計測し平均を算出した.
(結果)先ず年輪の長さについては群体の内側で成長している部分は成長が早く1 年の平均成長速度は9.8mm,外側で成長している部分は成長が遅く1 年の平均の成長速度は7.39mmであることが分かった.また枝分かれしている部分の密度を見ると高密度になった後に枝分かれしていることが分かった.枝の先の密度を見ると低密度で採取したのは夏なので冬に高密度になり枝分かれしていると分かった.
(考察)今回採取したアオサンゴの全体の1 年の平均成長速度 ± 1σは8.30(±1.92)mmであると分かった結果より,同じ小野津で2024 年5 月18 日に採取したハマサンゴの化石の1年の平均成長速度5.27(±3.38)mmと比較すると成長が早く,ほかのサンゴと競争しているとき優勢になり安定して成長していくのではないかと予想できる.枝分かれをしている部分の根元が高密度になっているのは,アオサンゴは成長が速いため密度が小さく折れやすくなってしまうため根元を強化しているのではないかと考えられる.また枝分かれした後,円を描くように1 本1 本が平行に成長していたため,群体全体が丸くなり折れにくくしているのではないかと考えた.
(結論)今回の実験から,アオサンゴは他のサンゴより安定して成長していること,今後大きな群体になることが考えられると分かった.しかしアオサンゴはレッドリストにも登録されているためしっかり守っていくべきである.今回の研究では喜界島のアオサンゴの成長速度しか調べることができなかったので次回は他の地域のアオサンゴとの比較をしたい.また成長速度に関することだけでなく,アオサンゴの骨格の色の変化の原因を知るために成分の分析を行っていきたい.
𠮷川來駈(鹿児島県立喜界高等学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
Samuel Kahng(琉球大・熱帯生物圏研究センター)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
内山遼平(北大・院理、喜界島サンゴ礁科学研究所)
田中健太郎(東京都市大・理工)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:魚の隠れ方、魚とサンゴ
要旨:
(はじめに)鹿児島県大島郡喜界島には多くの種類のサンゴが生息している(深見他 2022)。サンゴ礁に生息するスズメダイ科の魚の一部は、特定の形状のサンゴを隠れ家として利用するということが沖縄での調査で分かっている。喜界島のサンゴ礁に生息する魚(の種類)と、隠れ家として使われるサンゴの形状との関係について疑問に思い、調査を行った。この研究の目的は、サンゴの種類・形状・場所や隙間の深さと隠れる魚の種数の関係を明らかにすることである。
(方法)2024 年8 月23 日に島の東部に位置する白水のタイドプールで調査を行った。スノーケリングで観察をおこない、サンゴに群れる魚を見つけたら近寄り、その魚が隠れた場合、隠れた魚の種類・隠れた場所を現場で記録した。また、魚が隠れたサンゴの種類・形状・魚が隠れた隙間の深さを記録した。
(結果)サンゴの種類ごとの魚の種数の関係では、隠れた魚種が1 番多かったのはコユビミドリイシとウミキノコ属だった。隠れる場所と魚の種類の関係では、枝の間や板の隙間に隠れる魚種が多かった。魚が隠れた隙間の深さと魚の種類の関係では、狭い隙間には小さめの魚、深い隙間には大きめの魚が隠れていた。
(考察)サンゴの種類ごとの魚の種数の関係では、隠れた魚種が多かったサンゴは形状が複雑なため、サンゴの形状が隠れる魚の種数に関係していると考えた。隠れる場所と魚の種類の関係では、多くの種類の魚が隠れたのは枝や板の隙間であり、魚がサンゴの上を泳いでいる際、真っ先に隠れられる場所である。そのため、多くの種類の魚が隠れるのは、すぐに隠れることができて構造が複雑な場所であると考えた。魚が隠れる隙間の深さと魚の種類の関係では、魚は入れるが、敵となる大きな生き物が入ってこれないようなちょうどいい深さの隙間を選んでいると考えた。隙間は大きければ大きいほどいいというわけではない。また、サンゴの群体の数と魚の種数の関係では、群体の数が多いととそこに隠れる魚種も多くなる傾向が今回の結果には現れたため、今後は全てサンゴの種類ごとの記録する群体の数を等しくすることに考慮すべきである。
