フィールドワークの楽しみのひとつは現地での食事ですが,特に東南アジアのフィールドでは魚の発酵食品を使った料理に舌鼓を打つことが多いのではないでしょうか.季節ごと,地域ごとに独特な方法で魚を食べ楽しんできた日本の食においても,魚の発酵食品が郷土料理として受け継がれてきました.

本シンポジウムでは東南アジア・日本それぞれの地域の食を支えてきた魚の発酵食品,中でもへしこ・魚醤を中心に,生産・利用・文化,また現代において注目される機能や魅力について考えたいと思います.

日時:2024年6月30日(日)13:00〜16:30(予定)
   *大会プログラムにより開始時間が変更となる場合がございます.
会場福井県国際交流会館・地下1階・多目的ホール および オンライン配信(Zoom)

*公開シンポジウムのみの参加は無料です.会員に限らず,どなたでもご参加いただけます.
*Participation at the public symposium only is free of charge.
*The public symposium is only in Japanese. 

(JASTE34参加者は申し込みの必要はありません)

プログラム 

*大会プログラムにより開始時間が変更となる場合もございます.

13:00~13:05  開会挨拶 石丸 香苗(福井県立大学)

13:05~13:10  趣旨説明 司会:佐々木綾子 (日本大学)

13:10~13:40 講演1
丸井 淳一朗(国際農林水産業研究センター)
「ラオスの淡水魚でつくる魚醤「パデーク」を美味しく長持ちさせるには?」

13:40~14:10  講演2
山崎 寿美子(愛国学園大学)
「カンボジア農村における発酵食のあるくらし」

14:10~14:40  講演3
木元 久 (福井県立大学)
「福井県・鯖へしこはなぜ旨いのか?」

14:40~15:10 講演4
南 清美(うみの宿さへい)
「福井のへしこ食文化とその継承活動」

15:10~15:30  休憩 (へしこの解体・へしこ料理の試食)

15:30~16:25  総合討論(パネラー:講演者4名)

16:25 閉会挨拶 石丸 香苗


講演要旨 

講演1 丸井 淳一朗(国際農林水産業研究センター)
「ラオスの淡水魚でつくる魚醤「パデーク」を美味しく長持ちさせるには?」

ラオスはインドシナ半島にある内陸国ですが、地下深くの岩塩層から良質の塩が得られたため、大切な食料である淡水魚を熱帯の気候の中でも美味しく長持ちさせる魚醤の製法が古くから発達し、今日まで受け継がれてきました。淡水魚を塩、米ぬかと混ぜ合わせ、ペースト状になるまで長期間発酵させるラオスの魚醤「パデーク」には、日本の「へしこ」にも似た味わいがあります。うま味成分のグルタミン酸や、コメを中心とする食事では不足しがちな必須アミノ酸のリジンなどの遊離アミノ酸を多く含み、パパイヤサラダ、スープ、焼き魚など、「ご飯に合う」美味しいラオス料理に欠かせない万能調味料として使われます。ラオスの農村地域では、身近な水田やため池で捕れた魚でパデークを作り、日々の食事に使う習慣が今も続いていますが、高濃度のヒスタミンによると思われる食中毒が問題になることもありました。我々は、伝統的な製法に従ってパデークを仕込む際の塩分を18%程度に調整することで、ヒスタミンの発生を抑制できることを明らかにしました。本講演では、この製法をラオスの農村で紹介した説明会の様子や、その後の効果を検証した結果についてもご紹介します。0

講演2 山崎 寿美子(愛国学園大学)
「カンボジア農村における発酵食のあるくらし」

私は2007年から、タイと国境を接するバンテアイミエンテェイ州や、ラオスと国境を接するストゥントラエン州の農村地域などで、調査を続けてきました。食の専門家ではありませんが、カンボジアで調査地を探す際に決め手となったのは、現地の食、とりわけ魚の発酵食品でした。その美味しさに魅了され、作り手の暮らしに興味を抱いたのです。
カンボジアはメコン川の下流域にあたり、淡水魚が豊富です。また、雨季の雨水を利用して栽培される稲をはじめ、農業も盛んで、魚と米を中心にした食文化が各地に根付いています。とはいえ、川へのアクセスの良しあし、土壌の良しあしなどによっても、食文化には地域差があります。また、魚と米以外に、畑作物や自生する植物、果樹、畜肉、ヤシなども、カンボジアの食文化を構成する重要な要素ですが、社会変化によって、人々の暮らしで選択されるものが変わってきています。
今回は、魚の発酵食品を中心に、カンボジア農村における魚と米の食文化を紹介するとともに、地域による違いや、近年の社会変化にともなう食の変容についても考えます。

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講演3 木元 久 (福井県立大学)
「福井県・鯖へしこはなぜ旨いのか?」

「へしこ」とは、サバやイワシ、フグに塩を振って塩漬けにし、さらに糠漬けにした福井県若狭地方の郷土料理です。その呼び名は、押し込むことを「圧(へ)仕込む」というところからきた説や、イワシを「ひしこ」とも言うことから、それがなまって「へしこ」になったという説があります。「へしこ」の食べ方は、糠を軽く落とし火で炙ったものはお茶漬けや酒の肴として好まれ、加熱せずにそのまま刺身で食べることもできます。江戸時代中頃が起源とされており、現代では塩と米糠だけでなく、塩漬け後に生じる魚醤、醤油、味醂、焼酎、酒粕なども味付けに用いられています。こうした漬けダレの配合比率や、生産する地域の漬け方により、その味は地域や製造業者ごとで微妙に異なっており、食べ比べてみるのもおすすめです。
発酵食品は、ヒトの生活に役立つ微生物の機能を教えるのに適した教材です。福井県立大学 創造農学科では、若い世代への食文化の継承と食育を目的として「へしこ作り」の調理実習を行っています。本講演では、学生達の作業風景とともに、微生物がどのように鯖を発酵させるのか?「へしこ」の美味しさとは何か?についてご紹介いたします。0

講講演4 南 清美(うみの宿さへい)
「福井のへしこ食文化とその継承活動」

福井(越前・若狭)は「越山若水(えつざんじゃくすい)」と言われ、緑豊かな山々と清らかな水が美しい自然に囲まれた土地です。また、お椀の様なかたちをした若狭湾は、複雑に入り組んだリアス式海岸と急流で流れの速い一級河川からの伏流水により、天然の養殖場の様になっています。
かつて若狭地方は、伊勢志摩、淡路とともに「御食(みけつくに)」の一つとして、朝廷(天皇)に「御賛(みにえ)」(食材のこと)を献上することが許された土地でした。「京は遠ても十八里(約80km)」という言葉がありますが、海産物は、塩漬けにされたり、麹付けにされたりして京の都に運ばれました。この小浜市と京都を繋ぎ、若狭湾の海産物を運ぶルートは、「鯖街道(さばかいどう)」と呼ばれています。鯖に塩を一振りして、夜を徹して京都まで運ぶと、塩加減がちょうどいい塩梅になっています。このような食文化の中に「へしこ」の源流があるのではないかと考えています。
本講演では、うみの宿「さへい」が行っている、「へしこ作り」や「レシピ開発」、「継承活動」、「へしこをきっかけとした観光振興」についてご紹介いたします。0