Research
Research
微生物を用いた雑草防除を対象に、新規微生物の探索と、微生物–雑草相互作用の理解に取り組んでいます。
効果の有無だけでなく、どの条件で機能し、どこに限界があるのかを説明できる知見の構築を重視しています。
単一の成功例に依存せず、後から検証・判断できる形で研究を積み上げることを目指しています。
1) 微生物除草剤候補菌株の探索
私たちは、牧草地の難防除雑草であるギシギシ類(Rumex spp.)に対して選択的に除草活性を示す病原糸状菌 Teratoramularia rumicicola TR4株を分離しました(Izumi and Sato, 2025a)。TR4株は宿主域試験において牧草類で明瞭な病徴が認められず、さらに液体培養に適することから、微生物除草剤の実用化でボトルネックとなりやすい「安全性」と「大量培養性」を同時に満たす可能性がある有望株です。T. rumicicola は2016年に新種記載された比較的新しい種で、基礎情報が限られています。そのため、既報株とは異なる性質を示す可能性も視野に入れつつ、候補菌株の探索と基礎的な特性評価を進めています。
また、新規分離株の探索に加え、遺伝資源センターに寄託された菌株についても評価を進めています。例えば、1996年に小笠原諸島・母島で分離されたT. rumiciciola GR1株についても、TR4株と同様に微生物除草剤として有望であることを報告しました(Izumi and Sato, 2025b)。これらの研究を通じて、牧草地雑草に対する実用性の高い微生物除草剤候補菌株の発掘に挑戦しています。
T. rumicicolaによるR. japonicusの生育抑制
2) 微生物–雑草相互作用の解明
私たちはTR4株を対象にゲノム解析を行い、Teratoramularia 属で初報告となるゲノム配列を公開しました(Izumi et al., 2026)。このゲノム情報を基盤として、計算機解析や分子生物学的手法を組み合わせ、TR4株が除草活性を発揮する分子機構を遺伝子レベルで解き明かすことを目指しています。さらに、天然物化学的手法による植物毒素の構造解析に加え、除草剤科学で培った活性評価・作用機構解析の知見(Izumi et al., 2021)も方法論として活かしながら、生化学的手法により枯死過程の動態解析に取り組みます。除草活性の分子機構を遺伝子・物質・代謝レベルで統合的に理解することで、微生物除草剤の実用化におけるボトルネックである「除草活性強度」や「活性発現の安定性」に資する知見の獲得を目指しています。
また、ギシギシ側がTR4株に対して示す防御応答についても同様に解析し、病原菌側・宿主側の双方に着目して、病原性や選択性がどのように成立するのかを“相互作用”として理解することを目指しています。これらの知見は、微生物防除を評価・設計する上での基盤情報になると考えています。
3) 微生物除草剤研究の展開を踏まえた構造整理と検討
微生物除草剤に関する研究は、これまでにも多くの試みが行われてきましたが、効果の再現性や適用条件、評価方法などを巡って、必ずしも一貫した理解が共有されているとは言えません。本研究では、これまでの微生物除草剤研究の歴史や蓄積された知見を踏まえ、病原性、宿主範囲、使用条件、環境中での挙動など、微生物除草剤を構成する要素を整理し直すことを試みています。探索研究や相互作用研究で得られた知見を位置づけることで、微生物除草剤をどのように評価し、議論すべきかという枠組みの明確化を目指しています。