(結論)これらの結果から、サンゴの種類・形状・場所や隙間の深さと隠れた魚の種数にはある程度の関係がある。これからは、魚種ごとのサンゴとの組み合わせや、魚の大きさを正確に測り調査したい。
都筑暖和(札幌南高等学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
内山遼平(北大・院理、喜界島サンゴ礁科学研究所)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:サンゴ骨格、炭酸塩生産、浸食作用
要旨:
(はじめに)鹿児島県喜界島の化石サンゴによって形成された段丘は完新世の炭酸塩生産量の推定に適しているがサンゴ骨格の浸食作用からの残存の仕方は一様ではない.本来のサンゴの炭酸塩生産量を推定するために,浸食作用によって削られた骨格量や成長が阻害された分の骨格量を考慮する必要がある.本研究では物理的浸食作用・化学的浸食作用・生物浸食作用の受け方とサンゴの種類の関係,その要因を明らかにすることを目的に実験を行った.
(方法)物理的浸食作用の実験では現生サンゴ骨格(ハマサンゴ属, キクメイシ属)に穴をあけ,その内部に水流と小石による浸食作用を与えて浸食の様子を観察した.化学的浸食作用と生物的浸食作用には鹿児島県喜界島花良治の沿岸を構成するサンゴのなかで属優占度の高いサンゴ4種(ミドリイシ属・ハマサンゴ属・コカメノコキクメイシ属・カメノコキクメイシ属)(岸MS, 2022)を採取し, 実験に用いた. 生物浸食の明らかにサンゴ表面に穴が空いており食痕や生物がかつて住んでいた棲管と判断されたものをカウント, 観察した.化学的浸食作用について調べるために, スラブ状にカットしたサンゴ骨格を塩酸(2.5%)に漬け, 骨格重量の割合変化を調べた.また, 骨格の微細構造を光学顕微鏡を用いて観察し, 水中重量法とX線を用いて骨密度測定も行った.
(結果)物理的浸食作用の実験では骨格そのものに目で見える大きな変化はなかった。化学的浸食作用ではミドリイシが最も浸食されるスピードが速かった. 比重は大きい方から順にハマサンゴ属・ミドリイシ属・コカメノコキクメイシ属・カメノコキクメイシ属であった. キクメイシ属とハマサンゴ属を比較すると, 骨格の観察ではキクメイシ属のほうが全体に骨の厚さが大きく,水中重量法(とX 線のどちらの方法でも)ハマサンゴ属のほうが平均密度が高かった.生物浸食について, ミドリイシ属やカメノコキクメイシ属の骨格では食痕だと考えられるようなものは見られず,一方でハマサンゴ属ではポリプの部分に他の生物の棲管だと考えられるものがいくつか見られた.コカメノコキクメイシ属では多くの棲管のほかフジツボやホヤのようなものも見られた.骨格表面の穴の数と表面積の比には数値自体からは種類ごとの傾向は特に見られなかった.
(考察)ハマサンゴ属とキクメイシ属を比較すると,微細構造が化学的浸食作用の受け方に影響しており, CPP算出にも関わることが考えられる.生物浸食について, 今回の観察では種ごとの生物活動の痕跡に明確な差は少なかったが,カメノコキクメイシ属で多くの棲管が見られたことからカンザシゴカイが生息するのに適したサンゴの生態や構造などがあることが考えられる.物理的浸食作用,化学的浸食,生物的浸食作用のうち,CCP 算出に最も長規模な影響を与える作用は継続的に与えられる物理的侵食作用だと考える.生物的侵食は化学的侵食・物理的侵食の複合的な作用でもあり,少なくともサンゴの岩石としての性質と生物としての性質の両方が関わるため最も種ごとの差が実際はより大きくあらわれると考える.
