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ご参加いただいた先生方には抄録集および参加証明書をお渡しいたします
産業医科大学医学部 第1内科学講座 准教授
中山田 真吾先生
自己免疫疾患の病態形成には複雑な免疫異常が関与するが、その治療はグルココルチコイドや免疫抑制薬などの非特異的な免疫抑制療法が中心である。これらの治療は免疫システムを広範に抑制することで急性期の予後を改善させたが、治療抵抗例も存在し、再燃および薬剤毒性による患者QOLの低下、臓器障害の進行など長期的な治療戦略においてアンメット・メディカル・ニーズが未だ存在する。
このような背景から、創薬ターゲットは非特異的な免疫抑制薬からサイトカインや細胞内シグナル分子などに関わる分子標的薬へシフトした。一方、動物モデルで同定された病原性の細胞や分子を標的とした治療はヒトの疾患に必ずしも有効ではなく、ヒトを対象とした病態解析の重要性が強調されてきた。自己免疫疾患は免疫学的にheterogeneityが高く治療標的とする分子が多様であり、precision medicineへの期待が大きい。すなわち、臨床像だけではなく患者ごとあるいは患者集団ごとの免疫異常に応じた治療薬を選択できれば、高ベネフィット低リスクの治療が可能となる。
当講座では、世界に先駆けて自己免疫疾患患者を対象に末梢血免疫フェノタイピング解析に取り組み、病態に関与する細胞やシグナルの異常、既存治療に抵抗性の亜集団の存在を明らかにしてきた。今後続々と登場する多種類の分子標的薬の有効性を最大限に高めるためには、薬剤の使い分けを含む新しい治療体系、治療戦略の構築が必要である。多様性が高い自己免疫疾患では特に重要な課題であり、免疫フェノタイピングによる解析が分子標的の妥当性の評価、さらには適切な治療標的を症例ごとに選択するprecision medicineの一つのツールとして期待される。
本講演では、免疫フェノタイピングによる自己免疫疾患研究について、当科の成果を振り返りつつ、今後の展望を議論する。
日本リウマチ学会理事長・日本臨床免疫学会理事長・日本臨床リウマチ学会理事長
産業医科大学医学部 第1内科学講座 教授
田中 良哉先生
全身性自己免疫性リウマチ性疾患(膠原病リウマチ疾患)は難治性疾患とされてきた。しかし、病態形成過程に中心的に介在する細胞表面抗原やサイトカイン等が解明され、欧米では1998年、日本では2003年に、関節リウマチに対して最初のTNFを標的とした生物学的製剤が導入された。この分子標的治療薬の黎明期である2000年に教授に就任し、これらの治療薬の適正使用や啓発に努めながら、治療の急激な変革と共に歩んできた。
海外とのドラックラグをゼロにするという志を持って、関節リウマチに対する内服可能なJAK標的阻害薬、全身性エリテマトーデスなどの膠原病に対する生物学的製剤等の国際開発に積極的に参画してきた。その結果、関節破壊や臓器障害を生じない寛解が達成すべき治療目標となり、ガイドラインや治療勧告の改訂が急速に進行しつつある。また、副作用が多く非特異的なグルココルチコイドを中心とした治療を脱却し、選択性の高い分子標的治療薬を用いた治療が主流となりつつある。
一方、分子標的治療薬の使用開始時には、適応や禁忌などを慎重にスクリーニングし、治療中は有害事象の定期的なモニタリング、有害事象発生時の速やかな対応が不可欠であり、当科のFIRST registry等ではこれらを実践してきた。また、治療薬の短期・長期的な安全性や経済性、難治症例や臓器障害への対応、コロナ禍での医療等の臨床的課題も残存している。多職種連携を介した個々の症例に応じた治療戦略の策定、的確な治療薬の選択、随伴症・合併症の全身管理と対策の重要性がさらに増している。
分子標的治療薬の魅力は、病態で最も重要な分子をピンポイントで攻撃できることにある。膠原病リウマチはheterogeneityが高いが、分子標的薬の使い分けにより高い治療効果を発揮させるprecision medicineで克服の可能性が拡がる。一方、長期的な安全性や経済性を鑑みると、寛解後休薬、ドラッグホリデーを考慮する必要がある。その先には疾患治癒(無治療寛解維持)があるはずで、CAR-T療法やT-cell engager療法には、免疫系の再構築を引き起こして治癒を目指せる可能性が示唆されている。これらの目標達成のためには、multi-omics解析による臨床、免疫、遺伝子情報などの邂逅やAIを用いた解析が必要である。今こそ志のある若い医師の参集を心から期待したい。