Research
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微生物を利用した新たな雑草防除技術の創出を目指し、微生物除草剤(microbial herbicide)と微生物–雑草相互作用を研究しています。病原微生物を探索して「効く菌」を見つけるだけでなく、なぜ雑草に作用するのか、なぜ特定の植物に選択的に作用するのか、なぜ菌株や環境条件によって性能が変化するのかを明らかにすることに関心があります。そのため、病原性評価に加えて、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析、天然物化学、生化学的解析などを組み合わせ、病原菌と雑草の相互作用を遺伝子・物質・生理の各階層から理解することを目指しています。さらに、こうした基礎的理解を微生物除草剤の性能評価や利用技術の構築につなげ、より有効で安定した雑草防除技術へ発展させることが研究の大きな目標です。
1) 微生物除草剤候補の探索と特性評価
牧草地の難防除雑草であるギシギシ類(Rumex spp.)を主な対象として、微生物除草剤として利用可能な植物病原微生物の探索と特性評価を行っています。私たちは、ナガバギシギシ(Rumex crispus)から分離された病原糸状菌 Teratoramularia rumicicola TR4株が、複数のギシギシ類に強い生育抑制作用を示す一方、宿主域試験に用いた牧草類には病徴を示さないことを報告しました(文献1)。また、TR4株は液体培養が可能であり、微生物除草剤の実用化で重要となる選択性と大量培養性の両面から有望な菌株と考えています。
T. rumicicola は2016年に新種記載された比較的新しい植物病原菌で、その生態や病原性、分布に関する知見はまだ限られています。そこで、新規分離株の探索に加え、遺伝資源として保存されている菌株の再評価や、Teratoramularia 属菌の多様性・分布の把握にも取り組んでいます。例えば、1996年に小笠原諸島・母島のギシギシ(Rumex japonicus)から分離されたGR1株を再評価し、T. rumicicola と再同定するとともに、複数のギシギシ類に対する病原性を明らかにしました(文献2)。
こうした研究を通じて、ギシギシ類に関わる植物病原微生物の分布や多様性を明らかにし、未利用の微生物資源を発掘・再評価することで、実用性の高い微生物除草剤候補の探索につなげることを目指しています。
[関連文献]
1. Izumi M, Sato T. 2025. Weed Biology and Management. (Link)
2. Izumi M, Sato T. 2026. Journal of General Plant Pathology. (Link)
2) 微生物–雑草相互作用と除草活性機構の解明
微生物除草剤を理解し、安定して利用するためには、単に「効く」ことを示すだけでなく、病原菌と雑草の相互作用が、どのように選択的な生育抑制や枯死につながるのかを明らかにする必要があります。
私たちはTR4株のゲノム解析を行い、Teratoramularia 属で初めてとなるゲノム配列を公開しました(文献3)。このゲノム情報を基盤として、菌株間の比較ゲノム解析やトランスクリプトーム解析を行い、宿主認識、感染、病原性に関与する遺伝子や代謝経路の探索を進めています。また、病原菌側だけでなく、ギシギシ側の応答にも着目しています。病原菌が宿主をどのように認識して感染を成立させるのか、反対に植物がどのような防御応答を示すのかを双方から解析し、菌株間・植物種間にみられる病原性や感受性の違いがどのように生じるのかを明らかにすることを目指しています。
さらに、感染後に植物の生育が抑制され、枯死に至る過程についても研究しています。天然物化学的手法による植物毒素の探索・構造解析と、生理生化学的手法による障害過程の解析を組み合わせ、遺伝子、代謝物、植物応答、最終的な除草活性を一つの流れとして理解することを目指しています。これまで除草剤作用機構の研究で培ってきた、酸化障害、脂質過酸化、細胞膜損傷などの解析手法も活用しながら(文献4)、微生物による植物障害の特徴を明らかにしていきます。
[関連文献]
3. Izumi M, Oka T, Sato T. 2026. Microbiology Resource Announcements. (Link)
4. Izumi M et al. 2021. Weed Biology and Management. (Link)
3) 微生物除草剤の性能理解と利用技術の展開
微生物除草剤の実用化には、高い除草活性だけでなく、その効果を安定して発揮できることが重要です。本研究では、微生物除草剤の性能を左右する要因を明らかにし、その理解をより効果的な評価・利用方法の構築につなげることを目指しています。
特に、培養条件や施用条件、環境条件などによって除草活性がどのように変化するのかを解析し、活性強度や安定性を規定する要因を明らかにします。また、実験室や温室で得られた知見を実際の利用環境で検証するとともに、植物間競争や群落内での相互作用も考慮し、微生物による生育抑制が実際の雑草管理にどのようにつながるのかを評価していきます。さらに、既存の雑草管理技術との組み合わせや異なるストレスの相互作用、異分野の技術や新たなアプローチも取り入れながら、微生物除草剤の新しい利用方法を探っています。
こうした研究を通じて、微生物除草剤を単に「効く菌」として評価するだけでなく、その性能を実際の利用環境や植物群落の中で理解し、さまざまな技術と組み合わせながら、新たな雑草管理へ展開することを目指しています。
Perspective|微生物除草剤をどう捉えるか
微生物除草剤には長い研究の歴史があり、雑草に高い除草活性を示す候補微生物について、これまで数多くの研究が報告されてきました。しかし、その研究の蓄積に比べて、実用化や普及はほとんど進んでいないのが現状です(文献6, 7)。 この背景には、「基礎研究として有望な菌を見つけること」「実用可能な製品に仕上げること」「実際の雑草管理で継続的に利用されること」の間に、大きなギャップがあると考えています。培養・製剤化、効果の安定性、安全性、施用方法、経済性、社会受容など、研究段階ごとに異なる課題があります。そのため、単に候補菌を探索して除草活性を示すだけでなく、基礎研究から製品化、実際の利用までを見据え、何が障壁となるのかを考えながら研究を進めることが重要だと考えています。
こうした課題へのアプローチにも、さまざまな考え方があります。化学除草剤に近い性能を目指して微生物除草剤を高度化することも一つです(文献7)。一方で、宿主特異性など微生物ならではの特徴を活かし、化学除草剤とは異なる役割を担う雑草管理技術として位置づけることも考えられます。私は化学除草剤の作用機構研究や研究開発に携わった経験も踏まえ、現在は特に後者の可能性にも注目しており、牧草地のギシギシ類をモデルとして、 短期間で完全に枯殺するのではなく、生育や競争力を選択的に低下させ、植物群落の中で長期的に抑制する利用方法を検討しています(文献5)。微生物の作用を植物間競争や植生管理の中に位置づけることで、新たな利用の可能性が見えてくると考えています。
微生物除草剤には一つの完成形があるとは考えていません。何を明らかにすべきか、どのような性能を目指すべきか、そして微生物だからこそ可能な雑草管理とは何かを考えながら研究を進めています。
[関連文献]
5. 泉真隆, 佐藤豊三. 2026. 植調 60(4): 110–115. (Link)
6. 泉真隆. 2025. 生物的防除部会ニュース 84 17-23. (Link)
7. 泉真隆, 岡崎伸. 2024. 植調 58(4) 110-115. (Link)