(展望)今回, 生物浸食の量を推定するには十分なデータが取れなかったが, 今後は, サンゴに空いた穴の数や生物の数が生物浸食の度合いの指標となるのかなどを調べていきたい.
大林想汰(兵庫県立大学附属高等学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
佐々木圭一(金沢学院大・経済情報学)
内山遼平(北大・院理、喜界島サンゴ礁科学研究所)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:礁原、完新世、隆起、ライントランゼクト法, 段丘
要旨:
(はじめに)
鹿児島県大島郡喜界島では隆起することで礁原が海沿いの陸地になっている.完新世に隆起したことでできた島を取り囲む段丘面は4つ見られる(内陸側から順にⅠ~Ⅳ面).また,航空写真を見ると海岸によって礁原の広さが異なることがわかる.そこで礁原の広さの違いにどのような要因が関係しているか疑問に思い,喜界島の海岸3か所で礁原の広さとサンゴの種類,地形面を調査した.この研究の目的は,礁原の広がり方とサンゴ礁,地形面がどのように影響しているかを調べることである.
(方法)
航空写真をもとに広さが違う島の東西にある小野津と志戸桶,花良路のⅢ面(4100~3100年前の1000 年間で形成された)を調査した.Ⅲ面上に海岸線と直行する方向にメジャーを設置しⅢ面の距離を記録した.このメジャーを測線とし,測線で見つけたサンゴの数,大きさ,種類,位置を記録した.また,レーザー距離計を使い,段丘地形に従って,各地点間の距離と高低差を測った.
(結果)
まず地形については,志戸桶,花良路,小野津の順に緩やかだった.礁原の広さについては,Ⅲ面の広さに関して,志戸桶が50m,花良治が43.5m,小野津が8m だった (図1). また,それぞれの場所にあるサンゴの大きさを調べたところ,サンゴ群体の長径平均が志戸桶では35.9cm,花良路では27.9cm,小野津では16.7cmだった.地形が緩やかな順にⅢ面の広さは広く,大きなサンゴが多かった.サンゴの種類についてを花良路で調べたところ,86 の群体のうち,ミドリイシ属67個とキクメイシ科13個で多かった.これらの長径別頻度を比べると似た割合になっていた.
(考察)
長径の大きいサンゴの割合が高い地域は礁原が広かったことから,サンゴの長径と礁原の広さは関係しているのではないか.違う種類のサンゴでも,長径別頻度の割合が似ていたことから,サンゴの種類によってサイズ分布に違いはないのではないか.礁原の広い地域は,礁原の地形と海底地形の傾斜がどちらも緩やかに,狭い地域は急になっていたことから,海底地形の傾斜が礁原の広さと大きく関係しているのではないか.現在の海底地形を見ると志戸桶,花良治の傾斜が緩やかなため,今後もより拡大しやすいと予想される.
(結論)
今回の実験から,礁原の広さに地形面とサンゴの長径の大きさが関係していると考えられることがわかった.サンゴの習性から考えると,浅ければサンゴは横に成長していくと考えられるため,特に地形面が大きく関係していると考えられる.今後はこのことを確かめるために,調査地点を増やしたい.また,地形だけでなく今回考慮できなかった風の影響など,他の要因についても探究していきたい.
