【シンポジウムの趣旨】
日本の自然を特徴づける水田の生き物といえばメダカやドジョウを思い浮かべるだろう.これらはいずれも泥底の温かい水を好む南方起源の淡水魚である.日本の里山は水田とそれを取り巻く雑木林,田んぼを潤す小川のつながりにより微妙に調整されてきた.そのバランスこそ伝統的に日本の自然の美しい景観を醸成してきた.ホトケドジョウは山から湧き出す水を好み,山間の里山環境によく適応しているいわば北方起源の淡水魚である.メダカが水田のシンボルフィッシュと言うのなら,ホトケドジョウは里山のシンボルフィッシュと言えるだろう.ところが,ホトケドジョウは各地で急減し,地域の個体群は絶滅に瀕している.その原因は,圃場整備や過剰な開発,反対に棚田の放棄など里山環境の荒廃にあることは言うまでもない.残念なことに本種はメダカにくらべれば認知度が低く,保全の取り組みも遅れている.本シンポジウムでは,最初にホトケドジョウ属魚類の系統・分類について整理し,次いでナガレホトケドジョウとホトケドジョウの分化を例に,日本特有の里山を舞台にしたホトケドジョウ属魚類の進化生態を詳しく解説する.さらに保全の実情について紹介し,日本の里山の望ましいありようを問いなおす.
本シンポジウムは一般公開です(魚類学会非会員の方も視聴できます).視聴はZoomです.
入室の際はマイクを必ずオフにしてください.
コンビーナー:細谷 和海(近畿大学)・宮崎 淳一(山梨大学)・井藤 大樹(徳島県立博物館)
司会進行:井藤 大樹
1.細谷 和海: 隠れた里魚ホトケドジョウ(趣旨説明)
2.亀井 哲夫: ホトケドジョウの名前の由来
1.井藤 大樹: ホトケドジョウ属魚類をめぐる近年の分類事情
2.宮崎 淳一: 遺伝子から見たホトケドジョウ属魚類の類縁関係
休憩 (12:00–13:00)
1.青山 茂 : 個体識別から見たナガレホトケドジョウの生態
2.井藤 大樹: ナガレホトケドジョウ斑紋型と無斑型の分布
3.宮崎 淳一: 第2のナガレホトケドジョウ,トウカイナガレホトケドジョウ
休憩 (14:30–14:45)
1.北川 哲郎 : ラムサール登録湿地の中池見湿地のホトケドジョウ
2.勝呂 尚之 : 神奈川県生田緑地におけるホトケドジョウの保全活動
3.山科 ゆみ子: 兵庫県丹波地方におけるホトケドジョウとナガレホトケドジョウの保全活動
座長:細谷 和海
宮崎 淳一