谷田聖花(聖心女子学院・喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)
内山遼平(北大・院理、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:サンゴ礁、刺胞動物、緑色蛍光タンパク質
要旨:
(はじめに)サンゴは刺胞動物であり,多くの生物の住処となっている.サンゴは体内で植物性プランクトンの褐虫藻と共生関係を結んでいる.近年問題視されるようになった白化現象は褐虫藻に関連している.サンゴの白化は,体内の褐虫藻が放出することによって発生する.白化とは完全な死滅ではなく,死滅は褐虫藻の放出後に褐虫藻を再獲得できず,蓄えていた栄養が絶無になったときに発生する.白化間もないサンゴが,再び褐虫藻と共生することができればサンゴの死滅を防ぐことができることが先行研究によって示唆されている.また褐虫藻はサンゴ内の緑色蛍光タンパク質に引き寄せられることも知られている.白化時のサンゴは緑色蛍光タンパク質の分泌が正常なサンゴの分泌に比べ少ない.その結果,褐虫藻の放出が起きていると考え,緑色蛍光タンパク質として緑色蛍光色素を補強することで,サンゴが褐虫藻と再共生しやすくなり,サンゴの白化からの回復を促進できると仮説を立てた.その仮説を実証するため,緑色蛍光タンパク質が褐虫藻と宿主の共生関係に与える影響を調べることとした.
(方法)サンプルとしてミドリイシ属のサンゴAcropora sp.,そして飼育がサンゴよりも容易なセイタカイソギンチャクAiptasia sp.とサカサクラゲCassiopea ornataを使用した.それらには刺胞動物であり,褐虫藻の共生宿主であり,緑色蛍光を放つという共通点がある.(1)宿主への褐虫藻の共生を実体顕微鏡を用いて確認した.(2)セイタカイソギンチャクに緑色蛍光色素を設置することによる白化防止実験を行った.(3)白化した状態のセイタカイソギンチャクに緑色蛍光色素を設置することによる回復実験を行った.(4)褐虫藻を共生していないサカサクラゲに緑色蛍光色素を設置することによる褐虫藻の獲得の確認を調べた.(5)蛍光色素の有無の試験区においてサンプルの飼育水槽中の酸素濃度を測定し, 褐虫藻による光合成の作用を検討した.(6)水平伝播によって褐虫藻を獲得するミドリイシにおいて緑色蛍光色素の設置による稚サンゴの褐虫藻の獲得を観察した.
(結果)(1)宿主のなかに褐虫藻が共生していることが確認された.(2)緑色蛍光色素により白化のスピードを遅くし,白化させないことがわかった.(3)白化した状態から緑色蛍光色素の設置により回復させることができた.(4)緑色蛍光色素により褐虫藻と共生しやすくなり,サカサクラゲの生存率を高められた.(5)緑色蛍光色素を設置したものの方が酸素濃度が全体的に高かったため,褐虫藻を活発にさせる作用があるとわかった.(6)緑色蛍光色素を設置することで,稚サンゴの褐虫藻の獲得を促し,生存率を高められた.
(考察)(1)~(6)の実験で分かった,緑色蛍光色素が宿主と褐虫藻の共生関係に対してもっている影響を踏まえると,仮説通りに緑色蛍光色素によって白化を防止し遅らせることができるということが分かった.従って,緑色蛍光色素を使用することで,サンゴの白化問題を解決できるということがいえた.
(展望)今後, サンゴの白化問題解決方法をより実用的に近づけるために, 褐虫藻の温度耐性を調べた上で, 実際に海の中で海のなかで白化しかけているサンゴの周りに緑色蛍光色素を設置することでサンゴの白化を防止,遅らせることができるか, 検証したい.
谷目琉名(北海道科学大学高等学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
橋本昊(板橋区立上板橋第三中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
砂原梨佐(横浜市立すすき野中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
澤田八重(各務原市立蘇原第一小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
嶋田乃彩(江東区立第四大島小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
山村胡桃(白馬村立白馬北小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:サンゴ群体、石灰化量、サンゴ礁形成、古生態学
要旨:
はじめに
サンゴ礁は,サンゴや他の生物が作る骨格が長年にわたり積み重なって形成された地形である.サンゴが作る骨は石や岩として長い間残り,次の世代のサンゴの基盤となる.サンゴが骨を作る能力を測定することで,サンゴ礁の成長速度や将来的な海水面の上昇に対する耐性を評価できるかもしれない.本研究は,大きな塊状のサンゴ(うみぼうず)を含む様々な種類のサンゴ群体が,サンゴ礁を形成する能力を測定することを目的とした.
方法
喜界島ハワイビーチにて,50mのトランゼクトを設置し,サンゴの種類の組成を記録した.トランゼクト上で見つけたソフトコーラル,ハマサンゴ,ミドリイシを,コドラートと一緒に写真を撮り,各群体の面積と高さを測定した.さらに,測定したサンゴ群体の密度(g/cm3)を,ハードコーラルは群体の一部を,ソフトコーラルは軟体部と骨片を分離して,それぞれ水中重量法によって計測した.測定したサンゴの密度と体積を基に,各群体が何kgの炭酸カルシウムを生成しているかを計算した.
結果
トランゼクトの0-30m区間では,エダコモンサンゴが多く,30-50m区間ではスギノキミドリイシが多かった.なので,比較的暖かく,浅い場所にエダコモンサンゴが住んでいると考えられた.一方で,スギノキミドリイシは冷たく深いところにいると考えられた.ウミトサカは浅い場所を好む.全体的には,スギノキミドリイシとエダコモンサンゴが多くいた.密度について,イシサンゴ目の密度はすべて1.5g/㎤以上あった.ソフトコーラルの全体の密度は1g/㎤以上であるが,骨格密度は0.2g/㎤以下であった.
考察
ハワイビーチで見つけたサンゴの炭酸カルシウム生成量(kg)を元に,ハワイビーチにおいて,サンゴ礁を形成する能力を相対的に表す数値を「リーフビルダー指数」として算出すると,スギノキミドリイシは46.7,エダコモンサンゴは44.6,ウミトサカは0.68,オオウミキノコは1.1,ウスコモンサンゴは9.02 となり,スギノキミドリイシがハワイビーチで一番サンゴ礁を作っていることがわかった.
寳田美亜(北海道科学大学高等学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
森下華梨(瀬戸市立幡山中学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
橋本汎(板橋区立常盤台小学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
青木奏弥(江西国際学園、喜界島サンゴ礁科学研究所)
藤原禅定(Hereward House School、区立四谷小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
福田京(新宿区立四谷第六小学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
海老原あかり(松戸市立相模台小学校、喜界島サンゴ礁科学研究所)
Samuel Kahng(琉球大・熱帯生物圏研究センター、喜界島サンゴ礁科学研究所)
水山克(名桜大、喜界島サンゴ礁科学研究所)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所)
キーワード:サンゴ礁,無脊椎動物,形態
要旨:
はじめに
動物の形態には,それぞれの種が生き残るための生存戦略が隠されている.この研究では,サンゴ礁の潮間帯に生息する代表的な動物の形態や生理機能を調べ,各種の生存の成功要因(資源獲得,生存,繁殖)の背後にあるトレードオフ関係を明らかにすることである.
方法
喜界島池治のタイドプールや浅瀬から多様な無脊椎動物を採集し,研究所に持ち帰って観察・解剖を行なった.特に4種類のカニ類を用いて,異なる種間での形態学的な違い(はさみの長さ,太さ,第四脚の長さ,遊泳脚の長さ)を測定した.形態を対等に評価するために,各部分の長さを,体幅で割った数値を用いて考察した.
結果
はさみの長さと分厚さは比例していた.はさみの長さは第四脚の長さと反比例していた.遊泳脚の長さは第四脚の長さと反比例していた.
考察
はさみの長さと太さには,比例の関係性が見られた.はさみが長かったり太いと,硬いものを砕けるという利点がある.第四脚の長さが長いと,速く動けるだろう.遊泳脚が長いと,泳ぐ能力が高いと考えられる.今回調べた4 種類のカニの形態の分布の特徴から,以下のことが考えられる.速く歩けたり泳げたりするカニは,逃げ足を速くすることに特化した一方で,ものをはさむ力が弱いために身を守れなかったり硬いものを砕けない.一方で,ものをはさむ力が強く防御力が高く硬いものも砕けるようなカニは,逃げるのが遅かったり,泳ぐのが苦手なのだと考えた.
展望
今後,体の厚みや毛,色や生息地との比較を追加で行うことで,さらにカニの生存戦略について調べることが期待される.
三田茉莉(北海道科学大学高等学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
山村杏(白馬村立白馬中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
夏目一郎(喜界町立喜界中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
村上 幸優(喜界町立喜界小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
馬庭文美(奄美市立朝日小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
阿部眞秀(石巻市立万石浦小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
臼山侑里(喜界町立喜界小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
露木葵唯(琉球大)
北之坊誠也(鹿児島大)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所
キーワード:サンゴ礁、種多様性、ベントス、マイクロハビタット
要旨:
はじめに
喜界島の海には,多様なサンゴ礁が発達しており,魚やカニなど,さまざまな生物が暮らしています.特に,サンゴ礁を形成する有藻性サンゴは,生態系の基盤として重要な役割を果たしています.本研究では,普段目にする機会が少ないサンゴの体表や海底に棲む小さな無脊椎動物に焦点を当てます.これらの動物は,これまで十分に調査されておらず,喜界島にどのような種類が存在するのかも未解明な部分が多いです.本調査を通じて,喜界島の海に棲む無脊椎動物の種類とそれらの生息環境の違いを明らかにし,その違いの背景を考察します.
方法
喜界島のハワイビーチおよび花良治で,①生きたサンゴ,②死んだサンゴ(サンゴ瓦礫),を採取しました.「洗い出し」という手法を用いてサンゴの間に棲む小さな生物も採取・観察し,各環境から見つけた動物を顕微鏡で観察し,図鑑を用いて種類を同定しました.また,それらの標本を作成し,それぞれの環境における生物の違いを記録しました.
結果
生きたサンゴからは18 種類の無脊椎動物が確認され,死んだサンゴからは19 種類が見つかりました.生きたサンゴに棲む動物は,死んだサンゴに棲む動物に比べてカラフルな色を持つ傾向がありました.死んだサンゴからは,幼体と思われる生物も確認され,特に巻貝やタカラガイが多く含まれていました.
考察
サンゴ礁は多様な無脊椎動物の住処であり,特に貝類は死んだサンゴに多く見られました.また,巻貝やタカラガイは,幼体時に浅瀬に棲み,成長とともに沖へ移動する可能性が考えられます.生きたサンゴには特定の形状を持つサンゴにのみ棲む貝が見られたことから,サンゴの色だけでなく,形状が生物の生息地に影響を与えていると考えられます.
結論
本調査の結果,喜界島の生きたサンゴと死んだサンゴでは生息している生物に違いが見られ,それらの生物は体の色や形状によって生息環境に適応していることが分かりました.特に,サンゴの形状はその上に棲む生物の選択に影響を与えており,今後もさらなる研究が必要です.
米原凛(北海道科学大学高等学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
安西大地(聖光学院中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
生駒一花(広島県立広島叡智学園・喜界島サンゴ礁科学研究所)
青木香撫(立命館宇治中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
福島幸希(喜界町立喜界小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
中村翔雲(世田谷区立深沢小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
樋口富彦(東京大)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所
キーワード:サンゴ、褐虫藻、白化現象、代謝測定
要旨:
はじめに
サンゴは動物でありながら,体内に「褐虫藻」という藻類が共生している.この褐虫藻は光合成によって作り出したエネルギーをサンゴに提供しており,サンゴにとってなくてはならない存在である.しかし,サンゴは高水温などのストレスを受けると,体内の褐虫藻を放出してしまう.この結果,透明なサンゴの体から白い骨格が透けて見えるようになる(「白化現象」).この研究の目的は,白化したサンゴと白化していないサンゴの違いについて明らかにすることと,褐虫藻のはたらきについて調べて,褐虫藻とサンゴの白化の関係性について調べることである.
方法
サンプルとして,鹿児島県喜界島で採取した,白化しているサンゴと白化していないサンゴを水槽で飼育し,用いた.まず,水槽の水の溶存酸素量(mg/L)を,溶存酸素計を用いて計測した.次に,最大光合成収率(Fv/Fm)を,それぞれのサンゴに光を当てながら調べた.褐虫藻数(個/1㎠)のカウントは,ウォーターピックを使ってサンゴの肉を剥がし,顕微鏡と血球計算盤を用いて,0.0001(㎠=ml)あたりの褐虫藻数をカウントし,それを元に計算した.
結果
白化しているサンゴすべてと白化していないサンゴの半数で溶存酸素量が低下していた.最大光合成収率について,健康なサンゴでは0.6-0.7(Fv/Fm)であるとされているが,本研究のすべてのサンゴで0.4(Fv/Fm)を下回っていた.褐虫藻密度について,健康なサンゴでは100000-1000000 個/1 ㎠であるとされるが,白化していないサンゴでも褐虫藻の密度が低いものもあった.
考察
褐虫藻が増えるとサンゴの光合成が活性化することが分かった.また今回,一見健康に見えるサンゴでも光を当てても光合成しないものが半数あった.これより,ハワイビーチは見た目以上に白化が進んでいると考えた.地球温暖化等により環境が変わるとサンゴにストレスがかかり褐虫藻が減ってサンゴが白化する.すると,海中の酸素が減って,海洋生物は呼吸がしづらくなり,減少してしまう.よって生物多様性が失われてしまう.サンゴ礁の生態系を守るためにも,早急に地球温暖化を抑えることが重要だと考えた.
杉原篤(北海道科学大学高等学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
岩井明里(東京学芸大学附属国際中等教育学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
海老原元紀(渋谷教育学園幕張中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
和田充礼(立命館慶祥中学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
神崎桜夏(霧島市立陵南小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
山田蓮花(世田谷区立明生小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
木村太人(石巻市立蛇田小学校・喜界島サンゴ礁科学研究所)
佐野亘(岡山大)
Evan Gowan(熊本大)
山崎敦子(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所)
渡邊剛(名大・院環境、喜界島サンゴ礁科学研究所、北大・院理、総合地球環境研究所
キーワード:化石、堆積物、地形、モデル
要旨:
はじめに
喜界島をはじめ鹿児島・沖縄の島々は「サンゴの島」と呼ばれ,その周辺には多様なサンゴが現在も生息している.過去の喜界島がどのような環境だったかを知る手がかりは,島内に存在するサンゴの化石にある.海から遠く離れた場所にあるサンゴの化石,海に近い場所にあるサンゴの化石,そして現在も生きている海中のサンゴを観察し比較することで,この島の過去から現在に至る環境変化を探ることができる.本研究の目的は,現生サンゴと化石サンゴの骨格の違いを明らかにすることと,海岸の地形が地震によってどのように変化したかを調べることである.
手法
喜界島の露頭で,サンゴの化石を採取した.喜界島の現生サンゴと,様々な年代の化石サンゴの骨格の微細構造を,走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した.また,喜界島の海岸の段丘地形を,ハンドレベルとメジャーを用いて測量した.将来の喜界島における臨海部を推測するために,100年後の喜界島における海水面上昇を,GISとモデルを用いた計算によって予測した.
結果
現生サンゴの骨格は表面が滑らかで構造がくっきりしていた一方で,海岸の化石サンゴは表面が崩れていたり,針状や粒状の付着物があった.喜界島で1400年前に起こった地震によってできた塩道の段丘の測量結果,段丘の高さは156cm であった.GIS とモデルを用いての予測では,喜界島では93年後に海面が1m上昇するという結果が得られた.
考察
段丘の化石サンゴの骨格表面が,現生サンゴに比べて付着物が多かったり長くなっていたのは,アラゴナイトが淡水で溶けた際に安定したカルサイトとして再形成されたものと考えられる.地震に伴う喜界島の隆起速度(平均しておよそ2mm/年)を考えても,海水準は100年で約1m上昇するため,将来的に喜界島の臨海部は沈んでしまうと考えられる.